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魔王の娘の推し活事情  作者: 和樂
第1章魔王の娘は推しを得る
20/22

#19白の少年の望み


「いただきます。」


「いただ……?」


「…………。」


私とカノンは無駄に長くて広いテーブルの定位置に付く。

私とカノンが向かい合わせになる形だ。

リオルースは、私に促されるままに私の隣に座った。

二人はいただきますに聞き覚えが無いようで、不思議そうな顔をしている。

そういえば、いただきますは、この世界に無い概念だったか。

まぁ、慣れてもらおう。


「命と作ってくれた人に感謝って意味。」


「……魔族らしくないな。」


「ほんと。」


「悪かったね、魔族らしくなくて。」


珍しいものを見るように私を見るリオルースは、やはり可愛らしい。

くりくりとした大きな瞳にまた少し和む。


「ねぇ、リオルース。私にあなたを傷つける意思はないの。私達に、何があったか、教えてくれないかな?」


「……お前に言えば、なんとかなるのか?」


「なんとかするよ。」


「……。」


未だ食事に手をつけずに考え込むリオルースに、一旦食事をやめる。

リオルースに倒れて欲しくない。

これは早くリオルースに私を信用してもらって、馴染んでもらった方がいいか…?

嫌、でも、時間はある。

私達を信用するかどうか、彼のペースで判断してくれればそれでもいい…か?

たけど、この誤解、齟齬は取り払っておきたいのも、また事実…。


「リオルース、だっけ?なんでテラを裏切り者って言うの?」


「3、4ヶ月前に、テラに他の混じり物(インピュリティ)が逃げた場所を教えただろ?したら、教えたその翌週くらいに、そこの連中が、軒並み捕まってた。どういうことなの?」


「え?」


3、4ヶ月前に私とリオルースが会っているだと?

その頃は、仕事が大詰めで、めっちゃしんどかったときじゃん?!


「ちょっと待ってよ、3、4ヶ月前なんて、テラはぼくを拐おうとしてるか、帰ってきたか、寝てるか、どれかだよ!」


「え?おまえ、拐われたの?ってか、どゆこと…?」


「そんなのはどうでもいいでしょ。問題は君が会ったテラが、本物のテラじゃないってことだ。」


そう。それだ。

考えられるのは一つしかない。

他の魔族による擬態だ。

混じり物(インピュリティ)は、便利な生き物。

人間でもなく、魔族でもなく、いわば、合法で得られる奴隷。

見目の美しい者も多く、昔から、魔族から人間、人間から魔族への賄賂としても用いられたという。

狙われやすく、傷付けられやすい種族なのだ。


「その私は私に擬態した魔族の可能性が非常に高いね。魔族、特に私みたいな悪魔族(デーモン)は、そういうの得意だから。」


「…僕に対して言ってること、本当だろうな?」


「信じられないよね。だから、行動で示す事にするよ。」


「行動?」


「そう。だから、リオルースの望みを教えて。多少の無茶でも、叶えてみせる。」


テラはリオルースの金色の瞳を正面から見据える。

リオルースは、少し躊躇って、意を決したように告げた。





「売り飛ばされた、他の仲間を取り戻したい。」



リオルースは泣きそうな、とても不安そうな顔になって、膝の上で、拳をぎゅっと握る。

テラはかたく握られた拳を、優しく包み、笑う。


「私に任せて。」


黒髪の魔族は勢い良く席から立ち上がる。


「ちょっと、テラ?!どこ行くの?」


「やるべき事が分かった。それさえ分かれば、やりようはある。ちょっと書庫に行ってくる。カノンは、リオルースをお願い。」


「む、無理だって…!って行かないでよー!」








一一一一一一一一一一一一一一一一

広い食堂には白髪の少年と、それより一回り小さい深紫の少年が取り残された。

深紫の少年がどうしようと頭を抱えていると、白髪の少年が口を開いた。


「……なぁ、お前とあいつって、どういう関係なの?」


「だから、被害者と誘拐犯。」


「やばくね?それ。」 


「ぼくもそう思う。でも最近はそれでいいかなって思うようになってきた。」


「は?なんで?」


「ぼくはテラに記憶の一部を消されている。そのせいで、村人との記憶とか、好きだった食べ物のことを思い出しても、その時どんな気持ちだったか、わからなくなってる。だから、別に戻りたいとか思わないし、どうせすぐに昔の記憶も無くなっちゃうよ。」


「……それで、お前はいいわけ?」


「いいんじゃない?それに、ぼくは記憶があったって村には戻れない。第一、こんな髪色をしているから、冷たい人も多いんだよ。少なくとも、ぼくがぼくを完璧にコントロール出来るようになるまでは帰れない。だから、記憶がある方がさみしくなっちゃうかも。テラにはぼくが人を傷つける前にここに連れてきてくれて、感謝してるよ。」


どこか、遠くを見るような目で灰色の少年は言う。

白の少年はそれに首をかしげ、皿の上で動かすだけ動かしていたフォークを止める。


「そんなバカな顔してないで、早く食べてくれる?ぼくも手伝ってやるから、早くテラのところに行こう。」


「誰がバカだと?このクソガキめ。僕は…俺は、お前らを信用した訳じゃないからな。前に、一回お前らを信用して…それで、俺の仲間は…………」


「ぼくは別に信用されたいって言ってないよ。ぼくだって、テラのことは全然分からない。ちょっと不気味なくらいだよ。全然笑わないし、よく気持ち悪いこと言うし……」


「上司にそんなこと言って良いのか?」


「言ったでしょ。ぼくは被害者だって。やることがないから、テラの手伝いをしようと思ってるだけ。だから、もし、テラが嘘つきで、ぼくたちを騙してるだけなら、ぼくはお前に協力してあげる。」


「どうだかな…。そうだ、お前じゃなくて、リオルースか、リルって呼べよ。」


「じゃあ、ぼくもカノンって呼ばせてあげる。」


「あげる、じゃなくて呼んで下さい、だろ。」


「リルって呼んであげるから、落ち着いてよ、かわいいお耳のリルちゃん。」


「はぁ?なんだと?!」


その後も暫く、口論を続けた深紫の少年と白色の少年は、見かねた『屋敷うねうね族』に、食堂から放り出されたのであった。

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