閑話 勇者は目覚めの時を迎える
静かな夜の月明かりの下、おれは目を覚ました。
そこはよく見知った村唯一の診療所の病室だった。
起き上がろうとしても、体中が重くて、だるくて動けない。
ベットの上で首を回してみると、近くの椅子にアル姉が座って寝ている事に気付いた。
「ァ…ル、…ぇ……?」
声をだそうとしても、掠れた音しか出なかった。
喉がカラカラに渇いているらしい。
だがそんな声でもアル姉は目を開けてくれた。
「フィオ…?!目が覚めたのね!良かった…!」
「ァル…ねぇ…、みぃ、ず」
「水ね。はい。」
アル姉が俺の口に水を注いでくれる。
生ぬるい水が乾いた喉を潤し、思考もはっきりしてきた。
「ありがと。…ねぇ、おれ……なんで、ここにいるんだっけ?…」
「………。」
アル姉は顔を曇らせて俯く。
それに嫌な予感がする。
何があったのかと自分の記憶を必死に辿る。
(たしか、あの花畑で遊んでた…。一人で?いや違う。アル姉と、カノンと……そうだ。『テラ』とだ。そうだそうだ。遊んでるときに、急に気持ち悪くなったんだ……それで…それで?)
「カノンと、テラ…は?おれ、どうなって……?」
「カノンは…カノンはっ…!」
月明かりの下で、アル姉の顔がぐしゃりと歪む。
今にも泣き出してしまいそうな顔だった。
いつもにこにこと優しい顔でおれたちを見ていたアル姉の、そんな顔ははじめて見た。
おれは驚いたが、それより次の一言の方が、おれを驚かせた。
「魔族にッ連れさらわれたの…!!!!」
「は?」
アル姉の目から涙が溢れる。
理解が、追いつかない。
「魔族…?」
「テラは!魔族だったのよ…!テラは……あの悪魔はッ!フィオと、カノンを連れ去って、監禁して、怪しげな術を施して!アーサー兄ちゃんの腕を切り裂いて!挙げ句の果てに!カノンを連れて消えた!!!」
アル姉は感情のままに、叫ぶように、おれに出来事を伝えた。
アル姉は、そんな冗談を言うような人じゃない。
ということは…つまり…!
無理やり起き上がって隣のベッドのカーテンを開ける。
アル姉の静止も振り払って。
カーテンの奥には、両腕に包帯を巻き付け、意識を失っている兄がいた。
「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
アーサー兄は拳闘士。
つまり、拳が精密に動かなきゃ二流にすらなれない。
アーサー兄は一流の拳闘士だった。
血の繋がりはなくても自慢の兄だった。
こんな大怪我をすれば、兄が元のレベルの拳闘士に戻れるかわからない。
多分……不可能だろう。
兄は、『サイキフノウ』に、なった、されたのだ。
体の奥底に確かにあった温かい気配が、今ではその残った温もりすら冷め始めている様な感覚。
頭の片隅でおれの平和は終わってしまったということを理解した。
その、消えかかっている温もりは、おれに言う。
『魔族を殺せ!』
『一匹も逃がすな!』
『あの憎きテラを打ち倒せ!』
『弟を取り返せ!』
『兄の仇を討て!』
『お前と世界の平和を取り戻せ!』
おれは今、心に誓おう。
テラだけは許さない。
何があっても。
どこまでも追って、カノンとアーサー兄の受けた苦しみを億倍にして返してやる!!!
その瞬間、この世界に、『勇者』が生まれた。
魔族は、判断を誤った。
テラに行かせるべきではなかったのだ。
勇者の魂は封印出来ずとも、『女神の加護』なら封印出来る。
ここでの魔族にとっての正解は、村を焼き払い、勇者を魔王城までつれ去ってから殺し、『女神の加護』を確実に魔王城に捉える。
それただ1つだったのだ。
勇者はそれに気付かない。
かけられた最大限以上の恩情に気がつけない。
己の中の憎しみに気を取られ、深く考える事が出来なかった。
それはある意味仕方のないことだった。
これから暫く勇者くんとは疎遠になる(予定←これ重要。)ので、閑話という形で、登場させようかなと思いました。
本編再登場まで、後2回閑話挟めるかな〜と思います。
いつもありがとうございます(・∀・)




