14.新しい装備を求めて
最近、街の周辺にある森にゴブリンが出没するようになった影響で、俺とシャロのメイン収入であるワイルドボアの狩りが滞っていた。
滞っていても街の中の依頼は常に一定数ある為、収入が0になるという事は無かった。
ゴブリン熱が冷めるまでの辛抱という事で、訓練も間に挟みつつ色々な依頼をこなしていた。
うーん。手持ちの金を確認する。
いけるか?⋯⋯いや、うーん。宿屋の自室で唸っていた。
唸っている原因は、ゴブリンメイジに盾を壊された事によるものだった。
レベルが上がっていることもあり、メインで使っている剣が若干軽く感じてきていた。
この世界、元の世界では考えられないが、レベルという概念がある。
そしてレベルが上がると、身体能力が少し上がる。
実際俺が普段使っている剣も、ハイゴブリン達との闘い以降で重さが違っているのを感じていた。
重く感じるのも駄目だが、逆に軽く感じるのも、なんか変な感じするんだよな。
丁度いい重さの剣に変えた方が良いのだろうか。
どちらにしろ、盾は新しいのにしないといけないんだし。
暫く悩んだ末に結論を出す。
よし!買いに行こう!
この際、勢いで買ってしまおう。
早速俺は鍛冶屋へ向かった。
◇
「こんにちは!」
目的の店に到着し、扉を開け元気よく挨拶をした。
「おお~よく来たな。お前さんは朝から元気だな~」
俺が訪れたのは[ヴィーシュの鍛冶屋]、マルコさんに紹介してもらい、
時々剣の研ぎをお願いしている鍛冶屋だ。
そしてこの人はこの店の主である、ドワーフ族のヴィーシュさんだ。
「聞いたぞ。お前さんがたハイゴブリンを倒したそうだな。魔物の分布図が変わったとかで、ギルドが大忙しらしいぞ」
ガッハッハとヴィーシュさんは笑っていた。
知らぬところで、俺達の名が広まってる感じなのかな?
「それで今日は何の用だ?」
「今日は盾を買いに来ました」
俺はハイゴブリン達との戦いを、簡潔に伝えその際に盾が使い物にならなくなったことを伝えた。
「予算はどれ位ある。額によっては一から作ることも出来るぞ。要は、おーだーめいどっちゅーやつだ」
予算か⋯⋯盾は必要だが。
今使っている剣もまだまだ使えないことも無い。
専門家に聞くのが一番か。
悩んだ末に、素直に意見を聞くことを選んだ。
「予算はこれ位で⋯⋯盾の方が最優先で、残りで剣も揃えられたら良いなって思っています」
俺は今ある全財産を提示して、ヴィーシュさんの反応を待つ。
「成程、そうか⋯⋯」
ヴィーシュさんは顎髭を触りながら考えていた。
俺の全財産でも安かったか⋯⋯。
不安を感じながら、答えが出るのを待った。
「ちょっと待ってろ」
そう言って店の奥に引っ込んでいった。
暫くして、カルマンさんを連れて戻って来る。
「その予算内で、ワシの弟子が盾と剣を作ってやる。どうだ?」
「問題ありません!」
即OKした。予算内で出来るなら問題なし。
「勿論ヴィーシュさんが、出来栄えを確認するんですよね?」
弟子の作った物を、師匠が確認しないなんてあり得ないだろうからな。
欠陥品なんて、出来るわけは無いだろうと思った。
「勿論だ。下手なもん作ろうものならワシが代わりに作ってやる」
言質を取ったぞ⋯⋯。
これで俺の新しい盾と剣の一定の水準は保たれた。
ふっふっふ⋯⋯、勿論カルマンさんの腕を信じるのが前提ではあるが。
「ソラ君、本当にいいのかい?親方の弟子とは言っても、俺はまだ自分で打った武器を売りに出した事は無いんだよ⋯⋯」
「大丈夫ですよ、師匠であるヴィーシュさんが提案しているんです。それだけカルマンさんの腕を見込んでいるってことじゃないですか?」
俺はヴィーシュさんの思いを予想して伝えた。
「はっ。ワシから見て、まだまだじゃが⋯⋯まぁ、なんだ。そろそろいいだろうと思ってな」
ヴィーシュさんが頬を書きながら、そっぽを向いて告げる。
「っ⋯⋯。わかりました!ソラ君、君の盾と剣。
今の僕の全力を注いで、作ってみせるよ!」
ガシッ!とゴツゴツとした手で力強く手を握られた。
話はまとまったようだ。
「早速で悪いが、君に合った物にする為に色々とサイズなんかを測らないといけないんだけど、予定とか無いよね?」
俺の返事を聞く前に、そのまま店の奥の工房まで連れていかれた。
「まったく」
ヴィーシュはその光景を苦笑しながら見ていた。
◇
つ、疲れた⋯⋯。
その後俺は、体のサイズから、どれ位の重さまで持てるかなど、調べ尽くされ。
疲れた体を引きずる様にして、店の中へと戻って来た。
「すまんな。アイツが客に対して物を作るってことは、今回が初めてでな」
聞くところによると。普段は仕事の手伝いがメインで配達や店番などが多いのだそうだ。
鍛冶の手伝いや指導はしているが、自分で作った武器を売るというのは今回が初めてなのだそうだ。
なので、今回ヴィーシュさんは自身の弟子のステップアップ的な目的で、俺の盾と剣を打つように指示したのだそうだ。
勿論、武器と防具は冒険者の命を預かる道具なわけで。
カルマンさんに命を預けるに、ふさわしいくらいの力量があると判断されたから、任せるに至ったのだという。
自分の弟子が何処まで出来るのか。
腑抜けた物を作ろうものなら一から教育し直してやると。
ヴィーシュさんは豪快に笑いながら話してくれた。
それを側で聞いていたカルマンさんも、任せてくれと、気合を新たに入れ直していた。
そんな事もあり、俺の新しい装備作りに着手してくれる事となった。
「新しい武器が出来るまで、今の剣を使うだろう。サービスで研いでやるから貸せ」
あ、はい、お願いします。俺は腰に差している剣を鞘ごとヴィーシュさんに渡した。
「それじゃソラ君、君の新しい装備。楽しみに待っててね」
「お願いします」
頭を下げ改めてお願いする。
今後の俺の装備がどんなものになるのか、ワクワクが止まらなかった。
「それじゃあ。そこで待ってろ研いでくるからな」
「僕も早速作業を始める事にするよ。またねソラ君」
2人はそう告げ店の奥に引っ込んでいった。
さて⋯⋯、研ぎが終わるまで暇だな。
異世界に来てからというもの、スマホが無い生活には慣れて来たが、娯楽が圧倒的に少ない為。
こういう時間に、手持無沙汰になってしまう。
今考えれば。スマホに頼りっきりの生活をしていたよな⋯⋯。
少し時間が空くようなら、スマホを眺めていた自分を思い出していた。
そんな事を思っていると、店の扉に設置している鈴が音を立て、ゆっくりと扉が開いた。