139.アイリキレる
前半。デカマラ、デカマラ五月蠅いのでご注意ください
暫く、クロビカリデカマラタケを堪能したレピオスさんは、落ち着いた様で。咳払いを1つして言った。
「ゴホン。あー、すまんな。年甲斐もなくはしゃいでしまってな。このクロビカリデカマラタケはな、イキリデカマラタケの10倍、いやそれ以上の効果が有るのだよ」
なるほど、イキリデカマラタケがイキリマクリタケの10倍だから⋯⋯、イキリマクリタケ100本分位かな?
俺は頭の中で、モザイクの掛かったイキリマクリタケ100本を想像した。
うーん、絵面が悪い。
頭の中の映像を消しさり、本題を切り出す。
「そこで相談何ですが⋯⋯」
「ん?何だ?まさか、クロビカリデカマラタケを見せるだけ見せて、はいサヨナラなんて言うんじゃないだろう?」
「いやいや、そちらは買い取って頂いて結構です」
「本当か!!よーし分かった言ってみろ、できる範囲でなら叶えてやる」
「あざす。そのキノコで作った薬を、譲って欲しくてですねぇ」
そう、俺の目的はキノコから作られる精力剤。
別に不能という訳では無いが、そういう物があるなら、念の為手に入れておきたい。別にすぐ使う予定は無いが、念の為だ、念の為。それに備えるに越したことはないし、使わないなら他の困ってる人に譲ればいい。全ては念の為だ。
「なるほど、なるほど〜。よし分かった。イキリマクリタケから作った物と、クロビカリデカマラタケから作った物。それぞれ1個づつ渡そう」
「クロビカリの方もいいんですか?」
「構わん構わん、こんなにも品質の良いクロビカリデカマラタケは初めて見た。通常は10cmだが、こいつは20cmもある!素晴らしい!!反り具合も完璧だ」
レピオスさんは、モザイクの掛かったそれを高々と掲げる。
俺はその光景から、目を逸らす事しか出来なかった。
暫く掲げた後、レピオスさんは金を取りに、部屋から出ていった。
◇
「コレが今回の報酬だ、確認してくれ」
「確認します」
どれどれ⋯⋯おほほほ、笑いが止まりませんなぁ。
金額はかなりの物になった。
クロビカリデカマラタケが、普通のやつの100本分の価値があるので、それの額が凄い。
「ありがとうございます」
貰った報酬を〈収納魔法〉にしまうと、レピオスさんは言った。
「薬の方は出来るまで少し時間が掛かるからな、出来上がり次第連絡するから待っとれ」
「分かりました、では俺はこれで」
そう言って立ち上がろうとしたが、呼び止められた。
「あーまてまて、お前達のパーティ名はなんだ?またなにか頼むかもしれないからな」
「⋯⋯実はまだ決まってないんですよね。決まったら、薬を受け取る時に伝えますね」
「む、そうか。分かった。では達者でな」
俺は1度ペコリと頭を下げて、部屋を後にした。
◇
そろそろパーティ名考えないとダメか⋯⋯。
前考えた時は、変な名前ばっかりだったんだよな。
シャロは[カゴーズ]とか言ってたな。俺とアナは加護持ちじゃないから却下したな。
今は俺も加護持ちになっちゃったけど。
パーティ名候補を考えながら、ギルドの1階に降りると、何やら騒がしい。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
ロゼさんとアッシュさんが、仁王立ちで向かい合っていた。
あーあー、出会っちまったか。
俺はなるべく気配を消しながら、入口へと向かったが。
「よお、ソラ〜。お前とんでもないの連れて来やがったな〜」
「へっへっへっ。まさかクランごと連れてくるとはな、やるじゃないか」
2人の筋肉モリモリのマッチョに捕まってしまった。
「いや、そもそもロゼさん紹介したのあの人なんで。クランは勝手についてきたので、俺のせいじゃないです」
「わ〜かってるってそれくらい。居場所がバレるから、会いに来るかも~って話はしてたんだよ」
「へっへっへっ。まさかクランごと移住するとは思わなかったな。ヤベ―わアイツ」
あ、やっぱりヤベー行動なんだ。
「それで、今どういう状況なんですか?」
「あ~、何かどっちも黙ったままなんだよな」
「へっへっへ。俺等も目を離した隙にああなってたからな」
なるほど⋯⋯、しかし2人共本当に微動だにしないな。
あ、クリスさんがやって来た。
「ボス。黙っていては伝わりませんよ」
「⋯⋯そう、ね」
なんだ⋯⋯、まさか照れてるのか?あの見た目で?嘘だろおい。
そんな状況に、アイリさんが割って入る。
「あの、やるなら外でやってもらえますか?兄さんも黙ってないで何か言って」
「そうだな⋯⋯」
コミュ障かな?⋯⋯ん?
クリスさんがアイリさんに歩み寄り、言った。
「久しぶりねアイリ」
「⋯⋯そうですね。何年ぶりですかね?」
「フフフ、こうしていると昔を思い出すわね」
「そうですかね?」
そんなやり取りをしていたが、次のクリスさんの言葉に耳を疑った。
「それよりも貴方。右腕と右目に封印されていた力は制御できるようになったの?」
ザワザワしていたロビーが、シンと静まり返った。
⋯⋯⋯⋯Oh。
俺達3人は手で顔を覆った。
や、やりやがったああああああああああああ!
「マジか~」
「へっへっへ⋯⋯、やべえな」
クリスさんの言葉に、アイリさんは目を見開きプルプルしている。あ、耳が赤くなっていってる。
「な、なな、何を、言って⋯⋯」
「⋯⋯?貴方よく『近寄るな!右腕の力を抑えてるので精一杯なの!』って言ってたじゃない」
⋯⋯ひでぇ。
余りの仕打ちに、俺はアイリさんに同情した。
アイリさんは口をパクパクさせながらプルプル震えている。
「それに『これは私が生まれ持った宿命だから、貴方を巻き込みたくない』って私を巻き込まない様に、配慮してくれていたじゃない」
ひ、ひどい⋯⋯。
恐らくクリスさんは本当に心配しているのだろう。だからこそ質が悪い。心の底からアイリさんを心配し、無遠慮に黒歴史を掘り起こす。その全てが親切心から起きる行動だ。アイリさんは怒るに怒れないだろう。
プルプル震え俯いてしまった、アイリさんが絞り出したような声で言う。
「⋯⋯表出ろ」
「⋯⋯?分かったわ」
2人は冒険者ギルドから出て行った。
「あ~、やべぇヤツだ」
「笑えんヤツだな。行くぞソラ」
「え、あ、はい」
俺は2人の後を付いて行った。
アッシュさんとロゼさんは、向かい合ったまま動こうとしない。なに?動いたらヤラレル的な感じなのか?
外に出ると。
アイリさんが、自分の身長もある大剣を携えていた。
「殺す」
「やはりまだ力の制御が出来ていない様ね」
そう言ってクリスさんは、腰に携えていた2振りの短剣を抜くと、両手に持った。
いや、制御は出来てるんですけどね。暴走状態というか、なんというか⋯⋯。
「ヤバそうなら止めるか~」
「へっへっへ。そうだな、あの時の嬢ちゃんがどれ位成長したのか見ものだな」
2人は完全に観戦モードだ。⋯⋯俺も観戦モードでいいか。がんばえー。
既にアイリさんとクリスさんの周りには、野次馬の人だかりが出来ていた。
誰かがコインを空中へと放り投げ。
地面に落ちたその瞬間。
2人の猛者が衝突した。




