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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
パーティ結成編

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145.勇者ツバサ君の日々~勇者side~

 この世界に来てから、もう3カ月が経過していた。


 空と一緒に学校へ来たと思ったら、突然光に包まれ。

 この異世界に来ていた。


 訳が分からない状況のまま、戦闘訓練や魔法の訓練を続けている。


 確か、魔王を名乗る人物が、勇者を連れてくるように言ってるとかだっけ?

 正直その辺の理屈が僕には分からない。

 なんで勇者なんだろうか。

 一々待たなくても、自分から来たら良いんじゃないかな?

 それに期限を、半年としているのも良く分からない。

 様子を見に来る位はしてもいいと思うんだけど、そんな気配も今のところはないみたいだいし。


 まぁそんな訳で、僕は今。

 異世界での日々を送っている。


 ◇


 僕は王城にて宛がわれた、一室で寝起きをしている。

 フカフカのベッドに、高そうな調度品。

 日本の僕の自室とは、比べ物にならない程の豪華さ。


 外から鐘の音が聞こえてきた。


「起きてください、勇者様」

 そう言って起こしに来たのは、僕専属だというメイドさん。

 何故か頑なに、名前を教えてくれない。

 一度言われたのが、深い仲になるのを防ぐためだとか。

 深い仲になる事なんて、あり得ないんだけどなぁ。正直興味ないし。

 個人を特定するという意味で、知っておきたかっただけなんだけどね。


 多分僕が、第二王女様に気に入られてるのが原因かな。


 ⋯⋯取り合えず起きよう。


「おはようございます」

「おはようございます、勇者様。朝食の準備が整いましたので、食堂へとお越しください」


 最初の数日は、王族の人達と一緒に食べていたけど、訓練を始める様になってからは別で食べる様にしていた。

 朝早くからの訓練だし、途中で抜けて朝食だけ一緒に食べるのは効率が悪い。

 そんな感じの理由で、朝は別々で摂るのを許してもらっている。


 許してもらっているというのも変な話だが、相手はこの国で一番偉い相手だ。

 機嫌を損ねるのは得策じゃない。


 正直、今の僕なら逃げるだけなら可能だ。

 軍を差し向けられると流石にキツイ。

 逃げの一択でも、かなり危うい賭けになる。


 そんな理由で、今は大人しくしているしかない状況だ。

 そのうち魔王を倒して、元の世界に戻る方法を見付けるまでは、王族の権力を利用するしかないかな⋯⋯。


 部屋からメイドさんが退出するのを確認してから、〈収納魔法(アイテムボックス)〉からアルバムを取りだし、眺める。


 ⋯⋯はぁ。

 もう3ヶ月も空と会話していない。早く会いたいな⋯⋯。


 アルバムを一通り眺めてから、身支度を済ませ、部屋を出た。


 ◇


「いたぞお!いたぞおおおおお!!」


 成人男性の野太い叫びが響き渡る。


 それに呼応するよに、男達が声のした方向へと駆け出す。


「チッ、あっちの方角に居やがったか」

 そう零すのは、勇者パーティの1人である、第1騎士団所属のアイン。


「当てが外れましたね」

 そう言って慰めの言葉をかけるのは、教会所属の聖女ミカサ。


「いい加減朝から鬼ごっこするのは、やめてもらいたいんだけどね⋯⋯」

 溜息をこぼしながら、毎朝起こるこのやり取りを、どうにかしたいと思案する。


 何故こんな事をしているのかというと。


 事の始まりは、パーティ結成の次の日まで遡る。


 ◆


「ねえ、なんで私まで騎士団の訓練を受けなきゃいけないのよ」

「あ?そういう命令なんだから、仕方ねーだろ」

「まあまあ、私も一緒に頑張りますから、ね?」

 ニノと名乗る最年少の宮廷魔術師は、早朝から第1騎士団の訓練所へと呼び出されたのが不満な様で、着いて早々愚痴を零していた。

 まぁ、言いたいことは何となく分かる。

