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異世界転移は草原スタート?!~転移先が勇者はお城で。俺は草原~【書籍化決定】  作者: ノエ丸
ローズガーデン編

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117/344

116.????

 最初に目に映ったのは、何もない土の地面だった


 ただ虚ろな目で、地面を見つめていた

 モヤの掛かった様な頭の中が、次第にハッキリしていく


 体が上手く動かない

 地面に這い蹲るように、横たわっているのが感覚でわかる


 先ずは腕を


 肩から肘、そして手首へと力を込め

 指先で地面を触る


 動きはする

 少しの安堵感を得られた


 次は足を


 膝に力を入れ、曲げてみる

 曲がる


 足首にも力を入れ、指先が土を削る感触か伝わってくる


 どうやら、体の機能は正常な様だ


 両の腕に力を込め、上半身を持ち上げる

 ほんの少し体を浮かせたところで、限界がきた


 ドサッと、冷たく硬い土の上に倒れた

 以前の自分は、ここまでま非力では無かった

 記憶は無いが、直感でそう理解した


 その時に思った



 自分は誰だ?


 名前は?


 生まれは?


 両親や兄弟の名は?


 親しい友の名は?


 愛した者の名は?


 何も思い出せない⋯⋯


 何も思い出せないが、ただ漠然と自分の記憶が無いという事だけが、分かった

 不思議と、それでいいとすら思えた

 自分が何者なのか⋯⋯

 今はそんな事どうでもいい


 体がまともに動かない方が問題だ

 喉が渇く⋯⋯、腹も空いているのか⋯⋯

 頭を動かし、周りを見る

 何かないか⋯⋯


 少し離れた木の幹に何かがあった

 直感で分かる、アレは食える


 体に力を入れ、何とか木の幹まで這って近づく

 名前も知らない、良く分からないソレを口で噛みつく

 顎を動かし、飲み込むと、また少しの安堵感を得た


 再度頭を動かし、他の木の幹に同じものが生えているのが見えた

 地面を這い、近づき、口だけで噛みつく


 ほんの少しだが、体に力が戻ってきた気がする


 記憶は無いが、生きる為の行動は本能が教えてくれた

 兎に角腹を満たさねば⋯⋯


 もっと⋯⋯、もっと⋯⋯だ


 近くの茂みが音を立てる


 現れたのは白い何か

 角の様な物が生えてる、小さい生き物

 手を伸ばせば届く距離に近寄ってきた


 手を伸ばし、力の限り握りしめ、出せる力を振り絞り噛みついた


 口の中に液体が流れ込む

 血生臭はあまり感じなかった

 喉を鳴らし、それを呑み込むと、顎に力が入り肉が千切れた


 ああ、うまい

 そこからは、ただ肉を貪るだけだ

 血で口が汚れようが構わない


 口内に広がるその味に、ただただ食べる手が止まらない

 もっとうまい食べ方があっただろう、それでも、今この瞬間は、食べる事を止めるなど出来なかった



 喉が潤い、腹も少し満たされた

 先程よりも、体に力が入る


 情けないが、手と足を地面に付けながら移動するしかない


 ⋯⋯なぜ自分は情けないと、思ったのだろうか?


 ◇


 それからは、白い生き物が居れば積極的に食べる様にした

 他にも生き物は居たが、今の自分では白い生き物を捕るのが精一杯だった


 そんな日を何日も過ごした、ある日


 やたらと、甲高い声を出す生き物に出会った


 うるさい⋯⋯


 その生き物を掴み、齧り付く様に口に運ぶ


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯!?


 衝撃を受けた


 今まで食べていた白い生き物よりも柔らかく、食べやすい

 そして何より、濃厚な味が口いっぱいに広がる

 半分しか食べていないが、直ぐに残りを口に入れてしまった


 ⋯⋯ああ、なんてうまい


 すぐそばに別の生き物の死体が有るが、それを食べて、今の気分を壊したくない


 そう思える程の味だった


 その場を離れ、寝床にしている木で出来た物に戻った

 入り口が狭いのが難点だが、今はそれすら気にならない程に、満ち足りた気分だった

 寝床に戻り、横たわり、少しでもその気分を長続きさせる為、眠りについた


 ◇


 分かった事がある


 あの時、食べた生き物が発する声を真似ると、同族であろう生き物が寄って来る


 群れて行動しているようで、一度に何匹か寄って来る


 小さい生き物に比べて味は劣るが、それでも腹を満たすには十分すぎる味と量があった


 中には、殻がある奴、毛の長い奴など、幾つか種類があった


 毛の長い奴は楽だ、毛を取り皮を取ればいいだけだ

 だが、殻の有る奴は、そのまま食べるとガリガリしていて、結局二度手間になってしまう

 殻を外し、皮を取り除く、たまに毛の長い奴にも殻が付いている時がある

 面倒だが、ちゃんと取り除かないと、味や触感に違いが出てしまう


 殻のある奴の肉は、硬めで食べ応えがある

 毛の長い奴は、柔らかく脂身が多い


 沢山食べたが⋯⋯


 あの時食べた、小さい奴にはあれから一度も会った事が無い


 もう一度たべたいな⋯⋯


 またあの味を食べたい⋯⋯


 寝て起きると、腹が空いていた


 今日も、あの鳴き声を真似して、獲物を誘き寄せる













 おんぎゃあ、おんぎゃあ








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― 新着の感想 ―
こういうの好き
子供だと思ってたら赤子だったでござる。。。
最後の泣き声ですっごい鳥肌と寒気がした。 文章の持って行き方最後のオチが噛み合ってた!
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