19.王威
「入国に際し全ての装具を預からせてもらう」
「死ね」
青い眼が入国管理官を消した。赤眼の男が告げる。
「戻しましょう」
「何故?」
自身に疎ましい目を向ける女にツェンが答える。
「いくら気に食わない対応されたって、いきなり殺すのはマズいでしょう」
「そういうものか」
クィンが青い眼を光らせると時が戻った。
「入国に際し全ての装具を預からせてもらう」
「死ね」
女の身体を触ろうとしている入国管理官の頭をツェンが指で弾いた。ザクロのようにバックリと爆ぜた頭を見てクィンが訊ねる。
「いきなり殺すのはマズいんじゃないのか?」
「俺がやるのはいいんですよ」
その返答に青眼の女が時を戻した。
「入国に際し全ての装具を預からせてもらう」
入国管理官が女の身体を触る。
「男の胸を触るのが趣味か?」
厚い胸板を掴んでいる男に190cm以上ある巨漢が問いかけた。
「何だァ!?お前は!!」
「パスポートに書いてあるだろう?」
男の顔写真とバーズ=クィンファルベイという名前を確認した管理官が、男の体躯に脅え直ちにクィンの入国を許可する。
その後ろを歩くツェンの肩を管理官が掴んだ。
「お前は」
「東国伝説って知ってるか?」
ツェンの赤い瞳を見た瞬間に男が手を放す。
「国ごと消し飛ばされたくなきゃ黙っとけ」
その眼、その佇まいには説得力があった。
4000年前、東国に存在した王国を消し飛ばし世界一広い湖を作り上げた王がいた。
マグマのように燃える紅い眼には、それを信じ込ませる程の説得力があった。
「通るぜ?」
「どうぞ」
恐怖した訳ではない。それはただ、ただ敬意であった。生物として、管理官は大地の神に対してそう答えざるを得なかった。