146.勇者ツバサの君の日々パート2~勇者side~
午前の訓練が終わり、昼食の時間になった。
昼食の際、僕達4人は何故かライラ様と一緒に食べる事が多い。
何故そうなっているのか、理由はライラ様が一緒に食べたいからだという。
なのでメニューも、ライラ様が1番豪華で、僕達はワンランク下の物が出される。
3人からしたら、とんでもないご馳走様なので、昼食の時間が楽しみだという。
そろそろ日本食が食べたいが、醤油や味噌、米といったものはこの国には無いようだ。残念⋯⋯。
似たような物を仕入れて貰ったが、やはり何処か違う別の代物だった。
食に関しては、良い物を食べさせてもらっているので、あまり文句は言えない。
そんな昼食時に、ライラ様が口を開く。
「ツバサ様、今日はどのような事をされたのですか?」
これもいつもの事で、午前中にあった出来事を聞いてくる。
申し訳ないが、いつも同じ内容なんだよね、やること変わらないし。
「そうですね。今日はニノが結構粘っていたましたね。それ以外ですと、団長さんと打ち合いましたが、まだまだ敵いませんね」
「そんな事があったのですね。私のほうでは——」
これも何時もの事で、ライラ様が今日何をしたのか語ってくれる。
正直この話が、昼食時の会話の八割を占める。
なので、僕は適当に相槌を打ち機嫌を取る。
空も言っていた、「女相手なら、翼はニコニコ笑って、相槌を打ってれば何とかなる」と。実際その通りになることが多い。
つまらない話を聞く位なら、空と喋っていたいのにね⋯⋯。
3人は無言で、目の前の料理を食べ続けているし、完全に対応を僕に投げている。まぁ、いいんだけど⋯⋯。
◇
昼食が終わり、午後の訓練の時間になった。
午後は宮廷魔術師主導による、魔法の訓練だ。
基本座学から始まり、実技に移る事が多い。
魔法の発動する原理など、難しい話が多く、脱線する事も多い。
専門的な人は、こういう人達が多いのかな?
実技では、魔法のコントロールを主に行う。
狙った所に正確に当てる、ということを繰り返す。
これが結構難しい。
特に僕の属性は『雷』だ。
放たれる雷は、ジグザグに進んでいく為、的から逸れ変な方向へ飛んで行くことがある。
流石に3ヶ月も続けていれば、コツを掴む事が出来るので、今では狙った所に当てることが出来る。
それに、どうやら僕の魔法の形態はこの世界のそれと少し違うようで⋯⋯。
的に向け、掌を向け唱える。
「〈雷撃〉」
掌の先から、魔力によって作り出された雷が迸る。
バリバリと音を立てながら、不規則な動きで空気中を進み、的に命中すると一撃で破壊し、その余波で周りの地面を黒く焦がした。
雷を出した手からは、バチバチと雷の残滓が纏わりつく。
そう、これが僕の魔法だ。
僕の魔法は発動する際に、魔法陣が発生しない。
他の人達は、魔法を使う際その属性に合った色の魔法陣が浮かび上がり、そこから魔法が放たれる。
僕の場合はそれが無い。
最初はスキルなんじゃないかとも思ったが、宮廷魔術師の人達いわく。
先代勇者も魔法を使う際は、魔法陣が出なかったと言い伝えられている。
それならこれは、異世界から来た人間特有のものなのだろうか。
まぁ、ハッキリ言って理由は分からない為、そういうモノとして考えるしかない。
それにもう1つ違いがある。
スキルや魔法を覚えるには、レベルを上げるしかないというが、僕は訓練中に頭の中に声が響き。
レベルが上がった訳じゃないのに、いきなりスキルや魔法が身に着いている。
この事も話したが、これまた原因は不明。
異世界から来た勇者だからだ、という事で納得するしかない様だ。
他にも。
空中に足場を作るスキル〈エアリアル〉
雷を一時的に纏い、一瞬で間合いを詰める〈迅雷風烈〉
周囲に電撃を放つ〈側撃雷〉
広い範囲を襲う雷の一撃〈雷霆万鈞〉
無数の落雷が相手を襲う〈万雷神解〉
そして、切り札が1つ。
今の僕が使えるのはこれ位だ。
どれも雷を主としたものが多い。
魔法の威力に関しては、まだ的にしか撃ったことが無い為、人や魔物にどれ位の威力が有るのかがわからない。
一応、的を粉砕できる位の威力はある為、それなりの威力は有ると思う。
そんな感じで、午後は魔法の使い方を主に訓練する。
アインは魔法が苦手なようで、火と土の属性を持っているが覚えているのも2つしかないという。
