144.パーティの名は⋯⋯。
昼食を摂り、マリアさんとイザベラさんは教会へと帰っていった。
さて⋯⋯、シャロも居ないので、久しぶりにアナと2人っきりになったな。
チラリと目線を向けると、ニコッと微笑掛けてくれた。カワイイ。
「この後、ソラは予定ある?」
「うーん。もう大体の予定は終わったから暇だな」
「それじゃあさ、散歩でもしない?」
「わかった。じゃあ少し歩くか~」
「うん!」
俺はアナと散歩する事になった。
◇
アナと久しぶりにドレスラードの街を歩いていた。
特に行先も決めずにブラブラ歩き、市場で何か新しい食材は無いかと眺めたりしていた。
相変わらず、米や醤油、味噌の類は見つからない。
やはり、この世界にはそういう物は存在しないのか⋯⋯。
しょんぼりする気持ちもあるが、今は隣にアナが居てくれているので、なんて事は無い。
そんな感じで、市場をぶらつき、色々な食材を買い込む。
今の俺は、イキリマクリタケの報酬で潤っているのだ。
使う機会があるか分からないが、イキリマクリタケを使った薬も手に入る。
本当に使う機会が訪れるのだろうか⋯⋯。
俺はアナと、そういう関係まで発展する事が出来るのだろうか⋯⋯、正直不安だ。
元の世界では、彼女が出来た事は無かったな。
異世界に来ても、実際には俺TUEEEEEEEEEからのハーレム展開になっている気がしない。
俺の周りに居る女は、失礼だが何処か頭がイカレテいる気がする⋯⋯。アナはそんな事は無いが。
そんな感じで街をウロウロしていると。
俺は衝撃的な出会いを果たす。
先程除霊した幽霊が居た。
道端の隅で、普通に体育座りしている。
な、なんでコイツまだ居るんだ⋯⋯。
俺はそう思ったが、アナの張った結界も貫通して俺の部屋に居たんだ、もしかしたらコイツは、かなり上位の幽霊なのではないだろうか。
そうならイザベラさんの浄化魔法でも、浄化する事が出来なかったのだろう。
正直な話。
俺の身近に居なければそれでいい。
幸い宿屋からも結構離れているので、害が有るわけでは無いからな。
⋯⋯⋯⋯放置しよう。俺はそう結論付けた。
何かこっち見てる気がするが、目を合わせない様にすればいいだろう。
俺はアナの手を引き、その場から直ぐに立ち去った。
◇
そんな訳で。
アナとの散歩を終えた俺は、陽も傾きだしたので宿屋へと戻って来た。
シャロはまだ戻ってきていない様だった。何処に行ったんだろうか。
シャロは用事があると出かけても、大抵は俺よりも早く帰って来る。
⋯⋯暗くなっても帰ってこなかったら探しに行くか。
それからしばらくして、辺りが薄暗くなってきた頃に、シャロは帰って来た。
何か疲れてる感じだな。
「おかえり、何処行ってたんだ?」
「ちょっとねー、ロゼさんに会ってたー」
「ロゼさんに?あんまり迷惑かけるなよ?」
「大丈夫!あたし頑張るから!期待しててね!」
「え?う、うん、分かった⋯⋯」
なんだ、一体⋯⋯。何を期待したらいいんだ⋯⋯。
シャロの訳の分からない宣言に俺は困惑したが、別にシャロが適当な事を言うのは、今に始まった事では無いのでスルーする事にした。
「こんばんわ~」
丁度その時、マリアさんがやって来た。恐らく夕食を食べに来たのだろう。
「あ、マリアさんいらっしゃーい」
「夕飯を食べに来ました~」
すっかりこの宿のご飯に魅了されてるな。
⋯⋯4人集まっている。丁度好いな。
俺は3人に向かってある提案をした。
「シャロ、アナ、マリアさん。ちょっと話いい?」
3人が俺に注目した。
「そろそろ、パーティ名を決めたい」
