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魔王の娘の推し活事情  作者: 和樂
第1章魔王の娘は推しを得る
17/22

閑話 勇者は目覚めの時を迎える


静かな夜の月明かりの下、おれは目を覚ました。

そこはよく見知った村唯一の診療所の病室だった。

起き上がろうとしても、体中が重くて、だるくて動けない。

ベットの上で首を回してみると、近くの椅子にアル姉が座って寝ている事に気付いた。


「ァ…ル、…ぇ……?」


声をだそうとしても、掠れた音しか出なかった。

喉がカラカラに渇いているらしい。

だがそんな声でもアル姉は目を開けてくれた。


「フィオ…?!目が覚めたのね!良かった…!」


「ァル…ねぇ…、みぃ、ず」


「水ね。はい。」


アル姉が俺の口に水を注いでくれる。

生ぬるい水が乾いた喉を潤し、思考もはっきりしてきた。


「ありがと。…ねぇ、おれ……なんで、ここにいるんだっけ?…」


「………。」


アル姉は顔を曇らせて俯く。

それに嫌な予感がする。

何があったのかと自分の記憶を必死に辿る。

(たしか、あの花畑で遊んでた…。一人で?いや違う。アル姉と、カノンと……そうだ。『テラ』とだ。そうだそうだ。遊んでるときに、急に気持ち悪くなったんだ……それで…それで?)


「カノンと、テラ…は?おれ、どうなって……?」


「カノンは…カノンはっ…!」


月明かりの下で、アル姉の顔がぐしゃりと歪む。

今にも泣き出してしまいそうな顔だった。

いつもにこにこと優しい顔でおれたちを見ていたアル姉の、そんな顔ははじめて見た。


おれは驚いたが、それより次の一言の方が、おれを驚かせた。



















「魔族にッ連れさらわれたの…!!!!」




「は?」


アル姉の目から涙が溢れる。

理解が、追いつかない。


「魔族…?」


「テラは!魔族だったのよ…!テラは……あの悪魔はッ!フィオと、カノンを連れ去って、監禁して、怪しげな術を施して!アーサー兄ちゃんの腕を切り裂いて!挙げ句の果てに!カノンを連れて消えた!!!」


アル姉は感情のままに、叫ぶように、おれに出来事を伝えた。

アル姉は、そんな冗談を言うような人じゃない。

ということは…つまり…!


無理やり起き上がって隣のベッドのカーテンを開ける。

アル姉の静止も振り払って。


カーテンの奥には、両腕に包帯を巻き付け、意識を失っている兄がいた。











「うわァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」





アーサー兄は拳闘士。

つまり、拳が精密に動かなきゃ二流にすらなれない。 

アーサー兄は一流の拳闘士だった。

血の繋がりはなくても自慢の兄だった。

こんな大怪我をすれば、兄が元のレベルの拳闘士に戻れるかわからない。

多分……不可能だろう。

兄は、『サイキフノウ』に、なった、()()()のだ。




体の奥底に確かにあった温かい気配が、今ではその残った温もりすら冷め始めている様な感覚。

頭の片隅でおれの平和は終わってしまったということを理解した。




その、消えかかっている温もりは、おれに言う。



『魔族を殺せ!』





『一匹も逃がすな!』





『あの憎きテラ(あくま)を打ち倒せ!』





『弟を取り返せ!』





『兄の仇を討て!』








『お前と世界の平和を取り戻せ!』







おれは今、心に誓おう。




テラだけは許さない。

何があっても。





どこまでも追って、カノンとアーサー兄の受けた苦しみを億倍にして返してやる!!!
















その瞬間、この世界に、『勇者』が生まれた。




魔族は、判断を誤った。

テラに行かせるべきではなかったのだ。

勇者の魂は封印出来ずとも、『女神の加護』なら封印出来る。

ここでの魔族にとっての正解は、村を焼き払い、勇者を魔王城までつれ去ってから殺し、『女神の加護』を確実に魔王城に捉える。

それただ1つだったのだ。



勇者はそれに気付かない。

かけられた最大限以上の恩情に気がつけない。

己の中の憎しみに気を取られ、深く考える事が出来なかった。

それはある意味仕方のないことだった。

これから暫く勇者くんとは疎遠になる(予定←これ重要。)ので、閑話という形で、登場させようかなと思いました。

本編再登場まで、後2回閑話挟めるかな〜と思います。

いつもありがとうございます(・∀・)

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