147.勇者ツバサの君の日々パート3~勇者side~
3人と別れ、王城の図書館へとやって来た。
この世界に来てからの日課だ。
元の世界に帰る方法を探る為に、色々な本を見て回っている。
それに勇者という事もあって、監視付きだけど本来なら閲覧禁止の書物も見る事も出来る。
正直、先代勇者も元の世界に帰れたのか分からない。
先代勇者の伝記も。
最後は魔王を倒し、仲間と共に再び旅に出た。としか書いていない物が大半だった。
いやーほんと、何も分からない。
元の世界に帰る情報が1つも手に入らない。
⋯⋯今日は閲覧禁止の本を中心に見ようかな。
そう思い、厳重に管理されている扉へと向かった。
〈収納魔法〉から、鍵を取り出し、扉に差し込む。
鍵を差し込むと、魔法陣が浮かび上がり扉の鍵が解除された。
この扉は特定の鍵にしか反応せず、無理やり開けようとすると、すぐ様お城中に警報がなるそうだ。
扉を開け中に入る。
すると、部屋の片隅に待機していた球体が浮かび、近寄って来た。
この球体が、監視の役目を担っている。
要は追尾式監視カメラの様な魔道具らしい。
ここに入ってきた人物を記録し、随時図書館にある管理室へと記録が転送される。
周りをフワフワ浮いているだけなので、特に邪魔になるということも無い。
今日はどれを読もうか⋯⋯。
適当な本を手に取り、ページを捲る。
これは⋯⋯、料理のレシピ本か。元の世界で見た事のある様な、料理の完成図が綺麗な絵で書かれており、その横に材料と作り方が記載されている。
なんで閲覧禁止の所にこんな本が?⋯⋯そうか、この世界ではこういったレシピは人前に出さないものか。
家庭料理のような、口頭で教えられる様な簡単なモノならば世間に出回るだろう。
しかしお店で食べる様な、複雑な工程を経て作られる料理のレシピは、基本口外しない。文字通り飯のタネだからである。
あの店だから食べられる料理というのは、商売をする上で必要なものであり、レシピを人に教えるなんて事は、絶対に有り得ない。
真似をされた所で、肝心な箇所が分からなければ、それは別の料理になってしまう可能性がある。
この本に書いている料理も、このお城の中で何度か食べた事のある物ばかりだ。きっと王族専用のレシピ本なのだろう。
パラパラとページを捲り、本を閉じると、著者の名前が目に入った。
「シズク・ミズノ」
思わず声に出るその名前。
僕のひとつ前の勇者。
100年程前に、異世界から召喚されたという人物だ。
当時は、魔王と呼ばれる存在が居たらしく、その影響で争いが絶えない世界だったという。
魔王。
確か⋯⋯、読んだ本の中にこう書かれていたっけ。
最悪の加護を得し者。
魔物を使役する祝福を持った者。
精神が発狂する呪いを持った者。
この世界に存在する加護という、産まれ持った特性。その中でも、最悪と呼ばれる組み合わせをしていたという。
幼い頃は呪いの影響が殆ど無かったそうだが、歳を取るにつれ発狂する間隔が短くなり、遂にはその精神が壊れてしまい。手当り次第に魔物を使役し、破壊を振りまく存在になってしまったと書かれていた。
その魔王を3人の仲間と共に打ち倒したのが、シズク・ミズノ。
魔法を創造するスキルを持つ、異世界の勇者。
読んだ本には、仲間に対して口癖の様に「ぶっ殺すぞ」と言っていたらしい。そんな物騒なセリフを吐く割に、仲間との仲は良いとも書かれていた。
多分、じゃれ合い的な意味で言ってたんだろうな⋯⋯。
はたして彼女は、無事に元の世界へと帰れたのだろうか⋯⋯。
色々な本を読んでみたが、どれも最後は行方が分からなくなったとしか書かれていない。
他の仲間についても同じ。いや⋯⋯、1人は違うか。
血濡れの魔女として、後世に名を残した女性。
美しい銀髪を靡かせながら、氷の魔法を扱う。性格は粗暴で喧嘩っ早く、カカカカと笑いながら真っ先に敵目掛けて突っ込んで行ったと書かれていた。
