13.調査結果
ギルドよる、周辺地域の調査が完了したという報告を聞き。
早速向かう事にした。
街の周辺の魔物の生息地が変わると、依頼の種類もガラリと変わってしまう為。
俺達の様な[銅]ランクの冒険者には、死活問題でもある。
特にワイルドボアは肉や毛皮、牙など全身有効に使える魔物の為需要が高い。
反対にゴブリンは魔石位しか旨味が無い為、出来れば積極的に狩りたいとは思えない魔物である。
かと言って人間に対しての敵対心が強い上に、放置すると上位個体が生まれる為、見つけ次第狩る必要がある。
兎に角。
どんな調査結果なのか確認してみよう。
調査結果はギルド内の掲示板に張り出されているので、俺はシャロを引連れ。
ギルドの結果を見る事にした。
ほーん、なるほどなるほど。
掲示板に貼られていた調査結果は、以下のものだった。
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ワイルドボアの生息地にゴブリンが出現するようになった。
ワイルドボアも、引き続き同じ生息地に出現するのを確認。
周辺で他に魔物の生息地が変わっている場所は、確認されなかった。
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ざっくりまとめるとこんな感じの事が書いてあった。
良かった、ワイルドボアはまだまだ狩れる様だ。
狩れるが、ゴブリンも相手しないといけなくなった。少し苦手なんだよな⋯⋯、人間の様な見た目をしているからだろうか。
まぁ当初懸念していた、ワイルドボアが街の周辺から居なくなるという事態は、避けることが出来たのは助かったな。
「良かった良かった」
「あ、ソラ君とシャロちゃん、ちょっと来てください」
調査報告を見たので、そのまま宿屋に戻ろうとした俺達をアイリさんが呼び止める。
呼ばれたので、素直に受付へと向かう事にした。
「何か用ですか?」
今日は依頼も受けていなかったので、これといった用事は思い当たらなかった。
「ええ。貴方たちがゴブリンの報告をしてくれたので、早めに手を打てたので、その報酬を渡しますね」
「え!ほんと?やったー」
「おお!やったぁ!」
俺達2人は素直に喜んだ。
冒険者ギルドでは、有益な情報には報酬を渡すのが決まりになっている。
今回、俺達が一早く近くの森にゴブリンが出没したという情報を持ち帰って来たので、それに対する報酬をもらう事が出来た。
勿論正確な情報でなければいけない。
嘘の情報をギルドに報告して、その後の調査で嘘だと判明した際は、虚偽の情報を流したという事で、暫くギルド内の掲示板に晒し物にされる。
冒険者とは信用が命だ。
嘘をつくような冒険者は、誰からも信用されない。
そういう事があり臨時収入が手に入った。
額は⋯⋯まぁこんな物だろうという感じだった。
それでも臨時収入は嬉しい、ボーナスって感じで。
臨時収入も手に入ったので俺達は宿屋に戻った。
元々休みのつもりでいたので、特にやることも無かった感じだった。
そのまま何時も通りの時間を過ごし、寝る事にした。
⋯⋯スヤァ。
◇
朝の鐘+シャロのモーニングコールで起きるのが日課になりつつある。
「おはようシャロ」
部屋を出てシャロに朝の挨拶をする。
実際大事だと思う。おはようからお休みまでを、言える間柄の人間が側に居るのはそれだけで貴重だからだ。
俺は元の世界で両親にそういう事が出来なかった。
仕事人間の両親だからか、あまり家に居なかったという事もあるが⋯⋯。
うーん、なんだか最近ホームシック気味だな。
センチメンタルな気持ちを振り払うように、頭をブンブン振り回す。
そのままシャロと共に朝食を食べた。
「よーし!シャロ!早速ゴブリン狩りに行くぞ!」
お互い朝食を食べ終えたので、俺は気持ちを切り替た。
新たに街の近くに生えて来た、ゴブリン達を狩りに行こうと思った。
「あたしは別に良いけど。ソラさー、盾直したの?」
「⋯⋯盾?⋯⋯⋯⋯っ!?」
俺は目を見開き驚愕した。
盾を⋯⋯修理していない!
ゴブリンメイジと対峙した際に、火球を盾で受け止めた。
その時に壊れたのだが、直すのを忘れていた。
「くそ!?やられた!?」
俺は頭を抱えて机突っ伏した。なぜ俺は忘れていたんだ!過去の自分の不甲斐なさに憤りを感じていた。
何やってんだ俺は!
