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魔王の娘の推し活事情  作者: 和樂
第1章魔王の娘は推しを得る
4/21

#4混じり物

テラが推しと出会った数日後、テラはベットの上で悶えていた。

(ああ〜!!かわいい!リオルース!かわいい!なんであんな発言しか出来なかったんだろう?フッざけんなよ!当時の私!ああああ!でも、やっぱ、かわいかったなぁ〜!!!!)

といった具合ににへにへと内心ニッコニコであった。

だが、外から見ればテラの顔は真顔である。

これはテラも気付いていないことだが、テラは感情が全く、ほぼ顔に出ないのだ。

傍目では、ベットで足をバタバタさせているだけに見えるのだ。


暫くそうしていたテラは急に暴れるのを止めた。

リオルースに対して、思うところがあったからだ。

(そういえば…リオルースはなんであんなところにいて、何者なんだろうか?いや、そもそも、あれは何の部屋だっただろう?)

テラは5年住んで、やっと把握した魔王城の構造を思い出して考えてみる。

(応接間…じゃなくて、休憩室…は、その隣で……あそこは……倉庫?そう。倉庫だ。確か、魔王様への献上品を置いておく倉庫だった気がする。) 

魔王は周辺の地域から金品や物資を献上させ、その地域の安全を保つ約束をする事が多い。

それに歯向かう人間も多いため、献上する人々は冷たい目で見られるらしい。

(いや、でもなんでそこにリオルースが……?)

テラは、希少な動植物がその倉庫に入れられる事があると知っている。

だが、獣人、同じ魔族を入れる所など初めて見た。

それが指すのは二通りの意味だ。

一つは、獣人の大罪人で、罪を償うため奴隷にされた可能性。

もう一つは、リオルースが魔族でない可能性。

魔族は魔王の秩序によって護られる。

だから、合法な魔族奴隷は犯罪者しかいない。

しかし、リオルースはまだ幼い。

テラの肉体年齢より、2、3歳上程度だった。

よっぽどの罪を犯さないと魔族奴隷にならない以上、一つ目の線は薄いだろう。

(じゃあニ個目の方が…?いやでも猫耳あったし、完全な人間って訳じゃないよね?んーー………)


「ウィーディに聞いてみるか。」


考えてわからない事は、さっさと聞くに限る。

そう思って、テラはベットから飛び降り、部屋から出ようとした。

するとー




『うわ゛ァ゛ァァァァ!!!』



 

静かなはずのテラの室内に、子供の叫び声が響いた。

その声にテラは直感する。


「リオルース…!?」


衝動的にテラは声のした方向へ駆け出す。

意識を集中させて音源の周辺を探ると、3つの気配の集まる部屋を感知した。

この数年でテラは魔力という感覚をすっかり自分のものにしていた。

しかし、テラは異変に気付いた。

(城のみんなは、何も気付いて無い…?あれだけ大きな声なら誰かは気にするものじゃ…?でも、とにかく、リオルースの所へ……)

リオルースの気配を感じる扉の前に辿り着いた。

その部屋の名前は通称()()()

捕らえた人間と()()したり、奴隷を()()する場所。

テラの遠慮したい場所堂々のNo.1である。

テラが入るのに少し躊躇していると、再び声が聞こえた。


『誰か……助けて…。』


先程と打って変わって弱々しい声だ。

中に感じる気配は3つ。

一つはリオルースでほぼ間違いない。

では、あとのニつは?

(魔王軍の誰か……だろうな。多分、彼らは仕事中だ。それを止めたら、困るかな……。)

もし、魔王の命令を邪魔する事になったら、娘である私の命ですら危うい。

私は魔王に会った事がない。

産まれてから王妃にも会っていない。

他の兄妹達には会っているのをよく見るから、多分。私だけ愛されていないのだろう。

下手に愛されて魔王になんかさせられたらたまったもんじゃないのでそれでいいのだけど……。

私の命が軽いのが問題だ。

(どうする…?最悪、この扉を開けたら死ぬ。でも、助けてという子供を見捨てるなんて……)


「テラ第四王女殿下。如何なされましたか?」


突然、後ろから声がした。

テラが驚いて振り返ってみると、ウィーディが立っていた。

「ウィーディ……。」

「この中が気になりますか?」

ウィーディは優しい口調で問いかける。

テラはコクリと頷いた。

嘘をついたってウィーディにはすぐバレてしまうから、素直になったほうがいい。

「談話室では、現在混じり物(インピュリティ)への罰がくだされています。」

混じり物(インピュリティ)…?罰…?どういうこと……?」

ウィーディは険しい表情で口を開いた。

混じり物(インピュリティ)は魔族と人の混血の事を指します。……ところで、魔族には魔族の秩序がある。それは何かお分かりですか?」

「……強さ。」

「そうです。強い者は尊ばれ、弱い者は見向きもされません。身分など関係なく、強い者が偉いのです。」

ウィーディの言葉を聞く間にも、テラの耳には扉の向こうから悲鳴が響く。

扉に掛けた手がカタカタと震える。

「そして、人には人の秩序があります。それによってある程度は社会に守られます。では、混じり物(インピュリティ)はどうでしょうか?」

優しく告げるウィーディはテラの頭を撫でる。


「魔族でもなく」


『痛い……やめッ…!』


「人でもなく」


『許して…!許してください…!!』


「そんな存在は、誰が守り、助けるのでしょう?」


「………。」

テラは声が出なかった。

響く叫びと眼の前の老人の笑みのギャップで、頭が痛くなった。

「誰も助けないのです。混じり物(インピュリティ)は他の人間より、多少は頑丈ですから魔族にとっては道具として都合が良く、人間にとっては脅威として疎まれる…。」

「……でも…あの子は子供。なんで、…なんで……。」

「テラ様、寧ろ子供の方が便利なのですよ。子供の内に刷り込まれた事は、大人になっても残り続けますから。」

ウィーディの言葉はわがままを言う子供を諭すようで、そんな口調で紡がれる言葉は無慈悲で冷酷だった。

「あの混じり物(インピュリティ)には貴き貴方様と言葉を交わした罰が下されています。」

「そんなっ…!あれは、私が気になっちゃって…!」

「それでも、ですよ。貴方様には魔王様の血が流れている。そして、貴方様は将来魔族を支える傑物に成長なさるでしょう。」

「そんな訳なっ…!」

「そんな訳あります。良いですか?貴方様には才能がある。私は御兄弟の誰よりも貴方様に可能性を感じているのです。そんな貴い存在である貴方様と下賤とされている混じり物(インピュリティ)が会話するなど、言語道断なのですよ。」

ウィーディはひたすら冷静に、宥めるように言葉を放つ。

人間だった頃の価値観や感性が全く通用しない違和感にテラは吐き気すら感じた。

「しかも、無意識でしょうが、貴方様に思念まで飛ばしている。寧ろ罰が死なない程度に加減されているのは幸運なことです。」

ウィーディはテラの手を扉から離させ、テラの頭を撫でいた手に光を宿らせる。

すると、テラの脳内からリオルースの声が消えた。


「あの混じり物(インピュリティ)と貴方様は関係ないのですよ。そんな事を考えるのはこれ以降お止めなさい。」


さぁ帰りましょうと言うウィーディに手を引かれて、テラの足は談話室から離れていく。

思念はもう聞こえていないのに、テラの頭の中には声がまだ響いていた。

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