 魔法使いが、騎士の訓練を受けて何になるんだって思っているんだろう。


 身長も低いし、まともにぶつかったら吹き飛ばされるだけだろうし⋯⋯。

 そんなことを考えていると。


「何よ?」

 ギロリと睨まれ凄まれる。

 小さい子供に睨まれても怖くは無いけど⋯⋯、一応落ち着かせておこうかな。


「上の人達も、何か考えがあるんじゃない?怒るのは、団長さんに話を聞いてからでもいいと思うよ」

「⋯⋯まぁそうね、で?その団長さんはいつ来るの?」

「そろそろだな。ほら、来たぞ」

 アインが指差す方を見ると、団長のブルーノさんと副団長のエリックさんが歩いて来た。


 団長達が訓練所に来ると、他の騎士達は直ぐに整列した。


「おはよう皆。さて、今日からツバサ殿のパーティも、訓練に参加する事になった。仲良くな。エリック、彼らに今後の説明を頼む。よーし、全員!走り込み開始!」

 団長さんはそう言うと、他の団員達に号令を掛け、走っていってしまった。


「では4人共、簡単に説明すると、午前は騎士団と戦闘訓練、午後は宮廷魔術師と魔法の訓練だ。それ以外の時間は好きにしていいとの事だ。今日は、軽く流す程度の訓練を行ってもらうから、そのつもりでいてくれ」

 副団長さんはそう言い、「他に質問は?」と投げかけてきた。


「はい」

 小さい体をピンと伸ばし、手を挙げるニノ。


「どうぞ」

「宮廷魔術師の私が、騎士団の訓練を受ける意味がわかりません」

「なるほど⋯⋯、言いたいことは分かった。訓練に関しては、団長と魔術師の一番上の人が話し合って決めたらしいから、自分も詳しくは知らなくてね、団長に聞いてみるといい」

「分かりました⋯⋯」

 結局理由は分からないということか。

 案外、魔術師も動ける様になれ。とかそんな感じの理由かも知れない訳だし、戻ってきたら聞いてみよう。


「さて、それじゃ最初は柔軟体操から始めようか」


 団長さんが戻って来るまで、延々と柔軟体操をする羽目になった。


 そして。


「理由?魔術師も動ける方がいいだろ?」


 団長さんの発言に、ニノは唖然としていた。

 うーん、この人は結構適当な性格なのだろうか⋯⋯。

 それを許す宮廷魔術師側も、同じ感じなのかな?


「な、納得いきません!魔術師は後ろに控えて戦うのです!前に出るのはツバサとアインの役目の筈です!」

「ハッハッハ。いいねぇ若いね~、なら2人がやられたらどうする?そのまま棒立ちでやられるか?」

「そ、その時はちゃんと避けるなり、逃げるなりします⋯⋯」

「いや無理だな。その咄嗟の行動が出来る様に訓練をするんだ。仮にもお前らは魔王と対峙するんだ、少しでも生存率を上げる為の訓練をさせてもらう」


 なるほど、適当かと思ったけどちゃんと考えてくれてるんだな。

 ニノが黙り、俯いていると。団長さんがある提案を出した。


「よし、ならこうしよう。訓練の初めに一定時間俺等から逃げきれたら、その日の午前の訓練は免除しよう。そのかわり捕まったら素直に受ける。それでどうだ?」

「俺等っていうのは、何処までを指しているんですか?」

「俺とエリックを除いた、第一騎士団全員とその3人だ。俺とエリックが居るとすぐ終わるからな、それじゃ面白くない」

「⋯⋯分かりました!やってやりますよ!!」

「お、いいねぇ~。ならルールは簡単に、そっちは魔法やスキルは何でもあり、こっちはそういうのは無しだ。お互い危害を加えるのは禁止。これでどうだ?」


 こっちは数の有利がある分、魔法やスキルは無しか⋯⋯。

 正直彼女がどれ位のものなのか分からないから何とも言えない。

 僕から見たら、かなり不利な条件の様に思えるんだけど⋯⋯、いや大丈夫そうだな。


 ニノの表情は力強く、自身に満ち溢れていた。

 それだけ自分の魔法とスキルに自信があるのだろう。

 彼女は最年少で宮廷魔術師になったんだ、もしかしたらコチラの方が不利な条件になっているのかもしれない。


「必ず逃げ切ってやるぞおおおお!」

 ニノは小さな体を精一杯伸ばし、気合の雄たけびをあげた。


 ⋯⋯もしかして単に運動したくないだけなのかな?


