1.始動
白の大地が荒涼と広がる寒冷地に『それ』が顕現した。
人の姿をした『それ』が青を空へ放つ。
不思議そうな顔をする『それ』を赤い眼の男が見ていた。
「見ツ・・けたァ・・・。俺の天使ィ・・・」
悪夢の様な形相をして飛び掛かってくる男に青眼の女が強く瞳を輝かせる。
動きを止める男に顎を蹴り上げるイメージを女が与える。黒髪の男の体が跳ね、突如として仰向けに倒れている男へと青い眼を向ける。
長い青髪の女と目が合うと、赤眼の男がゆっくりとした動作で立ち上がる。
「あー・・・」
「近寄るな」
言葉と共に女が青い眼を輝かせると、赤眼の男が地に膝をついた。
同じく腰を下ろした青眼の女が思考の後、赤眼の男に厳しい口調で告げる。
「おい」
「へぇへぇ、何でしょう。お嬢様」
へりくだり頭を垂れる赤眼の男に青眼の女が言葉を続けた。
「俺がどう見えている?」
「容姿端麗、才色兼備。そのお姿から漂う気品はこのような荒野に凛と咲く一輪の華。ああ、失礼致しました。私はツェンと申します。あまりの美しさに先程は無礼を働」
口上の途中で女が青い眼を輝かせた瞬間、赤眼の男が吹き飛んだ。
怪訝な顔をし深く思い悩んでいる様子の女を目にしたツェンが立ち上がる。
服についている砂埃を払った黒いスーツ姿の男が声をかける。
「どうなされました?」
女が青い眼を深く赤い眼の男に光らせる。
その後、また深く思い悩んでいる女の肩に男が手を乗せる。
「悩みご」
再び女がツェンに青い眼を輝かせると、赤眼の男が彼方へ飛んで行った。
それを物ともせず立ち上がり、男が女の下へと近寄る。
「止まれ」
女の言葉に足を止めたツェンがその眼を見つめて告げる。
「そう邪険にしないで下さいよ、クイーン。僕が貴方の美しさに惚れてしまったことは謝りますから」
青い瞳をツェンへ向けた女が胡坐を組む。
「少しお前の話を聞かせろ」
「こんな美女と向かい合っ」
「黙れ」
そう言いながら座ろうとしたツェンに女が告げた。
「俺の質問にだけ答えろ」
黙って腰を下ろすツェンに女が言う。
「こんな美人がもったいない性格してるなぁ、とお前は考えたか?」
「素敵な女性だと」
男の言葉に女が青い眼を輝かせる。
「お前の望みは何だ?」
真っ直ぐに眼を向けた赤眼の男がその問いに答える。
「死」
「俺に協力しろ」
こちらを見つめる青い瞳に捕らわれた男が言葉を返す。
「貴方のような美女の頼みを断れる男はおりません」
その返答に青い眼を輝かせた女の前から、視界に映らない果てまで男の体が飛んだ。
「仰せのままに」
突如として背後から現れた男が女に告げる。
「必ず貴様を殺してやる。だから俺を美女だとか美人だとか言うのは止めろ」
「絶世のび」
言葉を言い終える前に青い眼を輝かせた女の前からツェンが消し飛んだ。
「僕は何て幸せ者なんだ。絵に描いたようなび・・・ヒトの隣を歩いていられるなんて」
「お前、妻がいるんだろ?」
首都へと続く道半ば、隣を歩く男に女が言う。
「あれ?言いましたっけ?まア死んだもンは取り返せませンもので」
赤い眼を伏せた男に青い眼の女が告げる。
「再び会えるとしたらどうする?」
「会いたくないですねぇ」
表情を曇らせる男の答えに女が青い眼を光らせる。
「もし生きているとしたら?」
「会いたくないですねぇ」
疎ましそうな眼を自身に向けるツェンの言葉を聞いて、強烈に青い眼を光らせた女が言う。
「そうか」
「着きましたぜ。クイーン」
車を乗り継いで都市中央に辿り着いたツェンの言葉に青い髪の女が答える。
「鬱陶しい。俺の名はクイーンじゃない」
「そう言えば名前をお聞きしてませんでしたね。何と呼べば?」
少し考え込んだ女が告げる。
「クィン」
高層ビルを背景にして、白いTシャツ、青いジーンズを履いた女の長い青髪が風に舞う。冗談のような名前を嗤うこともなくツェンが笑う。
「約束は果たしてもらいますよ。女王様」