127.『不死』の祝福
「マリアちゃん。貴方の祝福の加護は⋯⋯」
そこで1度区切ると。
「『不死』なのよね?」
ロゼさは真剣な眼差しでそう言った。
不死。不死ってアレだよな、死にたくても死ねない的なやつ。あとは驚異的な再生能力で、復活したりするな。
⋯⋯なるほど。
潰されて肉塊になった時に、復活した理由が不死身でしたってんなら説明もつく。
流石異世界、元の世界じゃ考えられない様な、物理法則が平然と成り立っている⋯⋯。
「⋯⋯⋯⋯」
マリアさんは無言で、ロゼさんを見つめていた。顔はいつも通りの、穏やかな表情をしている。
「ねぇソラ」
「なんだよ」
シャロが声を潜めて俺を呼んだ。自然と俺もヒソヒソ声になる。
「不死って何?」
「⋯⋯⋯⋯、死なないって事だ」
「へぇー、凄いじゃん」
「そうだな〜」
凄くシンプルな感想。
「死なない、という点だけ見ると、とんでもないメリットだが、死にたくても死ねないのはかなりキツいと思うよ、俺は」
「なら大変だねー」
俺らのヒソヒソ話を聞いたマリアさんは、少し吹き出し、咳払いをひとつすると口を開いた。
「コホン。お話の前にお約束して下さい。この事は他言無用であると」
「⋯⋯分かったわ。ローズガーデンのクランマスターとして約束するわ。ここで聞いた事は他言しないと」
マリアさんはチラリと俺とシャロを見る。
「俺とシャロも言いませんよ」
「任せて!」
シャロはサムズアップして、肯定の意を示した。
その姿を見て、少しホッとした表情を見せ、クスリと笑った。
「ありがとうございます。では、改めて。ロゼさんの言う通り、私の祝福は『不死』です」
◇
マリアさんより、語られた話をまとめると。
不死という祝福が分かったのが、5歳の時に教会で鑑定を受けて、分かったのだという。
その後、その地を収める貴族領主の家に養子に出されたが、とある理由で貴族は失脚。
この理由については、話したく無いと割愛された。
まあ、義理の家族の不幸だからだろうな、無理に聞く気は無い。
その時点で、本当の両親は事故で2人とも、亡くなっていたのだそうだ
そして次に、教会に拾われたという。
最初はスプレマシー派に席を置いていたが、途中からゲバルト派に鞍替えしたそうた。
この辺の理由も語ることはしなかった。
多分教会内のゴタゴタでもあったのだろう。スプレマシー派は、人間至上主義を掲げる宗派なので、他と揉めることが多いそうだ。
そして現在に至る。と、そんな感じの話だった。
「なるほどね⋯⋯。教会側は貴方のことは知っているのね?」
「もちろん。ゲバルト派の上の方より、その祝福でより多くの魔物を滅ぼす様にと、お言葉を頂いています」
「そ、そうなのね⋯⋯」
ロゼさんもゲバルト派の教えに、若干引いている。やっぱあそこイカれてるわ⋯⋯。
「なので、この事を話すのは教会の方以外ですと、皆さんが初めてです」
そう言ってニコリと笑うマリアさん。
という事は、俺達はそれなりに信頼されてるという事か。出逢ってまだ日は浅いが、そんな風に思われてるのは素直に嬉しいな。へへへ。
⋯⋯シャロ聞いてるか?起きろ。
船をこきはじめているシャロを強めに肘で突つき、目を覚まさせる。
「——ハッ!寝てないよ、寝てない」
「戦いの後で疲れてるのは分かるが、マリアさんが話してんだから寝るなよ⋯⋯」
「ちゃんと聞いてたよー。でもさー、なんで秘密にするの?死なないってすごいじゃん」
死なないってだけ聞けば凄く感じるが、本人しか知らない苦労も有るよな。
不死の力を狙うヤカラも居るだろうし。
「不死の祝福と言っても、歳をとると死ぬわよ?見た目は、ほぼ変わらないらしいけど、前触れもなく、ある日いきなり寿命で死ぬそうよ」
あ、そういう感じなんだ。
それなら、大分話が変わってくる気がする。
「その通りです。そもそも『不死』持ちは現れた時点で、国が管理しますが私は国にバレていませんから、こうやって自由の身なんです」
あ、ヤバい案件だこれ。
「国にバレたら知ってた、俺達も罰受けたりとかするんです?」