 そして始まった鬼ごっこ。


 最初の5分はニノの準備時間となった。

 範囲はお城の外壁内まで、お城の中は禁止となった。

 外壁内といっても、その中に訓練場が幾つもあるのでかなり広い、木や使用人の使う小屋などもあるので、ハッキリ言って逃げる人間の方が有利に思えた。

 そして、5分の準備時間を終えると、捜索が始まり。30分間逃げ切るとニノの勝ち、それ以内に捕まればニノの負けという事だ。


 そろそろ5分が経過する。


「よーし、それじゃあ捜索開始!」

「「「了解!」」」


 第一騎士団が、3人一組で散らばっていった。


「ん?どうした、お前らも行ってこい」

「団長、なんでこんな事許可したんですか?」

「なんでって、楽しそうじゃないか。それに捜索の練習にもなるしな、決められた時間内で特定の人物を探し出す。尚且つコチラは魔法やスキルは使えない。もっとも、アイツ等なら簡単に見つけるだろうがな」


 アインの疑問に、団長さんが答え終わると同時に。


「いたぞおおおお!」

「そっち回り込め!」

「2番!5番!側面から逃げ道塞げ!」

「なんだなんだ!そんなもんかお嬢ちゃん!」

「縄使え!縄!」


「何よこいつ等ああああああああああああ!!!キャー――!!!!!」


「捕まったな、初日はこんなもんか。明日以降に期待だな」

 そう言って団長さんは声のした方角へと歩き出したので、僕達もそれに続く。


 縄でぐるぐる巻きにされているニノが居た。


「ぐぬぬぬぬ⋯⋯」

「思ったより早かったな、それじゃ午前の訓練は素直に受けて貰うぞ~」

「分かりました⋯⋯」


 その日は、ブツブツ何かを呟きながら訓練を素直に受けていた。


 それからというもの、ニノは懲りずに毎日挑戦し、捕まってはブツブツ言いながら訓練を受ける様になった。


 ◆


 そんな事があってから、日を追うごとに、ニノの潜伏スキルが上がっていっている。

 魔法でかく乱は当たり前、時にはデコイも使い、魔法で即席の罠も作り出したりしている。


 今日も別の場所に団員を誘導し、かく乱するも嗅覚の鋭い団員に居場所を突き止められていた。

 昨日は耳のいい人だったかな?心臓の音がどうとか言ってた気がする。


 流石に第一騎士団所属なだけあって、1人1人の実力はかなりのものだ。

 僕は異世界から来たせいなのか、身体能力がかなり上がっている。

 その状態でも、お互い本気で打合うと勝つのは難しい。

 最初に戦ったアインは、一番下の新人だったので勝てたのだろう。


 そんな人達に人海戦術を使われるんだ、ニノが敵わないのは仕方がない。

 それに、訓練の成果だろうか、動きがかなり良くなっている。

 本人は「こんなの魔術師じゃない⋯⋯」とかブツブツ言っているが、僕的には悪くないと思う。


 そんな訳で、今も団員に追い回されている。


 動きを止めるか⋯⋯。

 そう思い、大声で叫ぶ。


「ニノ!今日は何時もより小さいけどなにかあった?!」

「誰がチビだああああああ!!!⋯⋯あっ」

「ナイスだツバサァ!」

「縛れ縛れ!」

「おーおー、何時も通りの大きさだから気にすんなよー?」


 僕の叫び声に反応したニノはアッサリと掴まった。

 この人達は、そういう隙を絶対に見逃さない。

 流石は第一騎士団といった所か。


「裏切り者ぉぉおおおおお!!!」


 ニノが捕まったから、今日の訓練が始まる。


 空は今頃何をしているのかな⋯⋯。


 日本に残してきた友を思い。


 今日も僕は、この異世界で生きていかなきゃいけない。

次回「勇者ツバサの君の日々パート2~勇者side~」こうご期待

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