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魔王の娘の推し活事情  作者: 和樂
第1章魔王の娘は推しを得る
7/21

#7はじめまして


その日、金色の少年はお気に入りの花畑にいた。

崖の上にあるその場所にはひかり輝く小川が流れ、心地よい空気が流れている。

少年は駆け回って遊ぶのも好きだが、花を摘み、孤児院の妹分達に冠を作ってやるのもまた好きだった。

その日は末の妹分が体調を崩していた為、少年はいつもより更に、妹分を喜ばせようと気合が入っていた。


だが、その日は先客がいた。

先客は黒と蒼を基調としたドレスを着て、花畑の中に座っていた。 

顔はマントで隠れていて、よく見えないがドレスを着ているので、女の子には違いなかった。


それに少年は驚いた。

ここまで来る道は急な坂や崖が多く、女の子の体では来るのが厳しい。

ましてやドレスで来るなんて、尋常ではない。

少年は少女に興味が湧いた。


「なぁ、お前、どうやってここに来たんだ?」


思わず、少年は声をかけた。

すると少女はこちらを振り返った。


「…はじめまして。」


少女は返事になっていない返答をぽそりと寄こした。

フードの下からチラッと見える蒼い瞳に少年の胸はざわつく。

(なんだ…?なんか、変な、感じだ。)


「私はテラ。あなたは?」


「おれ、はフィオリア…。」


テラと名乗る少女は蒼い宝石に感情を宿さず、淡々とフィオリアとの距離を縮める。

フィオリアの緑の眼は少女のサファイアに釘付けにされる。

形容し難い違和感にフィオリアの頭が痛くなる。

こころなしか呼吸も荒くなって、今すぐ逃げなければという気持ちに駆られる。

だが、腰は抜けていて、地面にへたり込んだ足はこれっぽっちも動かない。

汗がじわりと滲んで、気分が悪くなる。

理由は分からない、だが、フィオリアは確かに目前の少女に怯えていた。

少女は十分に近づき、フィオリアへ手を延ばす。

それに、フィオリアは反射で目を瞑った。




「…大丈夫?」




少女の小さい手が、フィオリアの頭に触れる。

心配そうな声にフィオリアの激しく脈打っていた心臓が落ち着きを取り戻す。

目を開いて、顔を見てあげてみれば、そこには不思議そうに首を傾げる美しい少女の顔があった。


「っ…だ、大丈夫。なんか、ちょっと、変な感じになっただけだから。」


余りの近さにフィオリアはふいっと顔を逸らして、少女を引き剥がす。

怯えは止まっていた。

なら良かったと少女は呟いて、フィオリアとは反対方向へ歩き出す。


フィオリアは不思議な感覚の中にいた。

それは二度目の感覚。

5日か、6日くらい前、同じように気分が悪くなり、へたり込んでしまった。

その時と同じ、いや、それ以上の不快感がまだ体に薄っすらと残っている。

だが、それと同時にあの少女の顔も頭に残っている。

少し自分の顔が熱いのも、さっきとは違う鼓動がしているのも、なんでかなんて分からない。

薄れていく不快感と胸の高鳴りの奇妙な感覚の中で、フィオリアは声をあげる。


「テラ!明日も、ここにいる?!」


少女は立ち止まり、再び振り向き、こくんと頷く。

それにフィオリアはなんだか嬉しくなる。

少女がそのまま森の中へ消えていくと、フィオリアは自分がここに来た意味を思い出した。


「そうだ!花を摘まなきゃ!」






一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一


少女は少年からしっかり距離をとった川の辺で立ち止まる。

そして…



息を吐く。









(危なかった…!!!!危うく……)








心臓がどくどくと鳴っている。

思いもよらぬ勇者の拒否反応も、咄嗟に使った拒否反応を中和する魔法も、すべてが紙一重だった。

一歩間違えれば、二度と勇者に関わる機会が無くなり、任務を失敗する事になっていた。


だが、それと同じくらいテラには頑張った事があった。

それは、






(危うく、叫ぶところだった!!!!!)






勇者の外見についてである。

テラ的見解としては、お花と元気っ子ショタの相性はバツグンなのである。

意外性もまた、いとおかしということ。

何より、金髪緑眼という勇者っぽい色の組み合わせ、そして当然の様に整った顔は、数年経てば凄まじいイケメンに成ることを、テラに確信させた。

勇者、フィオリアもテラのヲタク心をキャッチしたのだ。


そこで、テラはフィオリアへ呪いをかける事に若干の抵抗を感じる。

命じられたのは、勇者の力の封印。 

調べたところ、それが意味するのは、勇者として不可欠な『女神の加護』を封じる事、らしい。

歴代の魔王達はその加護に守られた勇者達によって倒されていった。

そのたびに魔族は絶滅寸前となったそうだ。

だから、魔王が加護を封じるよう命令したのは分かる。

でも、あの勇者はいいヤツだし、多分推せる主人公になる。

そんな私情は、余り挟まない方が良い。

それはわかる。

そうじゃなきゃ、リオルースが危ない。

仕事はしっかりやる。

だけど、何か、良い手段は無いだろうか。

リオルースもフィオリアも、最低限の苦しみで済む様な……。





「…あ。」





テラの中に一つのアイディアが浮かんだ。



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