16.無慮
青い眼の女が何の変哲もない一軒家のインターホンを鳴らす。しばらく待つが誰も出てくる気配はない。
「留守ですかね。今度来る時ぁアポ取っときましょうか」
「いや、いるはずなんだが」
「うん、まあ、いるにはいるんですけど」
その言葉に不思議そうな表情を浮かべる女に赤眼の男が言った。
「クィンちゃ・・・出られない状況ってものもありまして」
地脈を読み室内の状況を把握しているツェンにクィンが青い眼を光らせる。
「ああ、風呂か」
「出直しましょう。メッセージカードでも残しておけばスマートな人間と思われるかと」
顎に手を当ててクィンが考え込む。
「人間、か」
「お相手は人なんですから人らしく生きましょうよ」
青い眼を輝かせた女が男に反発する。
「何かお前はむかつく」
「生まれたばっかのクィンちゃんとは違うんで」
その言葉に筋肉を盛り上がらせ巨漢となったクィンがツェンの顔面に拳を突き立て、地の果てまで殴り飛ばした。
「人のことは言えませんが、暴力は控えましょうや。世界、平和にしたいんでしょ?」
真面目な顔をして告げるツェンに、バツの悪そうな顔で前髪を捩じりながらクィンが答える。
「暴力が解決することもある」
そう言ったクィンの頬を摘まんでツェンが言った。
「武力と暴力は違いますぜ。個人でも国家でも見せかけでやらなきゃならんことがあるンですよ」
青い眼を光らせた後に小考したクィンが声を漏らす。
「俺は」
「どちら様でしょうか?」
言葉の途中でインターホンからソフィアの声が流れた。青髪の女が咄嗟に応じる。
「クィンだ。話したいことがある」
「俺はずらからせてもらいますぜ」
そう告げたツェンの声にインターホンからシルファの声が響く。
「ツェンお兄さん!!」
室内から響く足音が大きくなっていく。ドアを開けた全裸の幼女にツェンが神速で背を向けた。
「クィン! 中入ってドア閉めろ!!」
その声に応じ、青髪の女がシルファと共に家に入りドアを閉じた。