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白鳥の湖<Swan Lake>  作者: しろー
序幕
1/26

みにくいあひるの子<The Ugly Dukking>

 それは、ある夏の日のことでした。

 森の中の深い池の畔にあひるの巣がありました。

 巣の中で、卵が割れて、ひなが次々と生まれてきます。


「があ、があ、があ、があ」


 お母さんあひるは大喜び。

 でも、その中に、体も頭も大きい、みにくいあひるの子が一羽いました。


「変な子だねえ」


 お母さんあひるは首を傾げました。

 おばあさんあひるが近くに寄ってきて、言いました。


「その子は七面鳥の子かもしれないよ。水に突き落としてみなさいな。七面鳥の子ならきっと、泳ぐことはできないよ」


 あくる日、お母さんあひるは子供たちを連れて水の中に飛び込みました。


「さぁお急ぎ!」


 お母さんに急かされて、あひるの子たちは一羽ずつ水に飛び込みます。

 みんなすぐに浮かび上がって上手に泳ぎ出しました。

 見れば、みにくいあひるの子も、他の子供たちと同じように、すいすいと泳いでいくではありませんか。


「あら、あの子は七面鳥なんかじゃないわ。足をとっても上手に使っていること! やっぱり私の子に間違いないわ!」


 ***


「一緒に遊びたくない」


 兄弟たちは、みにくいあひるの子をいじめます。


「兄弟なんだから、みんな、仲良く遊ぶんですよ」


 お母さんあひるはいつもそういうのですが、みにくいあひるの子と遊ぶ兄弟はおらず、みにくいあひるの子はいつも一人で遊んでいました。


 ある晴れた日、お母さんあひるは、みんなを連れて、野原に行きました。

 みにくいあひるの子はいつものように一人で遊んでいましたが、いつのまにか皆とはぐれてしまいました。


「どうしよう。お家に帰れないよ」


 みにくいあひるの子は、泣きながら歩いていると、何かが風を切る音と「ギャッ」と悲鳴が聞こえました。

 見ると、体に矢の刺さったかもが一羽、空から落ちてきました。


「こわい!」


 みにくいあひるの子がものかげに隠れて震えていると、そこに、おばあさんが通りかかりました。


「かわいそうに、怖がっているのね。それにしても、変わったひよこだこと」


 おばあさんはそういうと、みにくいあひるの子を抱き上げて、家に連れて帰りました。

 おばあさんの家には、鶏と猫がいました。


「お前、卵が産めるかい」と鶏が聞きました。

「僕は卵は産めません」


 みにくいあひるの子が答えると、猫も聞きました。


「のどをごろごろならせるか?」

「それは無理です。私は水の上を泳いだり、もぐったりすることが、大好きなんです」


 みにくいあひるの子が答えると、二人はつまらなそうに、向こうへ行ってしまったので、また一人でさびしく遊んでいました。

 ふと空を見上げると、真っ白い白鳥たちが美しい姿で飛んでいくのが見えました。


「ああ、僕もあんなにきれいだったら、誰にもいじめられないのに」


 みにくいあひるの子はおばあさんの家を出て、川で暮らすことにしました。

 冬になると、冷たい雪が降り、川も凍りますが、それでも、みにくいあひるの子はじっと我慢をして、一人で暮らしていました。


 ***


 やがて、春が来ました。

 みにくいあひるの子は、ふと水に映る自分の姿を見て「あっ」と声を上げました。

 そこに映っていたのは、いつか見た白鳥たちと同じ姿だったのです。

 

 ――私は、あひるの子じゃなかったんだ

 

 みにくいあひるの子は……いいえ、白鳥はとても喜び、そして同じくらい悲しみました。


 彼女は、ずっと孤独だった自分に気がつきました。

 優しいお母さんも、気の強いお姉さんたちも、意地悪なお兄さんたちも、全部、違ったのでした。


 お母さんでも、お姉さんでも、お兄さんでもなかったのでした。

 大嫌いな兄弟のことでさえ、そのことを思うととても悲しくなりました。

 彼女は、大空を飛んでいた白鳥を思い出しました。


 ーーもうここに、私の居場所はないんだ

 ーー私の居場所を見つけなきゃ

 

 彼女は大きな羽を伸ばし、勢いよく羽ばたきました。

 彼女は飛び方を知りませんでした。それでも、私が本当に白鳥なら飛べるはずだ、と思いました。


 びっくりしたあひるたちが、彼女に近づき口々に何かを言いましたが、彼女は聞いていませんでした。

 彼女はお母さんあひるの姿を探しましたが、見つかりませんでした。

 

 ーーさようなら、私の家


 悪い思い出ばかりの家でしたが、それでもここから飛び去って二度と戻ってこないことを思うと、悲しくなりました。

 それでも行かなければなりません。


 白鳥は空高く飛び立ちました。力強く羽ばたき、ぐんぐんと空高く飛んでいきます。

 あっという間に小さくなった家を振り向くことなく、白鳥は飛び続けました。

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