128.ローズガーデンの今後
俺は今、ローズガーデンの厨房で鍋を振るいながら、オバちゃんにこき使われていた。
「食材切り終わったよ!ここに置いとくね!」
「ありがとうございます!」
「ちょっと、コレの味見して頂戴な」
「うん!おいしい!バッチリです!」
「このソース良いわね、アンタ
あとで教えて頂戴な」
「わっかりましたー!」
ローズガーデンの組員は、全員で40名程居るという。
今、俺が厨房で対応している、このおばちゃん3名は、ローズガーデンの家事を一手に引き受けている人達で、要は寮母的存在だ。
その3人のオバちゃんと共に、ローズガーデンの夕食を作る事になった。
シャロとマリアさんが、俺の手料理を食べたいと言うので、ロゼさんより厨房を借りる許可を貰ったのだが、俺の作った料理を見たオバちゃん達に、あっという間にローズガーデンの夕食作りを手伝わされたのであった。
オバちゃんパワー恐るべし⋯⋯。
ヒールポーションを飲みながら、ひたすら料理を作る。
普段は依頼やらで半数はいないが、何故か今日はローズガーデンの全員が揃っているらしく、食堂は満員御礼状態だ。
そして、マリアさんが食べる食べる。
消費したカロリーを補充する様にガンガン食べる。
シャロも負けじと食べていたが、流石に敵わず途中でギブアップし、早々に厨房へとやって来たが、手伝う訳でもなく椅子に座って俺をただジッと眺めていた。何しに来たんだコイツ⋯⋯。
最終的には、宴会の様になり、それは夜遅くまで続いた。
◇
「あーっ、やっと帰れた⋯⋯」
「眠いー!」
俺とシャロは宿屋の部屋に着くなり、ベッドへと倒れ込んだ。
「ふふふ、お疲れ様です」
マリアさんはそう言いながら、着替える為に服を脱ぎ出したので、俺は慌てて部屋を飛び出した。
「ビックリした⋯⋯、俺も着替えよ」
部屋の扉の前で着替えていると。
「出来れば部屋で、着替えてほしいんだけどねぇ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯へへ、どうも〜、すぐ終わりますんで」
「まったく⋯⋯、もう遅いんだから騒がしくすんじゃないよ?」
「分かりました」
また見られてしまった⋯⋯。
しばらくすると扉が開き、着替えが終わった事を告げられた。
それじゃ俺らも寝ますかな、今日は色々あり過ぎて疲れた。
3人川の字になり、俺達は眠りについた。
Zzz…
◇
翌朝、3人とも結構寝てしまい、時間もお昼頃に差し掛かっていた。
⋯⋯帰るのは明日にしよう。
「取り敢えず、今日は休みにして明日帰ろうか?」
「いいよー」
「もう馬車も無い様ですし、そうしましょう」
そういうことになった。
◇
という訳で、やって来ました、モルソパの市場。
何かいい掘り出し物はないかと、3人で物色中。
うーん、鉱山都市とは違って、この街は工芸品が多いな。
3人でブラブラと歩き、時々屋台で買ったものを食べ歩きしていた。
そして俺は、ある露店が目に留まり、近くに寄り品物を眺める。
ふーむ、髪飾りか。
色々な形の髪飾りが所狭しと並んでおり、その中に、見覚えのある花があった。
これ、カーネーションに似ているな。
母の日に送るアレだ、俺は送った記憶がないがな。この世界に、母の日なんてあるのだろうか。分からんが、少し気になる。
「これください」
そう言って書いてある値段を渡す。
「あいよ、えーと、うん丁度だな。毎度どうも〜」
店員から、カーネーションに似た花のブローチを受け取り、〈収納魔法〉内にある、大事な物を置くエリアに入れた。
そんな感じで、露店巡りを終えた。
◇
そして俺達は、そのままの足でローズガーデンへと向かってた。
理由は、明日モルソパを出発するので、その報告の為である。
短い間だが、世話になった人達に挨拶くらいはする、当たり前のことだ。
そんな訳でローズガーデンへと到着すると、そのままロゼさんの元へと通された。なんか顔パスみたいになっていた。
「あら、いらっしゃい。今日は何の用かしら?」
「明日ドレスラードへ戻るので、その挨拶に来ました」
俺がそう答えると、ロゼさんは書類の様な物から目を上げる。
「そうなの、律儀ねぇ。ちゃんと礼儀の出来る子は好きよぉ」
スっと椅子から立ち上がり、何故か俺の後ろに向けて歩き出すと尻に手を伸ばす。
ササッとシャロの後ろに逃げ、それを回避した。
「何よぉ、減るもんじゃないでしょうに」
「アッシュさんに、してあげてください」
「この街には居ないもの⋯⋯」
少し寂しそうな顔をし、再度尻に手を伸ばす。
ササッとマリアさんの後ろへ逃げる。
「いけずな子ねぇ。まぁいいわ、ちょっと待ってなさい」
ロゼさんは、机の上に置いてあったベルを鳴らす。
「お呼びですか、ボス」
クリスさんが現れた。
「明日帰るそうよ、別れの言葉があれば今のうちに言っておきなさい」
