117.とある冒険者の報告
とある街の冒険者ギルドに、冒険者から報告が上がった。
新種の魔物を発見した、と。
その報告を受けたギルドは、最初から疑ってかかっていた。
何故なら、新種を発見したといっても、別の地域では既にいる魔物だったりするからである。
ギルド間で情報の共有が、ある程度されているとはいえ、冒険者が個人で持っている情報の量はたかがしれている。
たが、今回は違う様だった。
とあるパーティの狩人が、命からがらに冒険者ギルドへと飛び込んで来た所から、その話は始まった。
「どうしたんだ?そんなに血相かえてよぉ」
狩人と、顔馴染みの男が近寄り声をかけた。
男に声を掛けられた狩人は、ビクビクと身体を震わせながら、震える声のまま答えた。
「た、大変なんだ!見たこともない魔物に襲われて⋯⋯!それで、アイツらは俺を逃がす為に、見捨てた訳じゃ⋯⋯、違う、俺は見捨ててない⋯⋯!」
要領のえない答えに男は困惑するも、普段一緒に居る仲間の3人が居ないことを考えると、3人に何かあったのだと確信した。
「落ち着けよ。何があったんだ?」
「あ、ああ。森で声がしたんだ⋯⋯、赤ん坊の泣き声が⋯⋯、俺達も変だと思ったんだ。森の中で赤ん坊の声が聞こえるなんて、変だって」
狩人はその時の様子を思い出したのか、より一層震えが増していた。
「それで、俺達は様子だけでも見ようってなって⋯⋯、近付いたら⋯⋯、や、ヤツがいて⋯⋯!それで⋯⋯!」
狩人は頭を抱えながら、体を小さく縮めながら、続けた。
「それで、近づくにつれて、赤ん坊の声が次第に大きくなって⋯⋯、今度は、たすけてって声がして、しにたくないって聞こえてきて⋯⋯、その声の聞こえる方角に急いで向かったんだ⋯⋯そしたら」
「全身白いヤツが1人居たんだ⋯⋯、そいつの口から、たすけてって、しにたくないって、それで、それで⋯⋯、その次には赤ん坊の鳴き声がして⋯⋯」
「そしたら、ソイツが急に襲って来て⋯⋯、3人は俺に直ぐに逃げてギルドに知らせろって⋯⋯!だから、だから、俺は⋯⋯」
狩人は泣きながらそう言うと、それ以上何も語る事は無かった。
余程恐ろしい物を見たのか、或いは別の何かか。
男はその話を聞き、ギルドへと報告しようとしたが、いつの間にか狩人の周りに人だかりができており、その中にはギルドのお偉いさんも混じっていた。
「悪いが話は聞かせてもらった。彼の証言が本当なら、ココ最近起きている、冒険者の失踪の原因かもしれないな」
男はそう言われ、確かにと思った。
ココ最近は冒険者が失踪することが多かった。
多かったが、所詮は冒険者だ、別の街に行っている可能性もあった。
魔物を相手にする職業だ、冒険者の生き死に何てのは常に付いて回るものだ。
だが、最近はその数が異様に多い。
[銅]や[鉄]なら、たいして気にも留めないが、[銀]ランクの冒険者パーティが幾つか消息を絶っている為、噂になり始めていた。
狩人の話を聞いた冒険者ギルドは、直ぐに対策を講じた。
[銀]ランクのパーティを3つ、計14名の冒険者に、森の捜索を依頼したのだ。
3つのパーティが、固まって捜索する事になった為、その場に居合わせていた冒険者達は、直ぐに解決するだろうと思っていた。
戻ってきた冒険者達の有様を見た者たちは、驚愕した。
14名中6人が死亡
体の一部が欠損した者が3名
目的の魔物を取り逃がすという結果に終わった
生き残った8名は憔悴仕切っており、その戦いの凄惨さを物語っていた。
そして、捜索時に見つけた、魔物の住処と思われる洞穴の近くにて、冒険者の物と思わしき鎧、衣服、頭髪が一か所にまとめられていたという。
そして、今回の捜索隊のリーダーを務めていた冒険者から、ある言葉が報告された。
「モルソパの方角へと逃げていった」と
ここは、モルソパから馬車で2日程の距離にある、[金]ランクの冒険者が居ない様な小さな町。
直ぐにモルソパの冒険者ギルドへと、件の魔物を知らせる連絡が送られた。




