#8仕掛ける時だ!
「やっほーテラ!」
「おはよう。フィオリア。」
初邂逅から一ヶ月、勇者はすっかり私と打ち解ける様になった。
こちらは余り会話が上手い方じゃないのに、流石のコミュ強といったところか。
魔法をかけなければあの拒否反応が出るので、私といるときは常に魔法をかけている。
そのせいもあるのだろうか?
いや、ほぼ毎日話していれば仲良くなるのも分かるっちゃ分かる。
会話の内容は他愛もないものだ。
兄弟がどうだったとか、神父様が怒ったとか、色んな話を聞いた。
私は聞く側に徹しているけど、それでも、楽しい時間になった。
そして、そろそろ仕掛けるときだ。
楽しそうに話をするフィオリアに、話を切り出す。
「…ねぇ、フィオリア。今度、ここに他の人を呼んできてくれない?」
「他の人?」
「うん。フィオリアの話に出てきた、ステラちゃんみたいな……。」
「ステラ?ステラはここまで来るの難しいと思うぞ?ステラはまだ3歳なんだから。でも、どうしたんだ?いきなり。」
フィオリアは不思議そうな声色で問いかける。
テラは三日三晩熟考して作ってきた返答をそのまま口に出した。
「……私、末っ子だから……し、下の兄弟に、あこがれでて…」
最後の方は声が小さくなって、聞こえているかすら怪しいくらいになってしまった。
前世分の記憶がある以上、私は純5歳児ではない。
今の発言は、恥ずかしすぎる。
真の目的を言う訳にもいかないので、仕方ないとは思うが……それ以外にマシなものは思いつかなった。
だが、思ったより悪くなかったらしい。
フィオリアは一瞬きょとりとして、すぐにニマニマと笑った。
「そっか〜そうだよなぁ。テラも『お姉ちゃん』したいよなぁ。」
「からかってるでしょ…。」
前世の小学生男子を連想させるニマつきは若干ムッとする。
まぁ、誤魔化せたから良しとしよう。
しかし、フィオリアの次の言葉は問題だった。
「ごめんごめん。そうだな……カノン…!カノンなら、おれがちょっと助けてやればここまで来れると思う!あいつももう5歳になるしな!今日帰ったらシスターに確認してみる。多分大丈夫だと…」
「待って。フィオリア。今、シスターって言った?」
「ん?言ったよ。当たり前じゃん。おれ達は教会の孤児院で生活してんだぜ?シスターの許可が無けりゃあんま村の外出れねーんだよ。」
考えりゃ分かるだろ、と言わんばかりのフィオリアの雰囲気に頭の隅で『そりゃそうだ』と声があがる。
8歳かそこらの子供が無許可でほっつき歩いてたらそりゃ問題ですわ。
でも、シスター、というか、聖教会はまずい。
聖教会には、魔族を一切の容赦なくバッサリいく聖騎士がいる。
あれの上位に出くわしたら、少し面倒くさいですよとウィーディはよく言っていた。
それすなわち、死ぬか死なぬか危うい所、ということ。
そんなのは正直ちょっと出来るだけ遠慮したかった…遠慮したかったが、そうもいかないらしい。
「なんだよ、テラ、シスター嫌なのか?けどさ、おれのとこのシスターはすっげぇ優しいよ!」
フィオリアは嬉々としてシスター自慢をはじめる。
その話の中で、どうやら私の存在が伝わっている事が判明した。
もしかして:既に手遅れ?
ということである。
一ヶ月ずっと自分ちの子供が同じ場所に通い続けてたらその理由も聞きたくなるものだ。
遅かれ早かれ私は認識されていたんだろう。
それならばもう、しょうがないのだ。
それに、まだ聖騎士は出てこないだろう。
所詮、子供同士の仲だ。
そうやって心を落ち着けていると、フィオリアが急に静かになった。
まさか魔法が切れたのかと思ったが、フィオリアの顔色は良さそうだった。
「どうしたの?」
そう聞くと、フィオリアは悲しそうに眉を垂らした。
いや、その、と珍しく歯切れの悪い様子のフィオリアにますます心配になる。
「勝手な想像なんだけど……テラは、全然テラの事を話さないし、いつおれがここに来てもおれより先にここにいるだろ?だから、その……テラは……」
目線を外して、言葉に詰るフィオリアに、何となく、何が言いたいのかを察する。
私のことをフィオリアなりに解釈しての心配事だろう。
だから、何か言われる前に、言ってしまおう。
「寂しくないよ。」
言おうとして、躊躇った言葉をすんなりと発したテラに、フィオリアは少し驚く。
「私はただ、話すのが下手なだけだから。確かに、兄様達も姉様も……奥様も、旦那様も、私とはあまり仲良くないけど、指南役ならいるから。」
「指南役だけ…?」
「…?うん。その指南役はとても怖くて、強くて、でも心配してくれる。みんなに好いてもらえなくても、少し、誰かに分かってもらえて、大切にさせてもらえたら、私はそれで十分。」
黒いフードの少女は微笑む。
顔はよくわからない。
フードが邪魔をして、蒼玉をチラリと覗かせるだけに留まらせている。
フードが彼女の本心をそっと隠している様な気すらして、取ってほしいと思う。
少年の周囲には少女の様に本心の分かりづらい人間はいなかった。
心が分からないことが、少年にとって、どうにももどかしい。
そんな少年の心情を知ってか知らずか、少女はおもむろに立ち上がり、誰か連れてきてねと、言い残していつもの様に森の中に消えていった。
馴染みの冒険者がそこに来たのはその直後だった。




