#15銀色冒険者が来るぞ!
フィオとカノンを探しはじめてから20日が経過した。
アルと話した後、冒険者ギルドに依頼して手の空いてる冒険者に捜索を手伝って貰うようにしたし、村の連中にもあらかた声はかけた。
なのに、まだ見つからない。
もしかしたら、もう森に居ねぇんじゃねぇかとも思うが、『テラ』は、ガキ二人を連れている訳で、大規模な移動は出来ねぇはずってのと、『テラ』はフィオをすぐに返してやる、と言った事も考えると、この辺りを探す価値は十分にある。
あいつ等が苦しい目にあっていないか心配だ。
もう20日もたっているんだ、精神もすり減るだろうし、肉体的にも緊張状態が長く続いたせいで、限界間際だろう。
二人の無事を祈るのももうこれで何度目なのか…。
ため息をつきながら人が隠れられそうな場所を探し回る。
パクスの森は広大で隠れられる場所もいっぱいある。
特に洞穴はいいとこついてると思う。
雨風しのげるし守りやすい地形だろうからな。
思い当たるポイントを片っ端から当たっている……が、あるポイントの前で何か違和感を感じた。
「あれ…ここにもあったはずなんだが…」
そこは小さい洞穴で、俺は屈まないと入れないが、寝そべったり飯を食ったりするには十分な広さがあった。
それがなくなっているのはおかしい。
「フィオとカノンなら余裕で入れるが……一応、確認しておくか。」
流石に連れ去った奴がそんなチビではないと思うが、屈めばなんとか入れるのだ。
確認するに越した事はない。
「『鑑定』」
もし、この鑑定で何かしらの異常が認められればここにあいつ等がいる可能性が高い。
連れ去った馬鹿の顔も拝めるかもしれねぇ。
『鑑定結果が出ました。』
「さぁ…どうだ?」
『鑑定結果:岩の洞穴
:生命反応3(内、2人間、1魔物)
:魔力隠蔽、魔力壁、遮断壁、回復の繭
強制睡眠、その他、3つの魔法の使用が
認められました。
:』
「ビンゴじゃねえか!!!」
空中に浮き出た鑑定結果が物語っているのは、中に探している者が居るという事実に他ならない。
「魔族だ…!二人を攫ったのは魔族だ!」
奥歯をギリリと噛み締めて、固く握った拳で洞穴を叩く。
洞穴がびくともしないところを見ると、やはり防御がかかっているのだろう。
そしてふと、鑑定結果の欄の一番下を見る。
『 認められました。
:魂世侵入の呪いが内部にて只今実行完
了しました。』
「呪い……だと……?」
呪いはハイリスクだが、その効果は凄まじいものだ。
そんな魔の手に弟達がかかっているなど…!!
「どこまで卑劣なことを!!!」
今すぐにでも、この邪魔な壁に全力の魔法を叩きこんでやりたい衝動に駆られる。
たがそんな事をすれば、この洞穴が崩れてしまうかもしれない。
はやる気持ちを抑え、熱量を加減して炎を一点に細く集中させ、慎重に洞穴に風穴を開けていく。
意外にもあちらの抵抗がほぼなくあっさりと切る事が出来た。
暗い洞穴の中に光が差し込み、内部を明るく照らす。
その光は入り口付近に倒れている金髪の少年をも照らした。
「フィオ!!!!」
青髪の青年は弟に近づこうと、洞穴内に脚を踏み入れた。
すると、
「うわっ…?!」
青年は突然膝からガクリと崩れてしまい、猛烈な眠気に襲われる。
「なる…ほど。これで…フィオを眠らせて…たが…」
青年がボソリと呪文を唱えると青年の周囲がぱっと光る。
その光が収まると、青年は平然とした顔で、再び前に進む。
「こんな魔法が、俺に通じると思うなよ…!」
青年の胸にかかっているのは銀のプレート。
青髪の青年、アーサーは銀色冒険者だった。
アーサーは弟の肩を揺さぶり必死に声をかけつつも、辺りを見回す。
「起きろ!フィオ!しっかりしてくれ!!」
意識を失っている弟を抱きかかえ洞穴の奥をじっと観察する。
狭くて身動きが取りづらい上に弟も抱えるなど、戦いづらいにも程がある。
一歩後ずさり洞穴から出ようとすると、薄暗い洞穴の奥で何者かが立っているのが見えた。
「何者だ!!」
怒りを込めて怒鳴れば、そいつは一歩前に出る。
随分と軽い足音に、小さな体、そしてそいつの腕には、ぐったりとしている幼子が……
よく知った弟が力なく気を失っている姿を見て、青年の怒りが限界に達する。
「カノンを離せ!『テラ』!!!!!」
青年の全力の叫びにも、洞穴の奥にいる何者かは動じない。
洞穴の外へ出ようとまた一歩前に出る。
「お望みならやってやる!!うおおおおお!」
カノンを離す気も会話する気もない魔族に青年も覚悟を決める。
青年は自身の魔力を全力で解き放つ。
洞穴が軋み、壁に亀裂が走る。
青年の魔力に触れ、魔族にはじわじわとダメージが入っていた。
それに思わず後ろにバランスを崩しかけた魔族に接近し、弟の手を思い切り引く。
「あ。」
「じゃあな!このクソ魔族め!」
そのまま魔族の腹を踏み切り、弟二人を連れて崩れゆく洞穴から脱出する。
魔族は10メートル程人間3人が飛ぶ勢いで蹴られ、その上からは土砂が落ちてくる。
(流石に死んだだろ?)