ニノは流石に、最年少の宮廷魔術師なだけあって、火水風土の4種類の属性を使う事が出来る。
ミカサは、光属性の1種類だけで、回復魔法が得意だという。一応攻撃に使える魔法も幾つか覚えているそうで、戦闘面でもそれなりに戦えるようだ。
「やっぱり魔法をぶっ放すと気持ちいいわね~!」
ニノが上機嫌にそう言う。
「俺は剣を振る方が性にあうんだけどなぁ」
「ニノさんの魔法は相変わらず、すごいですね。私も頑張ります!」
そんなやり取りをしながら、的に向かって魔法を放っていた。
すると、団長さんがやって来た。
「よ~う。訓練中に失礼するぞ。急で悪いが明日は訓練休みにする事になった。しっかり体を休めといてくれ~」
訓練が休み?今までそんな事は無かったのに⋯⋯。
団長さんにアインが近づき。
「団長。何かあったんですか?」
「ああ。王都の近くで『狂王神教』を見かけたと連絡があってな。その対応をする事になった」
「『狂王神教』って確か最近色んな町で噂になってる奴ですか?」
「そうだ。王都で問題を起こされる前に対処しなきゃいけないからな。明日は俺達が出張って潰してくるわ」
狂王神教⋯⋯。
たしか、最近急に現れた謎の集団だっけ。
「んじゃ。俺は行くから、明日はしっかり休めよ~」
そう言って団長さんは足早に去っていった。
団長さんを見送った僕達だったが、ニノがアインを見ながら言った。
「⋯⋯あれ?アイン、アンタは行かなくていいの?」
「団長のあの口ぶりだと、俺も休めって事だろ。それより『狂王神教』っての宮廷魔術師と教会で何か知ってる事あるか?」
「すいません。教会からは特に何も聞いてませんね⋯⋯」
「あー、うちは最近変な魔物の死体が運び込まれてるかな。なんかデカい鉱石喰らいの奴なんだけど」
「⋯⋯その鉱石喰らいってどんな奴なの?」
初めて聞く名前の魔物だ、名前のイメージ的に鉱石を食べる感じかな。
「あー、ツバサは知らないよね。ルクバトウ鉱山都市って所で何年かおきに、その鉱石喰らいっていうサソリみたいな魔物が押し寄せてくるんだけどね。普通は1~2m位しかないんだけど、この前運び込まれてきたのは10m位の大きさがある奴なんだよね~」
「10m⋯⋯そんな大きいのもいるの?」
「いやいや、そんな大きいの今回のが初めてだし。何より人間の上半身が頭の上にくっ付いてるっていう変な個体なんだよね」
「人間の上半身?なんだそりゃ」
「私もそういう魔物は初めて聞きました」
2人の反応からして、かなり変な個体の鉱石喰らいって事か。
ニノが続ける。
「そうそう。研究する為に色々してるらしいんだけど、殻がものすごく硬いんだって。普通の鉱石食らいからでは考えられない位の硬度らしいんだよね」
なるほど、その鉱石喰らいにも『狂王神教』という連中が関わっているのか⋯⋯。
そして何やらニノは興奮しながら続ける。
「それでね!なんとその鉱石喰らいを[鉄]ランクの冒険者6人で倒したっていうんだよね!私達でも苦労する殻に、何個も穴開ける位の強さを持ってるんだって」
「ほーん。何て名前の奴らなんだ?」
「あー、どうも取りに行った人達が、死骸に夢中でその辺聞いてないらしくって⋯⋯。どんな人達だったかもわかんないんだよね」
「なんだそりゃ」
ほんとなんだそりゃ、だ。
どんな人達だったんだろうか⋯⋯。何故か不意に空の顔が浮かんだ。
⋯⋯フフフ、それは無いよね。
「意外と抜けてる人達だったんですね」
「まぁ、気持ちわかるけどね⋯⋯」
研究者魂って奴だろうか、一応そういう魔物を研究する人達は専門に居るが。宮廷魔術師も兼任しているという人が多いと聞く。
ニノもそんな感じなのだろうか。
それにしても、なんだか訓練をする空気じゃなくなった気がする。
そろそろ陽も傾きだす時間帯か。
「今日はもう終わりにしようか」
僕がそう言うと。
「そうだな。一応俺も団長に詳しく話聞いて来るわ」
「私は研究所の方に顔出してこようかな」
「私も一度教会へ行きたいので、その方が助かります」
よし。なら今日はもう終わりにしよう。
「じゃあ解散って事で」
「おう」
「じゃーねー」
「これにて失礼します」
3人はそれぞれ別の方角へと歩き出した。
僕も何時もの所に行くかな。
僕は3人に背を向け、王城の図書館へと向かった。
次回「勇者ツバサの君の日々パート3~勇者side~」




