113.収穫!イキリマクリタケ!
我がイキリマクリタケ捜索隊一行は、イキリマクリタケを探して森の中を進んでいる。
生息地が森の奥にあるようで、我が捜索隊は、鬱蒼と生い茂る、茂みをかき分けひたすら森の奥へと進んでいた。
隊長であるロゼさんを筆頭に、クリスさん、青年、俺、マリアさん、シャロの順に森の中を進む。
道中、魔物との遭遇も最小限に抑えられ、順調な捜索が行われていた。
隊長いわく。
「ここら辺の魔物は、比較的おとなしいのよ。コチラが手を出さなければ何もしてこない種類が多いし、そんなに強くもないわ。でも、ダンゴムシの魔物には気を付けてね、アレは好戦的な奴だから。回転されて突っ込まれると止めるのが面倒なのよね」
とのこと。
しかし、俺達は既にダンゴムシの魔物は遭遇済みなので、対処法は分かる。
下から〈闇の棘〉で串刺し、もしくはシャロが受け止め、側面から攻撃すると良い。
俺は何時でも〈闇の棘〉が撃てる様に、イメトレをする。
「もっとも、森の中では出会わないんですけどね~」
隊長がそう言うのなら、遭遇する事は無いのだろう。
俺はイメトレをやめた。
森を掻き分けながら進み、いよいよ最初のイキリマクリタケの生息地に到着した。
「着いたわよ、ここが最初の地点ね」
「⋯⋯ここが!」
⋯⋯見た感じ特にそれらしい物はないな。
外れか?
「ボス、ここは一番近場ですし、あまり育っていない様です」
「そうね~。まだまだ小さいわね」
ロゼさんとクリスさんの2人が、そう言いながら木の根元を覗き込んでいた。
俺達も覗いてみると、小さい肌色のキノコがちょこんと生えていた。
モザイクが掛かってないな⋯⋯。
俺はロゼさんに聞いてみた。
「これが、イキリマクリタケなんですか?」
「ええ、そうよ。この感じだとまだ生えてそんなに日数が経ってない奴ね。収穫するにしても、変な模様にならないと、高く売れないのよ」
なるほど。という事は、大きくなるとモザイクが掛かる感じか。
つまり子供の頃のは、モザイクの対象でないのと一緒か。
正直、子供のでもモザイクをかけろよとは思うが。
「それじゃ、もうちょっと奥に行きましょうか」
「了解です、ボス」
俺達、イキリマクリタケ捜索隊は、さらなる奥地へと足を向けた。
◇
さらなる森の奥へと足を踏み入れた、イキリマクリタケ捜索隊一行は、お昼休憩を取ることにしていた。
「ほら、シャロにマリアさん。ご飯ですよ」
「わーい!ありがとー!」
「ありがとうございます」
俺はシャロとマリアさんに、〈収納魔法〉から作り置きしていた、料理を与えた。これで少しは不満も解消されるだろう。
俺が出した料理をロゼさんは珍しがっていた。
「初めて見る料理ね。何て料理なのかしら?」
「ハンバーガーですね、食べますか?」
俺は〈収納魔法〉から、ハンバーガーを取り出し、ロゼさんに差し出した。
「あら~、良いの?遠慮なく頂くわね~」
「もし宜しかったら、クリスさん達もどうぞ」
俺はクリスさんと、青年にも差し出した。
イキリマクリタケの生息地を教えて貰うんだ、これ位のお礼はしておかないとな。
俺はシャロとマリアさんへ、お代わりを渡しながらそう考えた。
「美味しいわねこれ⋯⋯」
「⋯⋯くっ」
「ドレスラードには、こういう料理があるのか?」
概ね好評のようだ。
マリアさんへ、お代わりを渡しながら俺はロゼさん達に料理の簡単な説明をする。
「今度クランの子に作ってもらおうかしら」
「もう一度作り方、教えて貰っていいですか?」
「お代わりお願いできますか?」
ロゼさん達も気に入ってくれたようだ、マリアさんは食い過ぎだな。
「マリアさんはストップで」
「そうですか⋯⋯」
マリアさんは、しょんぼりしていた。
別に追加で食べさせても良いが、帰りの分が無くなってしまう。ココは我慢してもらおう。
