3. 心の闇<Darkness of Mind>
初めて会ったその日以来、白鳥とオデットは、月の明るい夜にたびたび会いました。
オデットにとってその出会いは孤独を癒すものでした。
彼女には親しくお喋りする相手も、心を開くことができる友達も居ませんでした。
白鳥やロッテバルトにとっても、それは同じはずでした。
みんな孤独な者同士でした。
だから、分かり合えるかもしれないと、みんなが心のどこかで思っていたのかもしれません。
だけど、ロッテバルトは次第に気付きます。
それは、残酷な慰めでしか無いことを。
***
オデットという少女は、確かに孤独でした。
ですが、白鳥は彼女と話すうちにわかってしまいました。
――彼女の孤独は、私とは違うのだ。
ロッテバルトは思いました。
きっとあのオデットという王女は、寂しさは知っていても惨めさは知らぬであろう。
なぜなら彼女には、何もしなくても温かい寝床と食事が用意されているからだ。
誰も、彼女を見ても罵声を浴びせたり石を投げたりしないからだ。
寒さや痛みに抗いながら今日という日を必死に生きていく、その辛さを知らぬであろう。
白鳥は思いました。
彼女は何て優雅で、何て贅沢なんだろう。
何てお気楽で、何て怠惰で、何て無気力なんだろう。
飢えも凍えもしない「孤独」
上部だけでも愛される「孤独」
それの一体何がいけないのだろう。
それの一体何を嘆くというのだろう。
知らないのはオデットだけでした。
オデットだけが「みんながおともだち」で「みんなのことが好き」でした。