マリアさんも居ない頃に、3人で話し合ったりはしていたが、全然良い名前が出て来なかった。
今回はマリアさんを含めて4人になった。もしかしたら良い名前が浮かぶかもしれない⋯⋯。
俺はそんな期待を胸に秘め、この提案をした。
「はい!」
「はいシャロ君」
「マリアさんも増えたし、カゴーズで!」
俺も『深淵の加護』を得たから4分の3が加護持ちになった、なったが⋯⋯。
「ダサいから却下で」
「えー」
カゴーズはダサい、どうせならカッコいいのがいいんだがなぁ。
「はい」
「はいマリアさん」
「ゲバルト第91信徒団で~」
「⋯⋯⋯⋯却下で」
そんな名前を付けたら、ゲバルト派の91番目のパーティにされてしまう。
というかゲバルト派所属のパーティ名って、そんな適当な感じなのか⋯⋯。
「はい」
「はいアナ君」
「ソアシマで」
⋯⋯?ソアシマ⋯⋯。ソアシマってなんだ⋯⋯。
「どういう意味?」
「4人の名前の最初を取って、ソアシマ」
「あー、なるほど~。一旦保留で」
その後、俺達の議論は白熱し。
俺の頭の中に何かの声が聞こえて来た⋯⋯。
【この名前にしなさい】
『そうそう、この名前が良いよ』
うごごごごごごご、頭が割れる!
な、なんだこの声⋯⋯。いでででででで。
『あ、ヤバ。まだ耐えられないみたい』
【仕方ない、ここは退散しよう】
【『ハーデンベルギア』】
突然頭に響いた声のせいで、頭に割れそな痛みが走ったが、謎の声は何かの単語を残して去っていった。
な、なんだったんだ今の声⋯⋯。聞き覚えのある気もするが、あんな頭に響くような声は聞いた記憶が無い。
わからん⋯⋯。取り敢えず一旦忘れよう。
いきなり頭を抑えて呻いた俺を、3人が心配そうな目で見ているし。
「ソラ、大丈夫?」
「お水もってこよーかー?」
「回復魔法いりますか?」
そんな中、俺は先ほど聞こえた単語を口にした。
「ハーデンベルギア」
3人が黙り込む。
ハーデンベルギア。
何処かで聞いたことがある気がする。
どこだっけか⋯⋯、たしか――
*******
「空って好きな花ある?」
「好きな花?えー?ヒマワリかな⋯⋯、ごめん適当に言った。特に好きなのは無いな」
ある日の通学路で、翼がいきなりそんな事を言ってきた。
好きな花と言われても、普段から花を育てる機会なんてないからなぁ。
小学校の時、朝顔を育てた位か。
そんな訳で、俺は別に花に詳しいわけでは無い。
翼は続ける。
「そうだよね。僕はねハーデンベルギアって花が好きなんだよね」
「ハーデンベルギア⋯⋯。どんな花なんだ?」
「そうだね⋯⋯。稲穂みたいに連なって咲く花なんだけどね、その花言葉も好きなんだよね」
「ほ~ん。どんな言葉なんだ?」
「それはね――」
******
ああ、思い出した、翼が好きな花だったか。
俺は記憶の中の出来事を思い出し、納得した。
「いいんじゃない?」
「あたしも良いと思うー!」
「何となくいい響きですね、私も賛成です」
3人からは絶賛の様だった。
そうか。それなら俺達のパーティ名はコレでも良いかもな。
俺は3人に向かって確認の意を込めて言う。
「それじゃあ、俺達のパーティ名は『ハーデンベルギア』でいいな?」
「うん」
「さんせーい!」
「はい!」
⋯⋯よし。決まったな。
俺達4人は今日から『ハーデンベルギア』だ。
俺は心の中で、もう会う事が出来ないであろう親友を思い、その名前を胸に刻んだ。
確か、ハーデンベルギアの花言葉は⋯⋯。
ハーデンベルギア、その花言葉は。
「出会えてよかった」
「運命的な出会い」
次回「勇者ツバサ君の日々~勇者side~」 こうご期待。