俺達は昼休憩を終え、再びイキリマクリタケの生息地を目指し、移動を開始した。
◇
1つ目の場所からも、かなり森の奥へとやってきた。
どうやらここが2つ目の場所の様だ。
「着いたわよ」
⋯⋯なるほど。
本当にモザイクが掛かってるのが、地面から生えてる⋯⋯。
⋯⋯え、ナニコレ。
そういう模様とかでなく、周りの空間にもモザイクが掛かっていた。
ど、どういう原理だコレ⋯⋯。
「これがイキリマクリタケよ~」
ロゼさんはそう言うと、おもむろに近づき、イキリマクリタケを指差した。
「おー、ホントに変な模様してるー」
「いっぱい生えてますね」
見た感じ、えーっと、10本位かな?モザイクの掛かった物体が、それ位生えていた。
なんだろうな、自然の中にモザイクが掛かってるから意外と迷彩感は有るが⋯⋯。
いや、やっぱり不自然だな。
何この光景⋯⋯。
そう思っていると、シャロがおもむろにイキリマクリタケに手を伸ばす。
「ちょっと待ちなさい」
その一言に、シャロの動きがピタリと止まる、ロゼさんから待ったが掛かったのだ。
「だめよ~、そのまま触ったら大変なことになるんだから」
「そうなんですかー?」
どうやら、このイキリマクリタケには何かある様だ。
「もしかして毒とか有るんですか?」
キノコといえば、やっぱり毒だろうか?もしくはカエンタケの様に触るだけで手が爛れる可能性もある。
俺はロゼさんの返答を待った。
「違うわよ。このイキリマクリタケはね、強く握ったりすると先端から臭い液体を出すのよ」
⋯⋯そうなのか。臭い液体ね?しかも先端から出すと。ふーん。
シャロは意にも返さず尋ねる。
「正しい採り方とかあるんですかー?」
「ええ、もちろん。クリス、実践してみて」
「了解、ボス」
そう言ったクリスさんは。
イキリマクリタケに近づき、イキリマクリタケに手を添えた。
⋯⋯え、なにそれ。
俺は頭に?マークを浮かべた、イキリマクリタケに手を添えた、クリスさんの手にもモザイクが掛かっていたからだ。
え、そういう模様じゃないの?それ。
俺の疑問を他所に、クリスさんは説明を始めた。
「まず、こうして手を添えます。そうしたら根元を刃物で一気に切り取ります」
そう言うと、片方の手に持つナイフで、イキリマクリタケの根元から一気に切り取った。
俺と青年が、一瞬ビクンと体を震わせた。
お、おう⋯⋯。なんだ、その、ね?自分のではないが、気分的にすごく嫌な感じがしてね⋯⋯。
俺は青年と眼が合い、お互い頷いた。
思いは一緒なようだ。
俺と青年の中に、確かな仲間意識が生まれた時、クリスさんの掌にあるイキリマクリタケが3分の1くらいに縮んだ。
「こうする事で、イキリマクリタケから液体が飛び出る事は無くなります。この状態でないと、高値が付かないので注意するように」
そう言ったクリスさんの掌にある、イキリマクリタケのモザイクが心なしか薄くなっている様に見えた。
その様子を見ていた、俺と青年の肩をロゼさんが叩き。こう言った。
「貴方達は次の場所から採取を始めると良いわ。いいのよ、私にもその気持ちはわかるもの⋯⋯」
「ロゼ姐さん⋯⋯」
「ボス⋯⋯」
そんな俺達の思いを他所に、女性陣はイキリマクリタケを刈り取っていった。
ナイフで根元を斬られる度に、俺と青年の何かにダメージが蓄積されてく。
⋯⋯イキリマクリタケよ、立派な精力剤にしてやるからな。
俺は心の底からそう誓った。
「ソラ見てー!すごい大きなやつ採れたー!」
「まあ、すごく大きくて立派ですね」
「刈り取っても、大きさを維持しているなんて⋯⋯、当たりですね」
女の子が手にモザイクの掛かった物を持つと⋯⋯。
いや、まぁ、ただのキノコなんだが⋯⋯。
苦笑いしかできねぇ。ハハハ。
その場のイキリマクリタケを狩り尽くした俺達、捜索隊は次なる獲物を探しに、さらに森の奥へと突き進むのであった