「そうなんですね。そうですね、私からは特に無いですが、モルソパへと来た際は顔を見せるように、歓迎しますよ。それと、貴方達の旅路が無事である事を祈っています」
そう言ってクリスさんは手を差し出した。
1人1人と力強い握手を交わすと、ロゼさんの横へと移動した。
「少しの間だっけど、楽しかったわ。次は依頼とか関係なく、また来なさい。私も歓迎するわよ」
ロゼさんは1人1人に、熱い抱擁を交わした。
「短い間でしたけど、お世話になりました」
「ドレスラードに来たら、うちの宿屋に来てくださいねー」
「皆様方のご無事を、今後ともお祈り申し上げます」
そうして俺達は、ローズガーデンを後にした。
******
「よろしいのですか?」
「何がよ?」
「一緒にドレスラードへ行って、アッシュさんと会うことも出来たと思いますが」
「何言ってるのよ、貴方達を放っておいて行くわけないでしょぉ。そうでしょ?クリス」
女はクスリと笑い、答えた。
「そうですね、貴方は何時でも私達を第一に考えてくださいましたから。⋯⋯ですが、そろそろワガママを言っても、良いと思いますよ?」
「⋯⋯私はここを離れられないわよ。まだ小さい子も居るもの」
ローズガーデンは40名ほどからなるクランだが、それは10名の子供も含めた人数。
まともに冒険者として、働いている者は20名ほどしかいない。
だからこそ、クランマスターである自分が離れる訳には行かない。
「ボス、いえ。ロゼさん」
この子がボス呼び以外で呼ぶ時は、かなり真面目な話をする時だけ。
彼女は口を開く。
「孤児である私達を拾ってくれて、その身を犠牲にしながらも育ててくれました。ですから、今度は私達が恩を返す番です」
「⋯⋯良いのよ、私が勝手にやった事よ。気にしなくていいわ」
「ええ、ですので。私達が今からやる事はお気になさらず、どうか仕事を続けてください」
⋯⋯何を企んでいるのかしら。
扉がノックされ、1人の男が入ってきた。
「クリスさん、全員の準備終わりました」
「ご苦労さま、貴方も最終確認してきなさい」
「分かりました。ボスも早めに準備してくださいね」
準備?なんの?
「ちょっと待ちなさい、なんの準備よ」
「え?なんのって、引越しの準備ですよ。クリスさんから指示されましたし、それじゃ最終確認があるので、俺はこれで失礼します」
男は部屋を出ていった。
⋯⋯⋯⋯聞いてないわよそんな事。
まさか⋯⋯。
「クリス。説明なさい」
「分かりました。我々ローズガーデン一同、ドレスラードへ移住する為。昨日より、準備を始める様に指示しました」
「⋯⋯⋯⋯へぇ?わ、私はそんな指示出してないわよねぇ??」
「ええ、もちろん。私の独断です」
「な、何を勝手なことを!!」
「ボス、この街の住人は孤児を集めてる私達を、快く思っておりません。それならいっそ別の街に行くのも手かと」
「いやいや、だからといってそんな急に⋯⋯。この街が貴方達の故郷じゃない」
私自身は別の街出身だけれど、他のメンバーはこの街で生まれ育った者しかいない。
移住とは、その故郷を捨てる様なもの。
そんな事、許すわけにはいかない。
「ロゼさん、私達の故郷は貴方が作ってくれた、このローズガーデンです。モルソパの街ではありません。もしも、貴方が拠点を龍の巣にするというのなら、私達は全員ついて行きます。それだけの覚悟と思いがあります」
そこで一旦区切ると
「お願いします。どうか私達に、貴方から受けた恩を返させて下さい。我々が願うのはただ1つ。ロゼさん、貴方の幸せです。ドレスラードにはそのきっかけがあるんです。どうか、どうかお願いします」
クリスは深々と頭を下げ、悲願した。
⋯⋯⋯⋯。
私の幸せ⋯⋯ね。
何を勘違いしているのかしらこの子は、私の幸せなんて、とうに叶ってるというのに⋯⋯。
この子達を拾い、育て上げ、成長する姿を見る事が出来た、それだけで十分なのに⋯⋯。
街の路地裏で、雨に濡れて震えていた女の子が、ここまで立派に成長出来た。
私は、それだけで幸せに思えていたのよ?
恩を返すだなんて、何時も貴方達が私を慕ってくれる。それだけで十分な恩返しよ⋯⋯。
頭を上げようとしないクリスの肩に手を起き、告げた。
「バカな子ね⋯⋯。これ以上、私を幸せにしてどうする気?恩だって、もう両手じゃ抱えきれないほど返してもらっているわよ」
この子達も、覚悟を決めてるのよね。
あとはクランマスターである私だけね。
「クリス」
目の前に居る子に向けて宣言する。
「私達、ローズガーデンはドレスラードへ移住するわよ。準備なさい!」
「——っ、はい!」
この子に、ここまで言わせたんじゃ仕方ないわよね。
待っていなさい!愛しのアッシュちゃん!!
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