#12お姉ちゃんも妹
その日、パクス村は大騒ぎになった。
孤児院に暮らしていた少年二人が、謎の人物に攫われたらしい。
パクス村の人口は決して多くないが、その分、村人同士の絆は深く、例え孤児院に捨てられた子供であっても、慈しみをもって接する人間が多かった。
連れ攫われたのは金髪の少年、フィオリアと灰色の髪の少年、カノン。
フィオリアの方は特に村の子供たちと仲が良く、村の子供たちのリーダーの様な立ち位置で、他の子供から慕われているのを村人みんなが度々見かけていた。
そんな少年とその弟分が攫われるなど、現実感があまりにもなかった。
その目撃者である娘も姿形を一切記憶しておらず、かろうじて名前だけを覚えているという有り様だ。
姿のない人攫いに平和で賑やかな村が、衝撃と恐怖に染まっていた。
「おいおい、何だ…こいつはよ…。おい、べリのばーさん、何かあったのか?いつからパクスはこんな陰気臭ぇ村になっちまったんだぁ?」
そして、その衝撃は、フィオリア少年の馴染みの冒険者の耳にまで届くこととなった。
青髪の青年はいつも駆け回っている子供たちがいない事に違和感を感じ、近くにいた村人の老婆にその訳を聞くことにした。
老婆は村に帰ってきた冒険者の青年に事情をゆっくりと説明した。
青年の顔つきは段々と険しくなり、完全に聞き終える前にありがとうと一言言って、孤児院の方向へ駆け出していった。
青年は冒険者として鍛えられた足で、凄まじい勢いのまま村の端の孤児院まで走り、扉を乱雑に開けた。
「フィオ、カノン!!!!!!!」
孤児院のエントランスには、シスターと神父が憂鬱そうに座っていた。
帰ってきた青年に、シスターはほんの少し顔色を明るくし、青年に駆け寄る。
神父も頭を抱える手を離して青年の方を向く。
「…!アーサー!良かった。貴方が帰ってきてくれて、本当に良かった…。」
「全くだ…。お前がいれば、あの子たちも見つける事ができるかもしれん。」
青年は、老婆の言っていた事が嘘ではない事の確信を得た。
得てしまった。
「シスター、じじい、二人はほんとにいなくなっちまったのか…?」
「ええ。一昨日、フィオリアとカノン、それとアルノーラがあそこの花畑に遊びに行って…太陽が沈んでも帰ってこないものだから、心配になって、神父様が迎えに行ったの。」
「ああ。私が迎えに行った。だがそこに居たのは、気を失って倒れているアルノーラだけ。村中の者に手伝ってもらって二人を探したが…遂に見つからなかった。昨日の午後、アルノーラの目が覚めたんで、話を聞いてみれば…信じられんことばかり言いよる。アーサー、お前からも一つ話をしてやってくれないか。」
はぁとため息をついて、静かに話す初老の男の顔は暗く曇っている。
長く付き合ってきた青年ですら、そんな神父の姿ははじめて見た。
その事に驚きを感じながら、青年はかわいい妹分のもとへ向かった。
(じじいもシスターも村の連中も、すっかり暗くなっちまってよ…。それに、フィオとカノンが攫われただぁ?何がどうなってやがる…!)
アルが居ると他の奴らから教えてもらった部屋の前まで着く。
あいつらが言うには、アルは酷く落ち込んでいて、メシも禄に食っていないらしい。
(誰だ、一体…ふざけんじゃねぇ。)
「アル!アル!俺だ!アーサーだ!何があったか、話を聞かせてくれ!」
どんどんと扉を叩きつつ、声を張って中のアルに呼びかける。
少しするとドアがゆっくりと開いた。
「兄ちゃん……。」
部屋から落ち込んだ様子の妹がのっそりと出てきた。
いつもは丁寧に結ばれているエメラルドグリーンの髪も今はボサボサに乱れ、顔色も悪い。
「大丈夫じゃなさそうだな…。ハーブティーを入れるから、下に降りておいで。ゆっくりでいいからな。んで、兄ちゃんに何があったか教えてくれ。」
「…うん…。」
一階のダイニングでハーブティーを用意しながら待っていると、のそのそと緩慢な動きの妹分が席についた。
ハーブティーを差し出し、話を促すと、アルは俯いてせきを切ったように雫の様な大粒の涙を溢れさせた。
「ごめん…ごめんね、アーサー兄ちゃん…!私、私ッ…あ、あんなに、近くにいた…のにっ、ふ、二人、を、とられ、ちゃっ…た…!私が、私が弱いせいで…!フィオは、返してくれるって、でも、でも、カノンは返してくれないっ、って…!わ、私が、私がもっと、もっと、つ、強、ければ…!…今、ごろ、二人はっ…ひどい、目に、合ってなかった、かも、しれないっ…!!!」
自分だけが悪いとでも言うような泣き方に自分までしんどくなってくる。
悪いのがアルな訳がない。
どう考えたって、二人を連れて行った奴が悪いに決まっている。
「落ち着け、アル。もう大丈夫だ。な?アルはよく頑張ったよ。兄ちゃんが絶対に二人を連れ帰ってくるさ。だから落ち着いて、そいつのことを話すんだ。」
腸が煮えくり返る気持ちをなんとか抑えて、アルに質問する。
一番の手がかりはアルが握っているのだから。
「うん…。…でも、でもね、私、あの子のこと、あんまり、覚えてないの…。顔も、声も、年齢も、体の大きさも、性別すら、よくわからない…。何を言われたかは、分かるのに、その時の、映像も、声も、さっぱり、なの…。」
「そうか…何か、分かる事はないか?いつごろ此処に来た、とか、名前、とか。」
「詳しい時期は、わからないけど…、1ヶ月前には、もう、居たんだと、思う。む、村の人じゃ、ない。名前は、『テラ』。ごめん、兄ちゃん。そ、それしか、わかんない…。」
詰まりながらも、一生懸命話してくれた妹の頭を撫でる。
それに、妹はまた涙を流しはじめる。
美人が台無しになるぞと、軽口を叩いてみせながら、俺の胸の中は湧き上がる怒りで沸騰しそうになっていた。
「ありがとうな。アルはもう休め。俺が探してくるから。」
今すぐにでも、探しに行きたくて、立ち上がると、アルが俺の服の裾を掴んだ。
「そうだ……アーサー兄ちゃん、『テラ』はね、死の蜘蛛を操っていたの…。だから、その、気を、つけて…ね。あと…ありがとう…。」
弱く笑う妹に、また心の灼熱は勢いを増した。
(アルは、本当なら、あんなふうに笑う奴じゃねえんだよ。)
そして、兄は決意する。
(俺の家族を苦しめる奴は、誰だろうと、許しはしない…!!!)
Q・アーサーはシスコン&ブラコンですか?
A・その通り!!!!ベネ(イタリア語で上手、すご
い)!!!




