18.無進
「さて」
談笑が続くヴィレーネ宅でリビングのソファに座っている長い青髪の女が言った。
「ここらでお暇させていただこう」
「楽しかった。新居祝いにこちらからも今度訪ねさせてもらっていい?」
立ち上がったクィンがスーツの襟を正してソフィアに答える。
「ああ。しかしこのあたりは道が悪い。必要なら車で迎えにこよう」
そう告げた女の曇りのない黒いハイヒールを見て金髪の女が告げる。
「その時はよろしく。ツェン」
「任せといてください。ドライブでも楽しみながら行きましょう」
シルファの隣でカーペットに座っていたツェンが本を閉じてそう告げた。
東へ向けて車を走らせているツェンが言う。
「クィンちゃんも女たらしですねぇ」
体を筋肉の塊に変えた巨漢に赤眼の男が応える。
「運転中はやめてくださいよ。アンタまで吹っ飛んじまう」
「俺も死にはしないが?」
その返事に、ハンドルを握り中央国へ車を飛ばしているツェンが言葉を返す。
「いちいち作り直すなら最初からやりゃいいだけでしょう」
「それができていたら苦労していない」
「俺には人類の平和ってのが何処にあるか分かりませんが」
フロントガラスに広がる大通りと青空を視界に捉えながら赤眼の男が言う。
「生きてる以上、どこにだって不幸は生まれるんじゃないですかね。たとえアンタが世界を書き換えても」
「存在する以上は俺も進まねばならない」
「そうですかい」
その返事に、赤眼の男が失った感覚だと青空が知った。