7.変身
「府知事と同じようなものだったな」
大統領との話を終えたクィンが言った。
「国家って人間一人で決めてる訳じゃないですからねぇ」
そう告げたツェンにクィンが青い眼を光らせる。
「お前は王政を敷いてたんだろ?」
その言葉に赤眼の男が表情を曇らせながら答えた。
「一人になっちまえば、王も国もないもんで」
「ああ、すまない」
赤眼の男が建立した王国の果てに何が起きたかを読み取った女が謝罪する。
「謝罪はいけません。女王陛下」
「俺はクイーンじゃない」
その返事にツェンが笑顔で答える。
「でしょうね。さぁて、次は何を致しますか?」
「実質国を牛耳っているレーベルクに会う必要がある。が」
「が?」
言葉を止めた上司に赤眼の男が聞き返す。
「拠点がいる」
「へえ、そりゃまた何で?」
ガリガリと頭を掻いたクィンが答える。
「記憶を書き換えるだけでは俺は消えられないようだからな。人間なりの信用が要る」
「地盤を固めてじっくりいこうってことですね。すばらしい」
「ああ」
「新婚生活が楽しめるなぁ」
「ああ?」
嫌悪と怒りに満ちた表情をしたクィンが声を上げる。
「俺と一緒に一つ屋根の下に暮らそうってことでしょう? ああ、こんな押しかけ婚」
口上の途中で女の青い瞳が光った瞬間、ツェンと共に世界が消し飛んだ。
復活した世界でツェンがクィンを前に告げる。
「もう慣れましたけどね、クィンちゃんこそ何度世界を破壊するおつもりで?」
「ちゃん付けは止めろ」
青い眼を光らせようとした女をツェンが手で制す。
「女性を呼び捨てにするのは苦手なもんでしてねぇ。クィンさん、クィン様? どうもしっくりきませんや」
「お前は俺を女と認識しているのかもしれないが」
そう言いながらクィンの身体が盛り上がっていく。
「こういう姿を取れば認識も変わるか? 俺の名を言ってみろ」
「クィン」
身長190cm、体重140kg以上の巨漢を眼にしたツェンが涙ながらに名前だけを呼んだ。
「ちゃん付けしたら、いつでもこの姿になってやろう」
「はい」
姿を元の170cm程のラフな格好に戻した長い青髪の女に、魂が抜け落ちた表情で赤眼の男が答えた。