かなり個性的な人だったんだろうなぁ⋯⋯。
そんな彼女も、理由は分からないが。自身が住んでいる地域の領主を襲い、屋敷に居た人間を皆殺しにしたという。
そういえば、[白金]ランクの冒険者の中に、血濡れの魔女と呼ばれる人物が居ると聞いた事があるな。
氷を使う薄桃色の髪をした女性だっけ。ニノがあの女はヤバいとか言ってたっけか。
まぁ、今後会う機会は無いだろうし。別に気にしなくてもいいかな。
レシピ本を本棚に戻し、別の本を手に取る。
えーっとこれは⋯⋯、『ダンジョン産魔道具一覧』か。
ダンジョンか、確か王都の近くに幾つか有るんだっけ。
ダンジョン。
この世界に幾つも存在するという、地下に広がる迷宮。
その存在は謎に包まれており、研究はされているらしいが、完全に解明するという事は、不可能と結論付けられている。
ダンジョンは場所によって、さまざまな種類がある様で、内部には魔物が蔓延り宝石や鉱石、中には魔道具の入った宝箱も有るのだそうだ。
一攫千金を夢見た冒険者が日夜挑み、ある者は財宝を、ある者は死を、入る者の欲望を貪るのが目的の様に存在し続けている。
この本はそんな、ダンジョン産の魔道具が乗っている本なのだろう。
ページを捲り中を確認する。
へぇ、色々な物が出るんだ⋯⋯。
その本には、ダンジョンから今まで出て来たと言う魔道具が、イラスト付きで記載されていた。
対になる丸い鏡同士で通信が出来る魔道具。
装備を収納し、直ぐに装備できる腕輪。
一定の範囲の音を消し去る箱。
威力を10分の1にするグローブ。
ページを捲り続け、少しでも元の世界に帰れるような魔道具は無いかと調べる。
うーん⋯⋯。あんまりいいのが無いな。
どれもこれも、冒険に役立つような物ばかりで、肝心の異世界の扉を開く様な魔道具は無さそうだ。
そんな中、あるページで手が止まる。
⋯⋯これは。
そのページに掛かれた魔道具を食い入る様に見つめる。
自分の鼓動が高鳴るのを感じた。
これだ、これが手に入れば⋯⋯、僕の願いの1つが叶う。
〈収納魔法〉から、ノートと筆記用具を引っ張りだし、そのページを書き写す。
間違いがあってはいけない、細かい所まで模写するんだ。
ノートにそのページを書き写すと、本を閉じ、元の場所へと戻した。
今日はこれ位でいいだろう。
異世界へと帰る方法はまだまだ見つからないが、これさえ手に入れば僕がこの世界に来た理由が出来る。
先ずは、自称魔王とやらを倒して、コレを探す為の時間を作らなければいけない。
その為なら、なんだって利用しよう。3人には悪いが、手伝ってくれるというのなら力を借りよう。
しかし⋯⋯、多分王族の力は借りられないだろう。ライラ様が納得してくれない可能性が高い、というかしないだろう。
「ふふふ⋯⋯」
自然と笑いが零れた。それもそうだ、夢にまで見た物が手に入るかもしれないのだ。
元の世界では、到底理解されないであろう代物。それがこの異世界で手に入る。
久しぶりに楽しい気分のまま、閲覧禁止の部屋を後にした。
******
丸い球体は見ていた。
異世界より来た勇者が何を調べていたのか。
感情の無い無機質なその瞳は、あるページの内容を管理室に送信していたが。
そこを管理する者が、その内容を見る事は無かった。
もとより、あの部屋にある本の重要度は低く、誰でも自由に見る事が出来ないという程度のものなのだ。
それに、本当に見せてはいけない本は、別の場所に保管されている。
そして大臣からも言われていた、あの部屋で読んだ本を一々コチラ側に報告する必要はないと。
そういった理由で管理人は、その記録を見る事はしない。そうする必要がないからだ。
丸い球体が見ていたそのページ。
魔道具の名は。
『性別変換の薬』
そう書かれていた。
次回より、主人公組に戻ります。
TSっていいですよね。




