142.速攻解決、教会生まれのIさん。
イキリマクリタケの納品や、黒歴史暴露大会など色々あった為、宿屋に着く頃にはお昼を少し過ぎていた。
入口の扉を開け中に入ると、丁度アナが2階から降りてくるのが見えた。
「ソラにマリアさん、お帰り〜。用事は済んだの?」
「おはよう。いや、これからお祓いをしてもらうんだよ」
「お祓い?何の?」
「俺の部屋に幽霊が出てきてない⋯⋯」
俺の言葉を聞き、アナは顎に手を当て考える仕草をした。
「それは可笑しいと思うけど」
「いやいや、笑えんだろ⋯⋯、幽霊だぞ?
」
「⋯⋯あー、そういう意味じゃなくて、この宿に結界張ってあるから、そういうのは近付けないハズなんだけど」
結界?この宿にそんな大層なものが備わっているのか。
シャロのお母さん辺りがやったのかな?確か魔法の腕は凄いって聞いたし。
「それって幽霊も弾くやつなのか?」
「そうだね。基本悪意あるのは入れない様に設定したから」
「あらまあ、確かに。言われないと気付けませんね、コレは。流石ですね」
そう言ってイザベラさんは驚いていた。
「この宿に来た日から張ってあるけど、誰も気付けなかったからね」
あ、この結界ってアナが勝手にやったやつか。口振りからして、例によって事後報告で済ませたんだろうな。
ふーむ、という事は俺の部屋の奴は、それだけ強力な幽霊って事なのか?
マジか、白い子供連れてないよな⋯⋯。
テレビは無いからな奴の線は無い。
だがココは異世界。
俺の既存の知識以上のが来るかもしれない。
そうと決まれば。
「アナも一緒に来てください。お願いします」
俺は腰を90度に曲げて頼み込んだ。
◇
一同2階へと上り、俺の部屋の前に並ぶ。
イザベラさんは、懐から十字架を取りだし、片手で持つと扉へと手をかけた。
俺はその様子をアナの後ろから、顔を覗かせた見ていた。
扉がゆっくりと開かれ。
部屋の全貌が明らかになる。
依然として部屋の隅に、体育座りした黒い人影が見えた。
アナの後ろで、チワワの様にプルプル震えていたが、今の俺は1人では無い、アナやマリアさん、そして専門家のイザベラさんも居る。
その事で俺の心に多少の余裕が生まれ、幽霊を見る勇気が生まれた。
全身は黒く、というか真っ黒だ。
大きさも大人という訳でもなく、結構小さい。幼稚園児位か?
そして背中に剣の柄のようなものが見えた。
突然、幽霊は突っ伏していた頭をゆっくりと持上げ、俺達に顔を向けた。
その顔は、鼻や耳といった顔にあるパーツは無く、凹凸も無い為ツルンとしていた。
棒人間の頭が、1番近い見た目をしているだろう。
そして目と口はより濃い黒で
●-●
こんな感じの顔をしてい。
⋯⋯。
なんか可愛いな、コイツ本当に幽霊か?
俺の中に疑問が湧いてきた。
いやいや、幽霊じゃなかったとしても、コイツに居座られると困る。
起きる度に、絶叫するのは嫌だ。
俺の心の中で葛藤していると、イザベラさんが部屋に足を踏み入れ、言った。
「確かに居ますね、姿は見えませんが。気配はあります、そこの隅に居るのでしょ?」
「は、はい。子供くらいの大きさのが⋯⋯」
「⋯⋯分かりました。ではいきますね」
そう言って、イザベラさんは十字架を突き出し唱える。
「〈浄化魔法〉」
そして、その見た目の年齢からは、想像もつかない様な身軽さで、右足を高く振り上げ。
幽霊の頭上目掛けて、踵落としを放った。
モロに頭上から踵落としを食らった幽霊は、頭が凹み。そのまま黒い砂粒の様になってパンッとバラバラに弾け飛んだ。
⋯⋯えぇ??
な、なんで物理?そこは浄化の力で塵にするんじゃないのか?
「何で踵落とし?」
俺の疑問を、アナが代わりに代弁してくれた。ホント何で?
「イザベラ様は浄化魔法を、その身に纏えるので、そのまま殴れば浄化出来るという訳です」
⋯⋯なるほど、意味が分からん。
「このやり方が1番確実ですからね」
「まぁ、確かに消えましたが⋯⋯。ん?」
黒い砂粒の様になった幽霊は、そのまま窓の外へと流れて行き。
再生された顔は、凄いしかめっ面をしていた。
ただ座っていただけなのに、踵落としを食らった。そんな表情だ。
お前が俺の部屋に現れなければ、こんな事にはならなかったんだが⋯⋯。
そして、風が吹くとそのまま何処かへ飛んでいってしまった。
⋯⋯これで、幽霊騒動は決着が付いたな。
俺はアナの背中から離れ、イザベラさんに礼を言う。
「助かりました。ありがとうございます。コチラ少ないですが⋯⋯」
そう言って、紙に包んだお金を差し出す。
イザベラさんが、チラッと金額を確認し、うんうんと頷き、言った。
「この位の事でしたらまた私を頼りなさい、貴方は敬虔な信徒になれますよ。どうですか、我が宗派に入りませんか?」
「あっ大丈夫です」
俺はそそくさとアナの背中に戻り、アナの背中越しに提案する。
「もうお昼を過ぎていますし、このままお昼食べていきます?お礼も兼ねて御馳走しますよ」
「そうですね⋯⋯。折角ですから御馳走になっていきましょう。良いですねマリア?」
「はい。ソラさんの料理はおいしいですよ~」
「フフフ、胃袋はもう掴まれてるようですね」
「え!?あ、いえ、そんなことは⋯⋯」
アナがイサベラとマリアの前にスッと割って入り一言。
「ダメ」
「あらあら、怖いお方に目を付けられている様ですね。マリア、貴方もがんばりなさいね」
そう言ってイザベラさんは、一階へと降りて行った。
うーん、年長者の余裕って感じだな。
それに、アナも結構本気で威圧してたよな。肌がピリピリするし。
それをものともしないとは、それだけ経験を積んでいるという事か⋯⋯。
「ぐぬぬ⋯⋯」
そんなアナの肩に手を置き、落ち着かせる。
「まあまあ、あの人もきっとからかっているだけだって。そうでしょ、マリアさん?」
「そ、そうですね!きっとそうだと思います!」
⋯⋯よし。きっと今までのやり取りも冗談だ、そうに違いない。じゃないと今後ぎくしゃくする事になる。
こんな時シャロが居てくれたら、適当にお茶を濁せるんだが⋯⋯。
何処行ったんだアイツ。
俺達は一階へ降り、俺の作った昼食を一緒に食べた。




