129.なんかついて来た
朝の鐘が鳴る前に起きた俺達3人は、サッサと身支度を整えると、宿屋を後にした。
今日でこの街ともお別れか⋯⋯。
色々あったな⋯⋯。
俺が遠出するたびに何か起きてる気がする。
異世界転移者の定めって奴だろうか。
そんなものは無いと信じたいが、実際色々な事に巻き込まれてるよな。
あーやだやだ、俺はもっとのんびり過ごしたいのになー!
そんな事を考えもしたが、元の世界の何もない日常に比べれば刺激しかない日々が、楽しくて仕方がない。
そんな訳で、乗合馬車の切符売り場に来たわけだが。
ロゼさんとクリスさんが居た。
多分見送りに来てくれたのだろうか。
コチラに気づいたのか手を振ってくれていた。
「やっと来たわねぇ~、待ちくたびれたわよぉ」
「遅いですよ、ボスを待たせないように」
「いや、結構早くに来てるんですけど⋯⋯」
「言い訳しない」
⋯⋯⋯⋯。
そもそも、見送りに来てくれるんなら事前に言ってほしんだがな。
流石に言えないけど。
そして、ロゼさんがいきなり意味の分からないことを言った。
「それじゃ、早速出発しましょうか。こっちよ」
そう言って歩き出した。
「え?ちょ、ちょっと待ってください。どこいくんですか?」
「どこって⋯⋯、私達が持ってる馬車よ。どうせだから一緒に行きましょう」
⋯⋯???意味がわからない、一体何を言ってるんだこの人は。
訳が分からないまま、俺達は後をついて行き。
4台の馬車の前にやって来た。
⋯⋯⋯⋯ローズガーデンに居た、見覚えのある顔が揃っている。
もしかして全員で見送りに来てくれたの?オバちゃんズも居るし。
えー、なんだよそんな盛大に見送りに来てくれるなんて⋯⋯。
へへへ、なんだか嬉しいよな。
俺は隣に居るシャロを小突く。
「え、なに?」
「いや、こんなに見送りに来てくれるなんて嬉しいよなって」
そんな俺の言葉に、ロゼさんが一言。
「見送りじゃないわよ?」
見送りじゃない?⋯⋯つまり、どういうことだってばよ?
「どういう事なんですか?」
「どういう事って、私達もドレスラードに向かうのよ」
あ、ふーん。そういうアレね。⋯⋯どういうアレ???
⋯⋯訳が分からないよ。
混乱する俺に変わってシャロが答える。
「もしかして、アッシュさんに会いに行くんですかー?」
「あら、鋭いわね。そうなのよぉ~。クランの皆も賛成してくれてねぇ~。拠点を移す事にしたのよ~」
クランの拠点ってそんな簡単に移していいものなのか?わからん。理由がアッシュさんってのも、俺には理解できない。わからん、アッシュさんには犠牲になってもらおう。
そんな訳で、俺達3人は、半ば無理矢理ローズガーデンの面々と一緒に、ドレスラードへと向かう事になった。
まぁ、これはこれで退屈しなさそうだから、良いのかもな。断る理由も特にないし。
俺達は1号車である、ロゼさん達の乗る馬車へと乗り込み。
モルソパの街を出発した。
◇
馬車は進むよ何処までも。
道中、ロゼさんより経緯を聞くことが出来た。
どうやら、モルソパの街では、ローズガーデンはあまり快く思われていない様で。
孤児を拾い、育て上げ、立派に成長する姿を見て、劣等感にかられる人達がいるせいらしい。
要は下を見て悦に浸る人間にとっては、ローズガーデンは眩しい存在なのだろう。
自分より下の人間を見て、安心する精神が俺には分からないが。
そういう人間は一定数いるわけで、そういう人達のありもしない噂話を真に受けた街の人達からも、ローズガーデンは好く思われていないのだとか。
アホらしいとは思うが、ネットが無く。他の街の情報も簡単に手に入らない様な、閉鎖的な世界だ。
近所の嘘の噂話が真実に変わるなんて、よくある事なのだろう。
宿屋の微妙な反応は、その為だったんだろうな。
そんな感じで、この街に見切りをつけ、ドレスラードへと移住する事を決めたのだそうだ。
⋯⋯いや、急すぎでは?
結構でかめの屋敷に住んでたが、それはどうするのだろうか。
それに昨日別れ際に、モルソパに来たら歓迎するとかいってたし、その時点で移住が決まってたら、そんなセリフは出ないよね?っていう。
いつ決まったんだこの移住計画⋯⋯。
まさか、俺達が帰った後か?⋯⋯いや、そんな事は無いか。
クランみたいな大所帯が1日で、移住を決めるなってフットワーク軽すぎだろ。
ないな、ないない。この世界はただでさえ他の街に家族で引っ越すのは一般的じゃないんだし。
引っ越し先に仕事があるか分からないからな、元の住んでいる場所に仕事があるなら他の場所に行くなんて事はありえない事だ。
きっと何らかの事情で、前々から決まっていたのだろう。
きっとそうだ。じゃなかったら、本当にアッシュさん目当てって事になる。
俺はその方が恐ろしいよ⋯⋯。こえーよ俺は。
ローズガーデンがドレスラードへ向かう、真の理由を闇の中に放り投げて、俺は大人しく馬車に座っていることにした。
すいませんね、アッシュさん。今、とんでもないのを連れて帰ります⋯⋯。
******
「ブエックシュン!!」
「うわ!汚い!」
「あー、すまんすまん」
「兄さん、いきなりくしゃみするのはやめてよね」
「仕方ないだろ、いきなり出たんだから」
「まったく⋯⋯。あ、そうだ。ソラ君たちは旨くやれてると思う?」
「んー。まぁ大丈夫だろ。人当たりはいいしな、礼儀もちゃんとしてるんだ。なにより、ゴンザレスの奴に頼んだんだ。大丈夫さ」
「ゴンザレス?だれそれ」
「ああ、お前は知らないか。ロゼの本当の名前だよ、ゴンザレスっていうんだ」
「そんな名前だったんだ⋯⋯」
「色々あったからな、色々な」
「ふーん。そうなんだ。それよりソラ君達、モルソパ出た頃かな?」
「さあな、俺にわかるわけ無いだろうに」
「早く帰って来てもらわないと私が困るんだけど」
「なんでだ?」
「魔女様の機嫌が凄いのよ⋯⋯」
「ああ、そういう⋯⋯。まぁ、あれだ、がんばれ」
「最近、なぜか私が専用の受付嬢みたいになってるんだけど、どうして?」
「知らんよ」
「あー!早く帰って来て―!!」




