#1死にました。生まれました。
今日は、イベント最終日だった。
長年推してきたキャラクターのピックアップ、しかも期間限定で復刻が来るとも限らない、五周年ガチャ。
今日のためにガチャ石を貯めてきた。
だが、そんなガチャ石もこのラスト単発で底をつく…。
今が人生の瀬戸際。
今まで数多くの推しを排出してきた右の薬指で、そっとスマホの画面をタップする。
心臓が高鳴り、確定の虹色演出を期待する。
「……くっ…!」
そして、画面に表示されるのは金色演出。
(また、星3か…そうなのか…?!)
今まで幾度となく繰り返してきた演出に、諦めの気持ちが湧き上がる。
(もう…ガチャ石を貯める時間なんて…私には、ない!!)
悔し涙を堪えるためぐっと目を瞑る。
するとー
『やぁ、やぁ、僕こそはー』
「っしゃぁぁ!!!!!!」
飽きるほど(飽きないけど)聞いた推しの声、しかも今回のピックアップのセリフ…つまりは、引けたのだ!
近所迷惑だけど、踊り出したい気分だった。
「これは…みーこ氏に見せなくては…!」
みーこ氏は、同じゲームをやってる幼馴染で、近所に住んでいる。
みーこ氏は一足先に彼女の推しを引いていて、推しが出ない私を破茶滅茶に煽ってきたのだ。
(電話でもLONEでもなく、真ん前で威張ってやる!)
スマホを片手に階段を降りて、サンダルを履いて駆け出す。
気分は上々、実に良い気分だった。
だから、疎かになった。
普段は車通りの少ない曲がり角、私はすっかり油断していた。
キキッーーーーーーー!!!!!
「……あ。」
数瞬後、ドゴッと鈍い音がして、私の体は宙に浮いた。
地面に体を強く撃たれて、私はそのまま意識を失った。
「はじめまして。テラ。」
(……ん……?テラ……誰…?夢……。)
「おはよう。」
(まだ……ねむい……あったかい……。)
「王妃様、テラ第四王女殿下は元気です。」
(テラ第四王女殿下……?なんだ、それ……?)
寝ぼけた目をうっすらと開ける。
焦点が合わず、ぼんやりと辺を見回すと、知らない景色。
(何…ここ。うちじゃない………?)
「そうね。とっても元気。本当に良かった……。」
声がした方を見ると、綺麗な女性が涙ぐんでいた。
その女性の頭には一本の角……
「あぅ…?!(つの?!)」
そして、自分の喉からは幼い声…。
「ふふ。この子は兄妹の中で最も黒く美しい角とサファイアの瞳がある……。きっと偉大な魔族に育つわ。」
角、魔族、それに何故か聞き取れる見知らぬ言葉に脳内はパンクしそうだった。
日本語ではない、だが、何を言っているのかは分かる。
奇妙な感覚。
湧き上がる、泣き叫びたくなる衝動。
(あ、間違いない。これ、私ー)
(転生したな……。)
呆然とする内面とは裏腹に体は泣き叫ぶ。
それをよしよしとあやされながら、『私』改、テラは思う。
(やっと、ピックアップ出たのに……!!!!!)
テラの意識は泣き叫びながらまた薄くなっていった。
こうして、テラの異世界での第二の人(?)生が始まったのである。