143.シャロの思い。
「マリアさん。この後教会に行って、イザベラという方を紹介して欲しいんですけど、良いですか?」
「朝仰ってた件ですね?分かりました〜、では参りましょうか」
「シャロはどうするよ?」
「うーん。あたしは、行くとこあるからパス」
「そうか、ではマリアさん行きましょう」
「はい」
そう言ってソラはマリアさんと出かけてた。
オバケかー、あたしには何が怖いのか分かんないなー。
それに、今はオバケなんかよりも重要な事があるんだよね。
「よし、行こう」
そのまま、家を出て、冒険者ギルドに向かった。
◇
目的の人物を探す。
何処だろー。あっ、居たっ。
目的の人はロゼさんと、向かい合って立っていた。
何してんだろ。まあいいや。
「アッシュさーん」
そんな2人の間に割って入る。
「⋯⋯シャロか。どうしたんだ」
顔をロゼさんに向けたまま。あたしに返事をしてくれた。
「ちょっと訓練付けてほしいんですけど」
「訓練?今じゃないとダメか?ソラは一緒じゃなくていいのか?」
「強くなりたいんですー」
そう、あたしはもっともーっと強くなりたい。
そう思う度、あの時の光景を思い出す。
痛みで体が動かず、守るべき人を守れなかった。
約束したのに。
必ず守るって約束した。
何時もあたしを信頼してくれる人。
あの時、本当はソラが死んでいたかもしれない。
でも、ソラを守ったのはあたしじゃなくて、マリアさんだった。
鉄の板に潰された時、マリアさんが死んだと思った。
自分に対して怒りが込み上げてきた。
もっと、もっと、あたしが強ければ。
あの時、吹き飛ばされずに、その場に踏ん張って居られれば、結果は変わっていたかもしれない。
でもそれが出来なかった。
それがすごく悔しかった。
皆が戦っているのを、ただ眺める事しか出来なかった。
だから強くなりたい。
今よりもっと、もっと!もっと!!
どんな攻撃も防げる様な凄い盾に。
ソラが言っていた。『メイン盾』とかいうヤツに、あたしはなってみせる!
あたしは真っ直ぐ、アッシュさんを見つめた。
背後からロゼさんの声が聞こえてきた。
「シャロちゃん。貴方、今後どうなりたいの?」
今後⋯⋯。
ロゼさんがいきなり変な事を言って来た。
今後の事なんて、その時にならないと分かんないじゃん。
あたしはそう思った。でもロゼさんは続けた。
「貴方は強くなって何になりたいの?貴方は女の子よね、ずっと冒険者を続けるつもりなのかしら?誰かと結婚して、引退という道もあるのよ?それでも強くなりたいの?」
「あたしは⋯⋯」
ロゼさんの問い掛けに、言葉が詰まる。
あたしが強くなりたい理由。
それはソラを。アナちゃんやマリアさんを守る事。
アナちゃんは、あたしの守り何ていらないのかもしれない。
マリアさんも、不死の力でどうにか出来てしまうかもしれない。
ソラだって⋯⋯、最初の頃に比べてドンドン強くなっていってる。
攻撃面に関してはもう、あたしじゃ敵わない。
それでも、ソラはあたしを必要としてくれている。
それはきっと、どんな魔物にも怯まないからだと思う。そんなあたしが、1番に倒れちゃダメだ。
また、あの時と同じ様になっても、ソラは気にしないだろうし、あたしの体を気遣ってくれると思う。
ても、そう思ってしまう自分に腹が立つ。
でも⋯⋯。
ううううううあああああああああ!!
もういい!細かい事はどうだっていい!
あたしは!
ソラを守りたい!!!
ソラが傷つくのを見たくない!
それ以外の理由なんて無い!!!
「ロゼさん!」
「な、なにかしら?」
大声で名前を呼んだせいで、ロゼさんがビクッとした。
あたしは大声で答えた。
「あたしは、この先もずっとずっとソラを守りたい!だから⋯⋯、もっともっともーっと!強くなりたいの!」
「⋯⋯そう。シャロちゃん、貴方。すごくいいわね。私のハートをビンビンに刺激したわよぉ!」
そう言うとロゼさんはあたしの肩を掴み、言った。
「私が鍛えてあげる。欲しい男が居るならその手で掴みなさい。私にその手助けをさせて頂戴」
当初の予定とは違ったけど、ロゼさんも十分強い。
それなら⋯⋯、利用できるものは何でも利用しよう。
「お願いします!」
あたしは頭を下げた。
*********
それは、いつの日か来るであろう未来。
ある酒場で男が言った。
「最強のタンクの称号って何だと思う?」
それはタンクを目指す者なら、誰でも一度は話題にする事。
いや。タンクに限らず、他の道を極める者でも、必ず話題にあがる様な話。
「うーん、『最硬』じゃないか?」
「いーや『不落』だろ」
「『鉄壁』も捨てがたいな」
「俺はやっぱり”アレ”だな」
1人の男が言った言葉に、他の男達も納得した。
「アレかー」
「定番過ぎないか?」
「だよな~、他のも悪くないと思うぜ~」
「いやいや、”アレ”には勝てんだろ」
「「「”アレ”と言えば『メイン盾』だろ?」」」
3人の男が揃ってそう答えた。
『メイン盾』
かつて存在した、最強のタンクが冠したと云う二つ名。
4名からなるそのパーティは、全員が[白金]ランクであり。
その強さは、他の[白金]ランクを圧倒するとも言われていた。
『深淵』 『血濡れ』 『不死』そして『メイン盾』
それぞれが冠するその名は、同じ道を目指す者達の憧れであり、夢であった。
全てを黒に染め上げ破壊する『深淵』
絶対零度の氷の魔女『血濡れ』
慈愛に満ちた聖母『不死』
難攻不落の大盾『メイン盾』
その盾は、ドラゴンブレスを正面から防ぐとも。
1000を超える魔物の群れを1人で押し留めたともいわれている。
そして、その者が前線に立ち、スキルを使い、鼓舞すると。死をも恐れぬ軍勢が出来上がるという。
その事は、ある文献にも記されており、『深淵』の「それは使うな。ホントマジで」という謎の言葉ものっていたという。
恐らく、使用者の命を削る程の代償が伴う、何かなのだろう。
タンクを目指す者なら、誰もが一度は憧れる存在。
その姿は大男だったとも、見目麗しい女だったとも、果ては小さい女の子だったともいわれており。
その正体は正確に伝わっていない。
『深淵』『血濡れ』『不死』も同様に、正確な姿かたちは残っていない。
それでも残っているものはある。
パーティの名前。
その名は――