⋯⋯まぁ過ぎた事は仕方ない、切り替えてこっ。
「もーしょうがないなー。あたしの側離れないでよ?」
やだ、シャロさん⋯⋯。
持つべき者はメイン盾だな⋯⋯。
仲間の成長を噛みしめながら、俺達はゴブリンが新たに出現する森へと向かった。
◇
うーん、到着したのは良いんだけども⋯⋯ねっ。人、多いね。
ゴブリンを狩るべく街の冒険者が、こぞってこの森へと押し寄せていた。
惨い⋯⋯。ゴブリン達の悲鳴が響いていた。
「んー。今日は帰る?」
帰り道で見つけたら狩ろう。
俺達は見事に無駄足を踏むことになった。
◇
結局帰り道も遭遇する事は無かったので、無事に街に戻ることが出来た。
「しゃーない、午後は街の依頼を片付けるか」
そう提案しシャロも其れを承諾した。
「だねー。暫くは森行っても旨味無さそうだねー」
俺達は冒険者ギルドに向かう事にした。
何時まで続くかなぁ。
俺達の様な[銅]ランクの冒険者は依頼が限られるからな、ワイルドボアの討伐は良い収入だったんだけどなぁ。
今後の事を考えると、少し憂鬱な気持ちになって来た⋯⋯。
◇
シャロと話し合い。
ゴブリン関連が落ち着くまで、お互い街の依頼を受ける事にした。
時々ホーンラビットを狩るのも忘れずに行う。
そんな日々を送っていた俺は、唐突にある思いが頭をよぎる様になっていた。
⋯⋯日本食が食べたい。
米、醤油、味噌。
流石にこの世界でこれらを見かけた事は一度もない。100年前の勇者は、その辺を広めたりはしていなかったようだ。
とは言え。別にこの世界の食べ物が合わないという事は無い。
普通に美味しいと思う。
思うが⋯⋯それとこれは別の話である。
米と味噌汁と焼き魚。
そんな定番のメニューは作ることが出来ないが。
それ以外の料理は作れそうだった。
◇
街には市場があり、色々な食材が売られていた。
割高だが魚も売られたりしている。
なぜ色々な種類の食材が売られているのかというと、勇者が作った魔法〈収納魔法〉が大きく影響していた。
〈収納魔法〉この魔法は入れた物の時間も止まる。
例えば生肉を〈収納魔法〉に入れると取り出すまで腐敗が進むことが無い。
出来立ての料理を入れれば、数日たって再度取り出しても、出来立ての状態で取り出すことが出来る。
個人個人で容量はバラバラだか、この世界の住人は全員使うことが出来る、ガチでぶっ壊れなチート魔法だ。
なので、商人はどれだけ遠く離れた地でも〈収納魔法〉に入れてしまえば、入れた時と同じ新鮮さで物を運ぶことが出来る。
だからこそ商人は〈収納魔法〉の大きさが生命線でもある。
〈収納魔法〉の大きさは個人個人で差がある為、容量が大きい人もいれば小さい人もいる。
商人を目指す際の重要な資質でもある。
俺のは何となくだが元の世界の家のリビング位だろうか、容量のキャパに関しては、なんかフワッとした感じだ。
冒険者をする分には、十分過ぎる広さだと思う。
話を戻す。
俺は今市場に来ていた。
目的は記憶に在る野菜や、調味料に近い物を見つける為だ。
元の世界の野菜に似た、野菜をいくつか見つける事も出来た。
紫色だが人参に似た味と触感の野菜。
ジャガイモの様な野菜は元の世界とソックリだった。
スイカ位あるやたらとデカいタマネギ、トウモロコシの様な見た目で味と匂いがニンニクな野菜。
他にも見た目は赤いキャベツだが、触感と味がレタスな野菜を見つけることが出来た。
元の世界の野菜のイメージがあるせいで、頭おかしくなりそうだ。
調味料に関しては、醤油と味噌は無かった。
それらしい匂いもしなかったので、多分無いのだろう。
作れるとしても、洋食位だろうか⋯⋯
いくつかの野菜と、適当な香辛料を買い宿屋に戻る事にした。
◇
「調理場を貸してほしい?別に良いが。料理できるのか?」
俺はシャロの親父さんに、調理場を借りたいと頼んでみるとあっさりと了承してくれた。
「勿論、これでも料理は得意な方ですよ」
そう親父さんに告げる。
