109.グッバイ馬車の旅
ようやく、モルソパの街の外壁が見えてきた。
馬車の中が色めき立つ。
やっと着いた⋯⋯。
流石に、もう俺も限界だ。
そのまま更に30分程進み。
ようやく街へ入る門に辿り着いた。
全員直ぐに降りれる様に、身の回りの物を片付け始めた。
我先にと降りる事はしない。
ここで問題を起こして、街に入るのが遅れると、他の冒険者たちにボコボコにされかねない。
全員行儀良く順番を待つ。
遂に俺達の番になった。
何時もの様に、門番の側にある水晶に手を置き、何時も通りの青い輝きだった。
正直この瞬間はドキドキする。
問題を起こした覚えはないが、何かの間違いで黄色や赤色に、輝くかもしれないという思いがある。
何事も不測の事態はあるものだ。
今回は何事も無く過ごせると良いな⋯⋯。
チェックを終えた人から順に馬車へと戻り、その時を待った。
門番の許可が下り、馬車は門を潜り乗合馬車の待機場所へと向かった。
「モルソパに到着しました~。またのご利用をお待ちしております~」
その合図と共に、乗客は我先にと馬車を降りた。
いやー、すごい熱気だ。
俺達3人はゆっくり降りる事にした。
落ち着いた頃に、馬車を降りモルソパの地を踏み締める。
「あぁー、やっとついたあー」
俺は馬車を降り、体を伸ばす。
「やっとついたねー」
シャロも同じように、手や足を伸ばしていた。
「はい。最初は何をされます?そろそろお昼の時間ですが」
「そうですね、まずは宿から決めましょうか」
「賛成ー、早く決めてご飯食べよー」
俺達3人は、始めに宿を探すことにした。
とりあえず、他の冒険者の後をついて行ってみるか。
あの人達も宿はとるんだろうし。
ゾロゾロと歩く、冒険者の後を付いていくことにした。
◇
他の冒険者達の後をついて行った俺達は、宿屋街の様なエリアにつけた。
色々な宿屋があるな⋯⋯。
どういう宿屋にするべきか、俺1人なら安い所でも良いが。
シャロにマリアさんと、女性が2人も居るからな、安い所だとセキュリティに問題が有りそうだ。
かといって高すぎると、今回の依頼料から足が出てしまう。
丁度中間位のいい宿はないか⋯⋯。
取り合えず、あの宿屋を見て見るか。
外見も割ときれいだし、なにより同じ馬車の冒険者が何人か入っていた。
一応2人にも確認しておく。
「あの宿屋なんてどお?」
「いいんじゃない?見た目はキレイ目だし」
「私も大丈夫です」
よし、決まったな。早速向かう事にした。
宿屋の扉を開け、中に入る。
中もちゃんと掃除が行き届いているな。
シャロが、品定めをする様にジロジロと見回す。
「いらっしゃい。あんた達も宿泊かい?」
店主らしき女の人が声を掛けてきた。
「はい、そうです。3人なんですけど部屋空いてますか?」
「空いてるけど、2人部屋しか空いていないのよ。ベッドは大きめの1つだけど、3人で寝るには十分だけど、どうする?」
うーん、仕方ない、俺が床で寝れば問題ないな。
でも、2人の意見も聞いておかないとな。
俺は後ろに居る2人に、どうするかを尋ねた。
「あたしはいいよー」
「私も大丈夫です」
「わかった。それじゃあ、その部屋でお願いします」
「あいよ、代金は先払いで、連泊するときでもその都度払ってもらうけどいいね?」
「はい、大丈夫です」
俺は店主に代金を支払い、部屋の鍵を受け取った。
結局3人一緒の部屋になってしまったが、節約の為だ。仕方ない仕方ない。
一旦部屋に行き、どんなものか確認することになった。
◇
部屋に着いた。
まぁ、内装はいたってシンプル。
窓際にテーブルと椅子、そして大きめのベッドが1つ。
「普通だな」
「だねー」
特に面白みも無いので、俺達は宿屋を出て昼食を摂る事にした。
1階へと降りたついでに、主人に何かお勧めの店は無いかと尋ねてみると。
「そうだねー、ここを出て、左に行った先にある。店がおすすめだね」
「そうなんですね、ありがとうございます」
店も教えて貰ったので早速向かおうとしたが、ある事を思い出したので、再度尋ねる。
「因みに、ローズガーデンってクランの場所は分かりますか?」
「ローズガーデンねぇ。あそこに何か用かい?」
店主が微妙な顔をした。
「はい、手紙を届けに行きたいので」
「そう⋯⋯。えーっとね、まずは――」
店主から道を教えて貰い、俺はお礼を言うと宿屋を後にした。
⋯⋯なんか微妙な反応だったな。
え、今回もダメなやつ?奇麗なお姉さん出てきてくださいよ~。
5日間の馬車の旅の、ご褒美が欲しくてたまらないんですって~。
⋯⋯まぁいいや、行けば分かる。
今はローズガーデンよりも、この腹ペコガールズを何とかしないといけない。
「ソラー、早く行こうよー」
「お店はあっちみたいですよ」
元の世界では味わった事の無い、女性2人に引っ張られるという行為にも慣れ始めていた。
「分かったから、飯食ったら手紙届けに行くぞ」
「「はーい」」
いざ、目指すは美味しい飯屋。
◇
教えて貰った飯屋に着き、適当に注文をした料理を食べていた。
「⋯⋯うーん、あんまり?」
「そうだな、アレックス君のが圧倒的にうまいな」
「そうですね⋯⋯。お2人に出会う前なら満足したのですが、今は少し物足りなく感じますね」
頼んだのは、何かの肉のステーキ。
肉は焼き過ぎて硬めだし、とにかく塩辛い。
付け合わせの野菜は、ただ茹でただけのようで、野菜本来の味しかしない。
食えない事はないが、美味しいかと聞かれれば首を傾げるレベルだ。
スープも塩味の中に、ほんのり野菜の味がするぐらいだ。
俺が初めて異世界に来た時に食べた、アレックス君の料理の方が遥かにうまい。
実際レシピを教えると勝手に改良を加えていき、俺の作ったトマトソースの他に、新しいのを開発し、料理の種類によって使い分けてるくらいだ。
マヨネーズに関しては、俺の記憶に近い味になりつつある。
分量がどうのこうの言っていたが、俺には理解できない領域に達していた。
もしやチート持ちか?
俺の中の「ワシが育てたおじさん」も困惑して、「ワ、ワシが育てた?おじさん」になりつつある。
そんなアレックス君の料理と比べると、言っちゃ悪いがこの店のは正直いまいちだ。
舌が肥えてきているのかもしれない。
微妙にテンションが上がらない食事を終え、ローズガーデンを目指すことにした。




