116.????
最初に目に映ったのは、何もない土の地面だった
ただ虚ろな目で、地面を見つめていた
モヤの掛かった様な頭の中が、次第にハッキリしていく
体が上手く動かない
地面に這い蹲るように、横たわっているのが感覚でわかる
先ずは腕を
肩から肘、そして手首へと力を込め
指先で地面を触る
動きはする
少しの安堵感を得られた
次は足を
膝に力を入れ、曲げてみる
曲がる
足首にも力を入れ、指先が土を削る感触か伝わってくる
どうやら、体の機能は正常な様だ
両の腕に力を込め、上半身を持ち上げる
ほんの少し体を浮かせたところで、限界がきた
ドサッと、冷たく硬い土の上に倒れた
以前の自分は、ここまでま非力では無かった
記憶は無いが、直感でそう理解した
その時に思った
自分は誰だ?
名前は?
生まれは?
両親や兄弟の名は?
親しい友の名は?
愛した者の名は?
何も思い出せない⋯⋯
何も思い出せないが、ただ漠然と自分の記憶が無いという事だけが、分かった
不思議と、それでいいとすら思えた
自分が何者なのか⋯⋯
今はそんな事どうでもいい
体がまともに動かない方が問題だ
喉が渇く⋯⋯、腹も空いているのか⋯⋯
頭を動かし、周りを見る
何かないか⋯⋯
少し離れた木の幹に何かがあった
直感で分かる、アレは食える
体に力を入れ、何とか木の幹まで這って近づく
名前も知らない、良く分からないソレを口で噛みつく
顎を動かし、飲み込むと、また少しの安堵感を得た
再度頭を動かし、他の木の幹に同じものが生えているのが見えた
地面を這い、近づき、口だけで噛みつく
ほんの少しだが、体に力が戻ってきた気がする
記憶は無いが、生きる為の行動は本能が教えてくれた
兎に角腹を満たさねば⋯⋯
もっと⋯⋯、もっと⋯⋯だ
近くの茂みが音を立てる
現れたのは白い何か
角の様な物が生えてる、小さい生き物
手を伸ばせば届く距離に近寄ってきた
手を伸ばし、力の限り握りしめ、出せる力を振り絞り噛みついた
口の中に液体が流れ込む
血生臭はあまり感じなかった
喉を鳴らし、それを呑み込むと、顎に力が入り肉が千切れた
ああ、うまい
そこからは、ただ肉を貪るだけだ
血で口が汚れようが構わない
口内に広がるその味に、ただただ食べる手が止まらない
もっとうまい食べ方があっただろう、それでも、今この瞬間は、食べる事を止めるなど出来なかった
喉が潤い、腹も少し満たされた
先程よりも、体に力が入る
情けないが、手と足を地面に付けながら移動するしかない
⋯⋯なぜ自分は情けないと、思ったのだろうか?
◇
それからは、白い生き物が居れば積極的に食べる様にした
他にも生き物は居たが、今の自分では白い生き物を捕るのが精一杯だった
そんな日を何日も過ごした、ある日
やたらと、甲高い声を出す生き物に出会った
うるさい⋯⋯
その生き物を掴み、齧り付く様に口に運ぶ
⋯⋯⋯⋯⋯⋯!?
衝撃を受けた
今まで食べていた白い生き物よりも柔らかく、食べやすい
そして何より、濃厚な味が口いっぱいに広がる
半分しか食べていないが、直ぐに残りを口に入れてしまった
⋯⋯ああ、なんてうまい
すぐそばに別の生き物の死体が有るが、それを食べて、今の気分を壊したくない
そう思える程の味だった
その場を離れ、寝床にしている木で出来た物に戻った
入り口が狭いのが難点だが、今はそれすら気にならない程に、満ち足りた気分だった
寝床に戻り、横たわり、少しでもその気分を長続きさせる為、眠りについた
◇
分かった事がある
あの時、食べた生き物が発する声を真似ると、同族であろう生き物が寄って来る
群れて行動しているようで、一度に何匹か寄って来る
小さい生き物に比べて味は劣るが、それでも腹を満たすには十分すぎる味と量があった
中には、殻がある奴、毛の長い奴など、幾つか種類があった
毛の長い奴は楽だ、毛を取り皮を取ればいいだけだ
だが、殻の有る奴は、そのまま食べるとガリガリしていて、結局二度手間になってしまう
殻を外し、皮を取り除く、たまに毛の長い奴にも殻が付いている時がある
面倒だが、ちゃんと取り除かないと、味や触感に違いが出てしまう
殻のある奴の肉は、硬めで食べ応えがある
毛の長い奴は、柔らかく脂身が多い
沢山食べたが⋯⋯
あの時食べた、小さい奴にはあれから一度も会った事が無い
もう一度たべたいな⋯⋯
またあの味を食べたい⋯⋯
寝て起きると、腹が空いていた
今日も、あの鳴き声を真似して、獲物を誘き寄せる
おんぎゃあ、おんぎゃあ