「あー、多分大丈夫よ、多分ね。名目は希少な加護持ちの保護だから。とはいえ、バレたら死ぬまで幽閉が妥当よねぇ」
「えー!なんで閉じ込めるんですかー?」
「貴方達、不死の殺し方は分かるの?」
俺らに何かしらの罰がないのは分かったが⋯⋯、幽閉ってのもなぁ、それに不死の殺し方か⋯⋯。
すぐ思いつくのは、殺すんじゃなくて無力化だな。死なないんじゃ動き封じる位しかないだろうし。
「そうですね。殺すのは無理ですから、喋れなくしてから身動きを封じて、寿命まで封印する位しか⋯⋯。体と同じサイズの檻に入れて海に沈めたり、溶岩に落とすとかて⋯⋯。あー、あとは氷漬けとかですかね?」
「サラッとひどいこと考えつくのね、貴方⋯⋯」
あれー?なんか引かれてる。
不死身持ちの殺し方なんて、封印一択なのに⋯⋯。
「でもまぁ不死身の相手なんて、今ソラちゃんが言ったみたいに、封印するくらいしかやることが無いのよねぇ。マリアちゃんみたいに穏やかな娘ならいいけれど、悪人が持つと大変よ〜。だから見つけ次第、小さいうちに幽閉するのよ」
小さいうちから閉じ込めるのか、そうだよなぁ人権なんて無いもんな、この世界⋯⋯。
アナも髪の色と氷属性ってだけで、閉じ込められてたっていうし。
「なので内緒にしてくださいね?」
「おっけー」
少し不安だが、シャロを信じるとしよう。勿論俺もそんな事漏らす気は無いがな。
⋯⋯アナにも話を通しておいた方が、何かと力になってくれそうだよな。
聞いてみるか。
「マリアさん、アナにもこの話しておいた方が、いざって時に力になってくれるかもしれませんけど、どうします?」
「アナさんですか⋯⋯。私はまだ数回しか会っていないのですが、御2人から見て、信用なる人物ですか?」
答えは決まっているな。
「もちろんです」
「あたしのお墨付きだよー」
俺達の答えを聞き、マリアさんは頷き答えた。
「分かりました。ではドレスラードに戻った時にお話しします」
よーし、これで[白金]ランク様の協力が得られそうだ。
最悪、俺等に何かあっても、マリアさんは何処かへと逃げる事が出来るだろう。
不死だからな、俺等よりも生き延びる確率は高い。
この辺はアナ次第だが⋯⋯、俺は一度マリアさんに命を助けられた身だ、その恩に報いる位の事はしよう。
「そのアナって子はどういう子なの?こちらに迷惑が掛かる様なら、この事知ってる子は少ない方が良いのだけれど⋯⋯」
「えーっと、[白金]ランクのアナスタシア・ベールイって人です」
俺がアナの名前を言うと、ロゼさんは目を見開き今まで以上に驚いた表情をしていた。
「アナスタシア?⋯⋯まさか、血濡れの魔女の事?そんな大物と知り合いなの?!」
「知り合いというか、シャロの実家の宿に泊まってますよ。何時も夕食は一緒に食べてますし」
「そ、そうなの⋯⋯。それなら話しておいた方が良いわね。私の耳に入る話では、権力に屈するタイプの人間じゃないみたいだし」
アナは今まで、どんな事をしでかして来たのだろうか⋯⋯。
俺の頭の中のアナが可愛くウィンクした。可愛いやったー。
それは置いといて、ロゼさんのお墨付きも貰った事だし、この件は一旦持ち帰るって事でここはひとつ。
「じゃあ、この話は一旦ここまでという事で、みんな疲れていると思いますし」
「そうねぇ~。ココで話し合ってもこれ以上の答えは出なそうだし、あの2人にも私の方から口留めしておくわね。⋯⋯ああ、心配しないでね。あの2人はこのクランの中でも最古参の2人だから、信用してもらっていいわよ」
ロゼさんがそこまで言うなら一応は安心かな。
すかさずシャロが口を挟む。
「じゃあこの後打ち上げしよー!この街の料理美味しくないし、ソラ作ってよー」
「そうですね⋯⋯。出来れば私もソラさんの料理が食べたいですね、代わりに潰されましたし」
⋯⋯コ、コイツラ。
シャロはまだしも、マリアさんの件については言い逃れが出来ない。なめやがってよー!
俺はソファーから勢いよく立ち上がり、吠える。
「ロゼさん!厨房お借りします!!」