元の世界でも家に1人で居る事が多かった為、料理はある程度できる自信があった。
「そうか、ならアレックスにも声掛けといてくれ」
「わかりました」
俺の返事を聞き、親父さんは宿屋の作業を再開した。
アレックスとは、シャロの兄にあたる人物である。
俺より2つ位年が上で、宿屋の調理を担当している。
シャロと組んでる事もあり時折、時間の空いた時に話をしたりする。
もっとも夕方以降になると、宿屋の食堂が忙しい為、あまり会う事は無い存在だ。
見た目は親父さん似ではなく母親似だ。
シャロと目元が良く似ている。
「料理したいから調理場借りてもいい?」
早速調理場へ向かいアレックスに、親父さんからの許可を取った事と、料理をしたい事を伝える。
「料理?俺は構わないけど、料理できるの?」
「任せなさい。うまいもん⋯⋯食わせてやるぜ」
「そ、そうか。一応見ていてもいいか?」
「どうぞどうぞ」
俺は早速準備に取り掛かった。
さて、今回俺が作るのはハンバーグだ。
材料を混ぜて、焼くだけだから簡単だしな。
〈収納魔法〉よりタマネギっぽい野菜を取り出す。
やたらとデカいので、端っこを少しだけ切り取りみじん切りにする。
続いて釜戸に薪を入れ〈着火魔法〉で火を着ける。
⋯⋯この魔法、何気に初めて使ったな。
指先に小さい魔法陣が浮かびそこから、チャッカマン位の火力の炎が出てくる。
しばし待ち薪に火が付く。
フライパンに油を敷き、タマネギっぽいのを炒める。
此処で飴色になるまで炒めるのだろうが、正直自分で食べるのでそこまでする気はない。
火が通りしんなりしてきたら皿に取り出し、冷ましておく。
次はひき肉を作る作業だ。
今回はワイルドボアの肉で試してみる事にした。
〈収納魔法〉より肉を取り出し。
小さく切りった後に、包丁で叩く。
兎に角叩き続ける。
ねっとり柔らかくなるまで叩き続ける。
ひき肉状にした肉を、別の深めの皿に移す。
鶏の様な4本足の鳥の卵と、事前に準備していたパン粉と塩、後は適当に市場で買った良い感じの香辛料を加え。
冷ましたタマネギも加え混ぜ合わせる。
コネコネ。
混ざったらひと塊分を手に取り、パンパン叩きながら空気を抜き形を整える。
ハンバーグのタネが全部で、5個くらい出来た。
出来上がったタネをフライパンで焼く。
両面に焼き色が付くまで焼き、水を少し入れ蒸し焼きにして中まで火を通す。
いい匂いがしてきたぞ~。
焼きあがったハンバーグを皿に移し、ソースは⋯⋯無いので、そのまま頂く事にした。
「さぁ、食べてみな」
アレックスに焼きあがったハンバーグを差し出す。
なんか難しい顔をしているな。なんで?
「頂くよ⋯⋯」
アレックスはハンバーグをナイフで一口サイズに切り取り。
フォークで刺し、口に運んだ。
俺も焼きあがったもう1つのハンバーグを食べてみる。
ハフハフッ、お!いい感じだ。
ワイルドボアの肉の旨味もちゃんとするし、香辛料も良い感じに効いてる。うまいうまい。
俺がハンバーグをガッツいてる横で、アレックスはプルプル震えていた。
⋯⋯お気に召さなかったか?
「ソラ⋯⋯、君は何処でこの料理を知ったんだ?」
「え?何処でって⋯⋯。あー、死んだ爺さんから色々とな」
存在しない俺の保護者役の爺さんに、教わったことにした。
「そうか⋯⋯」
「んー?ああ。レシピ知りたいなら教えるけど」
俺は閃いた。
アレックスにレシピを教えておけば、俺が料理をしなくても色々な料理が食えるよなぁ!
天才的すぎる閃きに、俺は震えた。
「え!?でも⋯⋯い、いいのか?」
「ええよ」
軽い感じで返事をしたが、なんでか知らんがアレックスの顔が強張っているが。
別に俺に対して不利益があるわけではないし。
⋯⋯シャロも食べるか?扉の隙間からシャロがこちらを覗いていた。
「食べるー」
その日から、時間のある時にアレックスに料理を教える事になった。
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