外側からの襲撃
「「ブレイン・クラッシャー」だよ」
地べたに倒れ意識を失っている、黒い戦闘用スーツとヘルメットを装着している幾人もの戦闘部隊の山を見下ろしながら、彼が少し笑みを浮かべ、そして少し自慢そうに説明する。
(まるで黒いゴミ袋の山だな...)
先ほどまで「死神」だった者たちが今この状況においては、その鎌を扱えなくなり役割を失っている。狩られるものが転じて狩ることが可能な側についてしまい、ある種の感慨を感じている。意識を彼の方に直し説明に注意を向ける。
「ある種のDoS攻撃だな。攻撃者が攻撃対象になりすましてサーバに大量のリクエストをかける。サーバは攻撃対象からリクエストが来ていると認識するためリクエストに応じて相応の量のレスポンスを返す。攻撃対象は大量のレスポンスを受け取るためチップを介して脳に高負荷がかかり意識を失う」
銃口を黒い山に向け周囲を歩きながら彼はそう説明した。彼女が彼に質問をした。
「サーバってチップに一方的に更新をかけるんじゃないの?」
少し心当たりがあったので彼に代わり私がその質問に答えてみた。
「通常はサーバが一方的にチップへと更新をかけるけど、何らかの原因でチップが更新に失敗するとリプレイをサーバにかける。」
「おそらく、その例外処理を悪用したんだろう」
黒い山の向こうに歩みを進めていた彼に視線を向けて表情の確認を取る。彼が頷くと彼女が私に視線を向けてさらに質問を投げかけた。
「でも、その方法で攻撃をかけるとなると少なくとも攻撃対象のPAは知っている必要があるわね」
「ああ」
(「内通者」か...。PAの情報は「内通者」が提供しているだろうが、この攻撃は「内通者」でなくてもできる。攻撃自体は、おそらく外部から...)
彼が銃口を黒い山から外し周囲へと注意を向け始めた。そろそろ、ここから離れないと。後ろに体の向きを直して車の方へ急ぎ足で向かった。車の左の後部座席の扉を開け、持っていた長持ちの銃を座席に沿って置き後部座席に座る。彼女は運転席へと戻り、車のモニターで車の後ろを確認する。
彼がバイクへ戻りエンジンをかけると同時に車も発進する。黒い山を右横に通り過ぎた所で彼女が右耳に付けている装置を扱い言葉を発した。
「行き先は分かっているわね?」
自分の耳に付けている装置を何とか扱うと彼の言葉が聞こえてきた。
「港湾施設の所だろ?」
「あいつはちょっと苦手なんだよなあ…」
ため息混じりに彼が呟いた。
港湾施設から少し離れた街のはずれに車を止め「白いうさぎ」を待つことになった。彼もバイクを止めて待機している。辺りは既に暗くなっていて手持ち無沙汰に待機していると突然、光がこちらを照らし大きな声が聞こえた。
「ここで何をしている!?」
光で眩しく詳しくは判らないが軍警察の制服を着た人間が光の向こうにいることが判別できた。長持ちの銃を取り構えようとし銃の長さであたふたしていると彼女が運転席の扉を開け光の向こうの人間に話しかけ始めた。
「久しぶりね。元気してた?」
軍警察の制服を着た人間は手持ちの光を消し、その姿を現した。少し体がずんぐりしているがにこやかな表情で彼女に答えた。
(やつが「白いうさぎ」か)
そう察しながら後方の彼へと体を曲げ目をやる。関わりたくなさそうな表情の横顔が目に入った。視線をうさぎに戻す。「トルカーチ」にしては外国の人間に見えないことに少し疑問を感じた。うさぎは左手に下げていた大きい袋を少し上げて一言言った。
「持ってきたよ」
頼りなさそうな顔つきだが彼の制服の階級章は少尉を表していた。彼の顔をもう一度確認する。顔の皮が少しダブっているのが気になった。