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魔王の娘の推し活事情  作者: 和樂
第1章魔王の娘は推しを得る
10/22

#10お姉ちゃんは優しい女の子

「こんにちは。テラちゃん。ほら、カノン、こんにちはしな?」


「こんにちは…。」


はにかむカノンを胸に抱いて、今日も弟の友達と会う。

カノンは最近やっとテラちゃんとお話できるようになった。


「こんにちは。アルノーラさん、カノン。」


「やぁっと来た!姉ちゃんもカノンも遅いんだよ!」


先に着いていた弟はむすっとして怒る。

ごめんごめんと軽くあしらうと、もっとムッとして、唇を尖らせる。

少し離れてこちらに会釈する少女がテラちゃん。

マントを深く被っていて、顔がよく見えない子で、多分5歳の女の子だという。

まだ一ヶ月も一緒に過ごしてもわかるくらいの、もの静かで控えめな性格なようで、騒がしくて元気な弟とは正反対だ。

そんな子と弟の仲が良いのは少し意外だ。


「あの、アルノーラさん。フィオリア。その…今日、教えてほしい事があって。」


「何かしら?」

「いいぜ!」


内容も聞かずに即答する弟が微笑ましい。

下の兄弟にはとことん甘い、フィオらしい態度にテラちゃんは少し驚いたようだが、そのまま躊躇いがちに呟いた。


「その、花冠の作り方を、教えてほしくて…。」


「花冠?」


「うん。えっと、私、作ったことなくて。その…」


テラちゃんは恥ずかしそうに小さな声で話す。

そして、意を決した様に弟にそっと耳打ちをする。

弟の表情はみるみる内に明るくなって、テラちゃんが弟から離れた時には、にっこにこだった。


「姉ちゃん!姉ちゃんは一番花冠作んの上手だし、教えるのもうめぇから、姉ちゃんに教わるのがいいぜ!」


「私?私で良ければ喜んで教えるわ。」


「!ありがとうございます。」


何故かからかう様な笑顔のフィオにカノンを任せて、テラちゃんに花冠の作り方を教える。

テラちゃんは小さい手を必死に動かして、花冠を作っていく。


フィオに聞いても、テラちゃんはどこから来たのか、何者なのか、一切口にしないという。

フィオが言わないだけかもしれないが、あの子が私に対して演技できるとは思わない。

恐らく、本当に知らないのだろう。

そんな子でも、花冠を作ることには興味があるし、作る過程の拙さは孤児院に居る子と一緒だと思うと、なんだか頬が緩む。


作りながら、テラちゃんがふわぁと欠伸をするのに、また和んでいると、視界の端で、フィオが


倒れた。


「っ…!テラちゃん。ちょっとごめんね…!フィオ!大丈夫?!」


心臓の動きがはやくなって、すぐさまフィオのもとへ駆け寄る。

フィオは顔を青白くして倒れていて、呼吸も浅い。


「アルねぇね、フィオにぃが……!」


顔をフィオよりも真っ青にしたカノンが今にも泣き出しそうな顔で必死に訴える。


「カノン。どうしたの?何があったの…?!」


「わ、わかん、ない…、わかんないよぅ……!」


カノンは遂に泣きだしてしまい、その場にうずくまる。


「アルノーラさん。フィオリアは…?」


テラちゃんもこちらに気付き、近づいてくる。


「ごめんなさい、テラちゃん。カノンをお願い。」


カノンを宥めるのをテラちゃんにお願いして、フィオに改めて向き直る。


「フィオ!フィオ!しっかりして!どうしたの?!」


近くに毒草があるのかと周りを見渡しても、辺りには先程花冠作りで用いた様な安全な草花ばかり。

それに、フィオには、毒草や毒虫についての知識を少しばかり教えている。

その線は薄そうだった。


「そうだ…!『鑑定』!」


フィオの胸に手をかざし、鑑定の魔法をかける。

鑑定は採取系の冒険者として、必須な魔法だ。

そのものの状態を知る事ができる。

(だけど…私が使える様な低位の鑑定じゃ、原因は…分からない…!!)

分かるのは、名前や、年齢、性別、適正のある魔法属性のみで、今の状態は分からない。

ヒューヒューと苦しそうな息を続けるフィオに、私まで嫌な汗が伝った。

(このまま…フィオが、死んじゃったら…どうしよう……)

嫌な想像に、頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。


そんな半ば放心状態の中、テラちゃんとカノンが私に呼びかける。


「アルノーラさん。……アルノーラさん!しっかりしてください!あの、あそこ…!」


「アルねぇねぇ……でたぁ…!怖いよぅ!」


一度はテラちゃんに宥められて泣き止んだカノンがまた泣きじゃくりだし、テラちゃんもある一点を指さして私へ何かを教えようとしている。


何か不味い気配を感じて、テラちゃんの指差す方向を見ると、そこには、

















禍々しい目が大量についた、巨大な蜘蛛がこちらを覗いていた。











「…!!!!……死の蜘蛛(デス・スパイダー)が、なんで……こんな、ところに…!!!!!」


死の蜘蛛(デス・スパイダー)は、銀色冒険者の上位が、徒党を組んでやっと倒す様な、いわゆる化け物。

こんな、田舎に易易と現れる様な魔物ではない!!


「に…逃げなきゃ…。今、すぐ、ここを、離れなきゃ…!」


意思とは裏腹に、腰が抜けて、禄に動けない。

歯がガチガチとなって、血の気が引いていく。


「…。…。」


テラちゃんに何か話しかけられているのは分かっても、それを言葉として聞き取れない。

そうしている間にも、死の蜘蛛(デス・スパイダー)は黒黒とした脚をカシャカシャと動かして、こちらに近づいてくる。


「テ、ラ、ちゃん…、カノン、とフィ、オを、連れて、逃げ、て…わ、私はっ…」


せめて、弟たちだけでも、逃げてほしい。

フィオはテラちゃんの体格では引き摺るので精一杯だろうと思う。

だけど、弟の無事を願う気持ちは捨てられない。


「テラちゃん…!はやくっ!!あいつが、来る…!!」


だが、テラちゃんは体を動かす事なく、ただ立っている。

テラちゃんまで、動けなくなったのかと思ったが、テラちゃんの顔を覗き込むと、テラちゃんの口はにこりと笑っていた。

(なんで……笑って…?!!)

そのまま視界を動かすと、先程まで大泣きだったカノンが、



バタリと倒れていた。



「カノンっ…?!嘘っ…!!?!」


どしんどしんと巨大蜘蛛が近づくいてくる音がする。

奴のフシューという息すら聞こえるようになって、再び、死の蜘蛛(デス・スパイダー)の来る方を見ると、既に、人1人分程の距離にまで近づくていた。


「ひっ…!!!」


その赤い複眼に睨まれて、涙がボロボロと溢れてくる。

あつい涙を流しきってしまったせいで、体の芯から冷え切った様な気がして、『死』がすぐそこにあるのを感じた。


蜘蛛は、鋭い爪のついた足の一本を大きく振りかぶる。


(あ…死ぬ……)


目を瞑ることもできず、私を殺さんと振りかざされる爪を眺める。

なんだか、動きがゆっくりにみえた。

(痛く…ないと、いいな…。)









大きな爪が、アルノーラの体を貫く、その数瞬前、アルノーラの背後から、『声』がした。






















「待て。だよ。死の蜘蛛(デスパちゃん)。」







その声はまだ高く、そして、透き通った声だった。




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