121.VS白い魔物②
ロゼさんとクリスさんが、白い魔物に接近する。
先にロゼさんが前に出ると、ハルバードを振るい襲い掛かる。
それでも白い魔物は腕を交差し防御しようとしたが、下からの打ち上げで腕の防御を崩し、勢いそのままに蹴りを加え後方へと弾き飛ばした。
クリスさんも直ぐに白い魔物の側面へと周り、速度を落とすことなく両手に持つ短剣で斬り付ける。
擦れ違い様に、数度斬りつけた様に見えたが、白い魔物の皮膚を傷つける事は出来なかったようだ。
「ほんっとに硬いわねぇ。嫌になっちゃうわ~。そういうのは色男だけで十分よぉ~。オラア!」
軽口を叩きながらも、ロゼさんはハルバードを高速で振るい、白い魔物を抑え込んでいた。
その猛攻の合間を縫う様に、クリスさんが駆け抜け、擦れ違い様に短剣で斬り付け、時に刺突を繰り出す。
白い魔物は腕で防御をしているが、次第にそれも間にあわなくなり、体の至る所で攻撃を受け始めたが、依然としてダメージを負っている様には見えなかった。
白い魔物は攻撃を受けながらも、ロゼさんに向けて突進を仕掛けた。
長い腕を広げ、少しでも当たる範囲を広げる様にしたのだろうが。
「死になぁ!!〈ファング〉!」
ロゼさんがスキルを発動させ、ハルバードの石突きで顎を打ち上げ、一瞬の内に頭頂部へと斧の刃を叩きこんだ。
まるで獣が噛み砕く様なその一撃は、白い魔物の勢いを殺し、地面に叩きつけた。
辛うじて見えたその動きは、傍から見れば、ただハルバードを振り下ろしただけの様にしか見えなかっただろう。
地に伏した白い魔物はすぐに起き上がり、ロゼさんに拳を突き出す。
「させませんよ、〈フレイムエッジ〉」
クリスさんの短剣が炎を纏い、白い魔物の腕を数度斬り付けた。
熱を伴う斬撃に、白い魔物は怯みながら腕を引き、2人から距離を取った。
白い魔物は、斬り付けられ、燃え上がる腕を振るうも、そこに傷らしい傷は見当たらない。
「⋯⋯ッチ。想像以上に硬いですね、ボス」
「そうねぇ、貴方の炎も効果ないっぽいし⋯⋯。面倒な子ねぇ」
2人がそんな会話をしていると、1本の矢が白い魔物に向かって放たれる。
白い魔物の顔に当たるも、やはり傷を付ける事が出来ずに弾かれてしまった。
「あー、すいませんボス。触れるだけで効果のある毒も効果無い様です」
青年氏が毒の塗られた矢を放ったようだ。
触れただけで効果のある毒を使ったのか⋯⋯。
それでもこの魔物には効果が無いんだな、打撃も斬撃も、炎や毒すら効かないのか。
正直2人の間に、割って入って戦うにしても、足を引っ張ってしまう可能性の方が高い。
⋯⋯それでも行くしかないか。
幸いにも、シャロが詠唱付で放ったスキルだか魔法だか分からないもので、恐怖心が大分薄れている。
そう、恐怖心が薄れ⋯⋯⋯⋯、あれ?というか普段感じる恐怖心が無い気がする。
何時もなら、こういう場面はかなり気合を入れて動くのだが、今はそんな事は無く、スムーズに事に移れる気がする。
目の前のコイツも、不快ではあるが怖くはない。
もしや、シャロのアレは一定時間恐怖心そのものを消し去るのでは?
その事実に気づいた時、俺はゾクリともしなかった、ただ漠然とシャロのアレはそういう効果が有るんあだなぁ、と納得しただけだった。
ロゼさん達も、もしかしたらそのせいでこの魔物と戦っているのかもしれない。
本来攻撃の通じない相手など、逃げ一択だ。
ナックルベアーが、相手をしてくれている内に逃げ出すべきだった。
恐怖心が消えた事によって、その選択肢を無くしてしまったのかもしれない。
⋯⋯黙っとこ。俺はこの事実を心の奥底に仕舞う事にした。
今この状況で言うべき事では無い気がするし、そもそも逃げるにしても、もう手遅れだ。
とことんまでやるしかない。
そして俺の思考は、一旦そこで打ち切られた。
白い魔物は、四つん這いの体勢から上体を起こし、2本の足で立つと。
『キィィィイイイイイ!』
爪で黒板を引っかいた様な不快な音を出し、体を震わせた。
今までは四つん這いの体勢だったが、立つことによって、その大きさは3メートル程まで高くなった。
やはり長い手足がアンバランスだ、声を発する口内も、無数の牙が生えており、まるでヤツメウナギの口の様だった。
そして白い魔物の震えが止まった。
白い魔物は、上半身だけを前に倒し、お辞儀をする体制で手を地面に突き立て、体を引き絞るとその反動を使い、ロゼさんへと急激に迫った。
その一撃を、ハルバードの柄で受けるも、勢いそのままにロゼさんの身体が地面を離れ宙を舞った。
「うお!」
予想以上の一撃を受けたロゼさんは、男らしい悲鳴を上げながらも、地面へと着地した。
「思ったよりも力あるじゃなぁい、クリス!合わせなさい!」
「了解!」
2人が再度、白い魔物へと駆け寄る。
「〈鉄の柱〉!」
ロゼさんはハルバードの石突きを地面に突き立て、銀色の魔法陣が地面に浮かび、白い魔物へと鉄の柱を幾つも突き立てる。
それにより身動きを封じ、クリスさんが懐から取り出した何かの袋を放り投げると魔法を唱える。
「〈炎の爆弾〉」
赤い魔法陣から火球を撃ち出し、白い魔物に当たると爆発、炎上した。
油か何かの袋を投げつけたのだろうか、予想以上に燃え上がっている。
白い魔物は燃え上がり、その場から動こうとするも、鉄の柱に動きを邪魔され身動きが取れずにいた。
『キィイイイキイイイ』
不快な鳴き声が響く。これがこの魔物の本来の鳴き声なのだろうか、それとも別の何かの声か。
『たすけて しにたくない』
⋯⋯やりずらい魔物だ。
見た目は人間に近いせいで、助けを求める声を出されると一瞬躊躇ってしまう。
もっともそれが、この魔物のやり口なのだろう。
声を真似し、誘き寄せ、そして食らう。
炎が収まり、白い魔物がその姿を現す。
やはりと言うべきか、ほんの少し表面が煤で汚れている程度だった。
鉄の柱は健在で、未だに白い魔物の身動きを止めるには十分だった。
「〈闇の投槍〉!」
俺は黒い魔法陣を作り出し、漆黒の槍を白い魔物へ向かって打ち出した。




