17.遠雷
「ツェンお兄さんはー?」
リビングに座る寝間着姿の幼女が言った。
「このあたりの見回りが仕事なんだ」
青い髪の女がシルファに答える。
「それはありがたいけどアポもなしに変な時間に来られるのはちょっとね」
「すまない。君に逢いたかった」
風呂上がりの頬を更に紅潮させたソフィアが訊ねる。
「このあたりの見回りって言うとクィンも近くに住んでるの?」
「隣町だ。今回は車で来たが歩いても15分程度のところに住んでいる」
クィンがスーツの内ポケットから出したケースから名刺を取り出し机に置く。
「夜分に邪魔したな」
「待って」
椅子から立ち上がろうとした青髪の女を金髪の女が引き留める。
「お茶でも飲んでいかない?」
「いただこう」
そう答えた青髪の女が机の向かいに座っているシルファに問う。
「ツェンに会いたいか?」
「うん!」
その答えにクィンが椅子から立ち上がり背を向けて告げた。
「ヤツを呼んでくる。美味い紅茶が出来上がる時間には戻る」
100年もの長い戦争が続くこの世界には、スマホやケータイという遠距離と瞬時に連絡が取れる便利な端末は存在しない。青髪の女が振り返り母娘に声をかけた。
「鍵はかけておけよ」
そう言ったクィンがリビングから出て玄関の扉を開けると赤眼の男がこちらに歩いてくるのが見えた。
「何しに来た」
「シルファちゃんに呼ばれた気がしましてね」
千里先で落ちた針の音さえ認識できる男の答えに青い眼を光らせた女が答える。
「そうか」
玄関を引き返す女の後に続いた赤眼の男がドアの鍵を閉めた。