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12.絶対

「ワタクシ、ユーリィ=プラストゥといいます。ソフィア女史の論文に感服いたしまして、ご挨拶に伺いました」

 そう言いながら黒髪の男が丁寧な物腰で名刺をソフィアに差し出す。一連の動作にクィンが違和感を覚えた。敢えてたどたどしい表現を使っている。この男は何かがおかしい。漆黒の瞳に青い眼がひか

「ユーリィ=プラストゥといいます。以後、お見知りおきを」

 間髪を入れずクィンに向かって深く頭を下げた男が女の意識を逸らせた。

「ああ、クィンだ。今は名刺を切らしていてな」

 そう告げながら青い眼を強烈に光らせた女に、一切表情を変えず黒眼の男が告げる。

「クィン? どちら様でしょう?」

 この男には記憶の書き換えが通じていないのか? クィンに動揺が走る。

「ドクター・クィンを御存知ないとは学のなさを露呈しているようなものね。この名刺、返すわよ」

「ドクター・クイーン様でしたか。失礼致しました。ご高名は写真や記事でお見掛けはしています。新聞や学報よりお若く見えたもので」

 青髪の女がソフィアの手を止め、黒髪の男に告げる。

「この名刺、俺にもくれないか?」

「あいにくそれが最期の一枚でして」

 クィンが青い眼を光らせるが、ユーリィと名乗った男からは一切の情報が伝わってこない。神にも気づかれぬ昏い意識が、闇の淵よりクィンの心を覗く。八百万の悪夢が汚泥の底より、深淵より尚深い光の届かぬ漆黒から手を伸ばし、青眼の女の心に、気づかれぬよう、静かに、ただ静かに―――――闇が産まれた。

「ならこの名刺、あなたにあげる。肩書にレーベルク元帥の研究施設の名前が書かれてる嘘まみれのものだけど」

「嘘かどうかは俺が決める。おい、お前。レーベルクの関係者なのか?」

「学報の片隅に研究員一同で撮った写真の端に載っている程度の者ですが、目をかけていただいています」

 青い眼を光らせるが全てが黒に染まる。

「その学報は何処にある」

「二年前にナノマシン開発が話題になったことはご存じかと思われます。図書館に行けば今でも簡単に見つかりますよ」

 その返事を耳にしたソフィアが名刺を見直す。

「あの研究に関わっていたの。名前は憶えておくわ」

「光栄に存じます」

 クィンが周囲に青い眼を光らせる。確かに二年前、レーベルクの研究成果として人体の血を巡るナノマシンが発表されたらしい。ガンなどを含む病気の進行を遅らせる、あるいは消滅させるとのことだが実用段階には至っていない。

「それでは長々と失礼いたしました」

 クィンとソフィアに深々と頭を下げた男が踵を返し去っていく。その横をシルファを肩車している赤眼の男がすれ違った。

「何だ今の?」

「レーベルクの関係者らしい」

「やべぇぞアイツ」

 クィンの薄い反応に対して静かにそう告げると赤眼の男がシルファを肩から降ろした。

「お兄さん達、用事があってね。またな、シルファちゃん」

 膝を折り、笑顔で告げるツェンに悲しげな顔つきで少女が訊いた。

「また会える?」

「俺の名はツェン。女の子のピンチにはいつだって駆けつけてやるぜ?」

 自信に満ちた笑みで優し気にそう告げる赤眼の男にシルファが聞き返す。

「本当?」

「本当」

「絶対?」

「絶対だ」

 ブラウンの瞳の少女が差し出した手に赤眼の男が強く握手をする。シルファの表情が笑顔で輝いた。

「またね!ツェンお兄さん!」

「またな。シルファちゃん」

 そう言ったツェンと共に歩き始める青髪の女に声がかかる。

「待って!」

 振り返るクィンにソフィアが言う。

「私達もまた会える?」

 青い髪を翻し、背を向けた青眼の女が答える。

「またな」

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