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第2話 BAR『ヨリミチ』

 さて、この店の名前はBAR『ヨリミチ』

 そのカウンターの席にオレは座っている。


そして、隣りに座っている女性が今回の依頼人だ。

名前は……おっと……。


 依頼者のプライバシーは守らないとな。残念だが君達には教える事が出来そうにない。


 そうだな……とりあえず彼女の特徴……『泣きボクロ』とでも呼んでおこうか。


 いやぁ……しかし、泣きボクロ……やたらセクシーだ。

 儚さを演出する泣きボクロは美人の彼女によく似合っていた。幸薄そうな未亡人という感じが、オレの男心をくすぐる……


 おっと、見とれちまってたぜ。

 見ると彼女……泣きボクロはなにやら塞ぎこんでいる様子だ。

 よっぽどの問題を抱えてるってことか? とりあえず……


「マスター彼女に同じモノを」


 オレと同じく彼女に見とれていたマスターは我に返り静かにうなずくとグラスに氷とウーロン茶を注ぎ……


 ん? どうした? マスター? なぜそんなに離れていく?


 マスターは泣きボクロに気付かれぬようジェスチャーで「カウンターの上に手を出せ」とオレに指示を出している。


 ふ……なるほどな。カウンターの上でグラスを滑らしたいんだな?どうやらマスターはよほど格好をつけたいらしい。ここは付き合ってやるとするか。


 さあ、来い! マスター!!


 大きく振りかぶったマスターはそのグラスをオレ目掛けて思いっきり



 ブンッ!



 アレ? おいおいマスター……勢いがつき過ぎてテーブルの上を滑らせるどころかまっすぐオレの……


 ゴッシャッーーン!!


「こっぷぁっ!!」


 グラスはテーブルを滑るどころか直に頭に直撃、鮮血と共に砕け散り、オレはそのままイスから崩れ落ちた。


 ぐ……おお……あ、頭に直撃したぞマスター!? いくら相手が美人だからってはりきり過ぎ……

 朦朧とした意識の中、オレの頭を割ったマスターの方に目をやると「やったな」という顔でオレに向って親指を立てていた。


 なんだ? なんのつもりだ、その親指は?……へし折られたいのか?


 しかし、よくよく見てみるとその親指はオレにではなく隣りの美人、泣きボクロに送られているものだった。


 泣きボクロは今の様子が面白かったのか、上品にクスクス笑っている。

 なるほど……マスターは泣きボクロを元気づける為にこんなマネを……

 いや、しかし……この女、目の前で人が頭から大流血しているというのに……普通じゃないんじゃないのか?


 まさか、この女……相当のハードボイルド!!


 こ、これは負けてられんな……流血などしている場合ではない。

 オレは必死に平静を装いながら席につき、彼女に依頼内容を聞く。


「さあ、用件を聞こうか?」

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