130.色の魔物
モルソパを離れた一行は、街道を馬車で進んでいた。
ローズガーデン所有の馬車に乗せて貰い、行きよりは退屈しない旅路を送れている。
馬車は4つで、合計38人の人間が搭乗している。
本来ローズガーデンは40名程からなるクランだが、屋敷を売り払うなどの後処理の為に、5人が残ったのだという。
流石に1日で全てを終わらせる事は出来なかったのだろう。
という事はガチで昨日決めたのか?考えない様にしよう。
そんな訳で、俺達3人もローズガーデンと共に、ドレスラードへと向かっているのであった。
◇
道中でとある話になった。
「そういえば。あの魔物なんだけど。もしかしたら『色の魔物』かもしれないわねぇ」
あの魔物とは、先日戦った白い魔物の事だろう。
「『色の魔物』ってなんですか?」
「知らないのですか?冒険者としては知っておくべき魔物ですよ」
クリスさんに呆れられてしまった。
俺は兎も角、シャロとマリアさんも頭に?マークを浮かべてるんですけどね。
「簡単に言うと、世界に1匹しか居ない魔物の事よ~。今の所、確認されているので3体ね。赤、青、緑、それぞれ体の色と属性でそう呼んでいるのよ」
⋯⋯そんな魔物が居たのか。
ギルドの資料室にそんなのあったっけ?全部を読んだわけじゃないし、まだその項目が書いてある本を読んでないだけだろう。
ロゼさんが説明を続ける。
「『色の魔物』は、この世にそれぞれ1体しか居ないのよ。強さはもちろん規格外、[白金]ランクが数人掛かりでも、仕留められないレベルの魔物ね。過去に一度だけ、海に住む『青の魔物』を討伐しようとしたらしいのだけれど、結果は悲惨なものだったらしいわね」
「船が数十隻と、[白金]ランクが6人死んだんですよね?あの連中はなにを考えていたんでしょうね?」
「こちらから手を出さない限りは、襲って来ないんだからほっといたらいいのにねぇ~。利権とかそういう奴でしょうね、くだらないけど」
[白金]ランクが6人殺されるほどの強さをもっているのか。
というか海で戦うなんて、海に住んでる魔物相手にホームで戦うとか正気じゃない。
誰も疑問に思わなかったんだろうか⋯⋯。思わなかったんだろうなぁ。
それとも、[白金]ランクという自信がそうさせたのか⋯⋯。
真相は誰にも分からないが、『色の魔物』に挑むという事は、無謀な事だという事はわかった。
「それでも、あの白いのはそんな理不尽な強さでは無いと思いますけど」
「それはソラちゃんが居たからよ。私達の攻撃が一切通らないのよ?ハッキリ言ってこんな事今まで無かったもの」
「そうですね、貴方の魔法はハッキリ言って異常です。貴方の魔法があの白い魔物に真似されるんじゃないかと、ヒヤヒヤしていました」
やっぱりそう思うよな。俺もすげーヒヤヒヤしてたし。
というか俺の闇魔法って、やっぱり殺意高すぎるのか⋯⋯。
もしかしてこれが転移特典のチートか?だとしても、結構地味では?もっとこう、ドバーンと大規模を攻撃できる魔法とか、覚えても良いんじゃないですかね?もっと気持ちよく異世界生活送らせてくれよ~。
そんな事を考えていた。
「だからね、あの魔物はもしかしたら『色の魔物』として、生まれたばかりの個体の可能性があるのよねぇ」
「流石ボスです、聡明な考察だと思います」
「だとしたら、尚更仕留めておいた方が良かったんじゃ⋯⋯」
「仕方ないじゃない。逃がしちゃったんだし、それに次はちゃんと仕留めるわよ?いいわね?」
「あ、はい」
再戦する機会がない事を祈ろう⋯⋯。
まぁ闇属性の攻撃が通るなら、俺以外の闇魔法使いが何とかしてくれるだろう。
色が白いから、黒い闇の魔法が効くのかな?もしかしたら『色の魔物』はそういう属性の強弱があるのかもしれない。
だとしたら、あの時は運が良かったのか⋯⋯。良く生きて帰れたな。なーにがイキリマクリタケ捜索隊だふざけるのも大概にしろよ。あの世に行きまくり探検隊になるところだったわ(爆笑
そんな話をしているとお昼に差し掛かり、俺はオバちゃんズに飯炊き係として駆り出されるのであった。
◇
馬車の旅は2日目を迎えていた。
正直、行きの時よりも退屈しない、ロゼさんが延々と喋ってくれるので、話題が尽きない。
アッシュさんとの出会いの話は、4度目だが暇になるよりはマシだ。
まとめると。
昔アッシュさん達のパーティが、モルソパを訪れた際に、ロゼさんと一悶着あったという。
その一悶着を話すと、かなりの時間を要するので簡単に言うと。
ロゼさんがピンチの時に、アッシュさんが1人で颯爽と現れたんだそうな。
クリスさん曰く、他のメンバーも居たらしいんだが、オカマの目にはアッシュさんしか映っていなかったという。
多分俺が聞いた話も、かなりの脚色が入っている気がしてきた。
「空から舞い降りた、アッシュの身体が光り輝いていた」とかいう辺りは脚色だろうし、「熱い抱擁を交わし、2人は見つめ合い、キスをした」とかも、多分そんな事は無かったと思う。
そんな妄想を聞きながら、街道を進んでいた。
◇
そろそろお昼頃だろうか。
馬車の窓から空を見上げ、太陽を確認する。大分真上に差し掛かって来ていた。
腹の空き具合的にもそろそろだろう。
そろそろ俺はオバちゃんズの馬車に移動して、昼飯の準備を手伝わなくては。
そう思っていたのだが。
急に馬車が止まり。
御者をしていたクランメンバーが声を上げる。
「ボス!大変です!アレ見てください」
その声を聞き、馬車から降りた俺達が見たのは。
人の形をした、大きな木だった。