すっかり崩れ落ちた洞穴の前で、青髪の銀色冒険者は勝利を確信した。
冒険者はどうやって弟たちを連れて帰ろうかと、考えが移り変わる。
顔色は良くないが、ちゃんと息をしている弟たちは眠っているだけらしい。
カノンの方は、深紫の髪色になっている。
(早く灰色に戻してやんないとな。深紫なんて、魔族みたいじゃねぇか。カノンだって灰色の方が安心するだろうし、そっちの方が穏やかな気がする。)
カノンを撫でると、小さく呻いて、青年は思考が脱線していることに気付く。
(ああ…そうだ、早く医者に見せなきゃ。起きるまで待つか?誰か呼んでくるとか…俺はさっき魔力を全力で出しすぎて、体中痛えんだよな。解除系の魔法は使えねぇし…俺、前衛で殴るのが仕事なんだぞ?魔力はちっせぇし、魔法技術にも詳しくないっての!ああ、けど、こんだけデケェ音だしたんだ。誰かが来るか。…………いやぁ…こいつらが生きてなきゃこの考えはなかった訳か……まじ…、本当に…!)
「無事で、良かった…!!!!」
「うん。…本当にだよね。」
眼の前の弟たちにかけたはずの言葉が、何故か後ろから反応が返ってきた。
「?!!なっ!お前?!!なんっで!!!」
ばっと後ろを振り返ってみれば、そこには、美しい少女が立っていた。
濡れ羽色の髪に、大きなサファイアの瞳、白い肌、尖った牙、そして頭には一対の大角!!
「なんでって言われても……。申し訳ないけど魔力も籠もってないあれっぽっちの瓦礫で私は死なないんだ。寧ろ、あなた達が無事な方が奇跡だよ…。」
さも当たり前の事の様に言う少女が信じられなかった。
さっさと村まで逃げなければと思っても、何故か身体は動かない。
「身体がっ…!貴様…何をした!」
「何も。きっとあなたの本能が優秀なんだよ。あなたの身体は理解している。『動いたら死ぬ』って。あなたがこれ以上邪魔さえしなきゃ殺すことに意味はないから、見逃してあげる。」
平然と弟へ歩みを寄せる少女はよく見ればボロボロで、服も体も血と泥に塗れていた。
それなのに美しいと思うのは少女本来の美しさが本物だからだろうか。
「!!待て…やめろ!連れて行くな!」
少女はカノンに手を触れ、持ちあげる。
「やめろ!やめろ!俺にできることなら何でもする!だから!」
「あなたの妹さんも同じことを言っていたよ。でも、ごめんね。」
「頼む…!そいつは、俺の家族なんだ!かけがえのない、弟なんだ!」
叫ぶように懇願する青年に、少女は向き直る。
「この子は幸せにする。少なくとも、辛いだけの思いはさせない。だからね、追ってこないでって村の人たちに伝えて。」
「そんな勝手が許されると思うな!!!」
青年の強い感情が本能を越えて少女を殴りかかったとき、少女は残念そうに眉を垂らした。
「出来るだけ傷つけなくなかったのに。」
瞬間、空中に咲く血桜。
「ゔぁぁぁ!!!!!」
少女の手刀が青年の両腕の肘から下を縦に切り裂いていた。
「もうまともに戦えないんじゃないかな。フィオリアとカノンの為にも、これ以上被害者を出さない方が良いよね。」
「く…そ…!!ま、て…!!」
「じゃあね。銀色冒険者さん。」
青年は激痛によって薄れゆく意識のなか、微笑みながらこの場を去っていく少女を見つめていた。




