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26.亡国

「お前等に聞きたいことがある」

 東国の議事堂の中、国家主席以下を揃えた青眼の女が告げる。

「北の帝国とこの国の間にある暗黒地帯のように引かれた国境線は何だ?」

 西国が発行している世界地図に描かれている領有権不明地域に置かれた指を見て一人の男が答える。

「各国で主張が違うだけだ。それよりいきなり現れて随分と偉そうだがお前は誰なんだ? 訳の分からん妖術を使うようだが」

 議事堂の警備を潜り抜け、深夜に高官達へ召集をかけた女への質問は怒りを露わにしたものであった。

「俺が誰かがそんなに重要か?集まったってことは誰が呼んだかは知ってるんだろ?それとも貴様等一匹一匹の記憶を書き換えたら満足か?」

「小娘風情が何を」

 言葉の途中で男の体がビクンと跳ねた。

「ラオ書記官?」

 口から泡を吹いている男の隣に座っていたスーツ姿の男が声をかける。その様子に騒然としている室内に招かれざる客が現れた。

「ウチの女王様の美しさにやられちまったんじゃないですかねぇ」

「何だ貴様は」

「神」

 来室した赤眼の男が、発言した高官に掌から業火を放つ。マグマの様な炎が背後にあった壁ごと男を貫き、その直線上に存在した建物を消し炭さえ残らぬ焦土へ変えた。何事が起きたか理解が追い付かないスーツ姿の男達を前にツェンがクィンに告げる。

「交渉しろって言いましたよね? クィンちゃん、そういうところ本当に下手なんだから」

「ああ?」

 嫌悪感を露わにしたクィンの膨れ上がる筋肉を見た赤眼の男が叫ぶ。その声量に女の変化が止まった。

「ショータイム!!」

 穴の空いた壁の向こう側に見える大地からマグマが噴き上がり市街を吹き飛ばす。

「10年前にどっかの領主が街ごと炭になったことは知ってるよな?」

 艶やかな黒髪と灼熱が如く光る赤い瞳を見た高官達は直ちにその原因に辿り着く。神話が復活したことに。

「東に出でし神。大陸を席捲し地を治めん。王となり数千の栄華を築く。沙羅双樹の花の色。盛者必衰の理を顕す。驕れる者も久しからず。ただ春の世の夢のごとし」

 4000年前に東国の礎を築き上げたとされる神がいた。王政を敷き暴虐を尽くした神はついに民から追放される。その伝説の一編を唱えた赤眼の男が高官達に問う。

「その先を知ってるか?」

「猛き人も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ」

「正解」

 東国においては義務教育で習う伝承を口にした男が火柱となった。

「驕ったのはテメェ等人間共だっつぅ認識がないところ以外はな」

 史実では悪政を敷いた暴君が臣民から追放されたという形で伝わっている。しかしそれは神として君臨する王を邪魔と見なしたツェンの子孫達による奸計であった。国を破壊したとされているが、神は王国を焼くこともなく離れていったのが事実である。

「愚かなる我らを統べる王の中の王。民が地獄へ落ちようとしております。救済を」

 青い髪の女の前に跪き、そう嘆願する男に青い眼が光る。

「う、うむ。お前がそう言うならやぶさかではない」

 赤眼の男の態度に多少混乱した青眼の神がそう応じた。祖国を築いた王以上の威光を見せつけろと、赤い瞳がそう言っていることを読み取った女が焼かれた市街に手をかざす。天から降りる青い光と共に復元されていく街を目にした高官達がどよめきたつ。

「無礼は許そう」

 そう言った女が青い眼を光らせると穴の空いた壁が元通りになり、火柱と化した男が焼かれる以前の姿のまま出現した。

「小娘の姿が気に入らないようだな」

 筋骨隆々の男へと変身していくクィンの肩をツェンが叩く。

「俺は女の子を悲しませられねーのよ」

 高官達にそう告げたツェンの言葉を聞いたクィンの肉体が女神の形態を維持した。

「頭の悪ぃ人間共にも分かりやすいように話してやるよ。この御方は貴様等なんぞ生かすも殺すも自由。お前等虫以下の存在が神の前にいる。だったらだ。だったらどうする?」

 沈黙を続ける男達を赤眼の神が叱咤する。

「口の利き方に気をつけろ」

 火炎を体に灯したツェンの肩にクィンが手を置いた。

「人間の感覚はよく分からん。何度お前に殺させればヤツ等は理解をする?」

「私も女神様の感覚は分かりませんもので。もう一度くらい焼き殺しておきますか?」

 神々の会話に息を呑んだ男達は、ただその意図に従うしかなかった。




 議事堂を出た二人が静まり返る夜の道を歩いている。

「お前の言いたいことは分かった」

 不貞腐れた顔で長い青髪の女が言葉を漏らした。

「何のことで?」

「人には示威行為が必要なんだろう」

 赤眼の男が寂しく笑みを浮かべる。

「俺の王国がどうなったかは知ってるでしょう?」

「そうだったな。すまない」

 クィンがいつもする癖を真似てツェンが前髪を捩じりながら言葉を返した。

「謝罪はいけません。クイーン」

 ふっと笑った女神が答える。

「俺は女王じゃない」

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