内側からの襲撃
見通しの良い道路の終わりが見えてきて、曲がり角を形成する建物が太陽の光を遮る。建物の長い陰に差し掛かった瞬間、左の曲がり角から突然、空中を飛ぶ機械が姿を現した。突然の出来事にも動じず彼女はハンドルを右手に持ち直し、左手で助手席に置いていた小型の銃を取る。車の窓越しに銃を構え狙いを定める。彼女とハンターキラーの双方が互いを撃とうとする瞬間、後方から一筋の線がハンターキラーへと向かいハンターキラーが爆散した。体を左に曲げ後方へと振り返ると一人の大きい体格がバイクに乗りロケットランチャーを構えているのを捉えた。彼は構えていたロケットランチャーを道路に投げ捨て、私の方に視線を向け微笑した。安堵とともに反動でバランスを失わなかったことに関心した。
「今度はバイクの運転手かい?」
追いついて車と並走する彼に生きててよかったという安心感を悟られたくないため言葉を変えて大声で話しかけた。
曲がり角を左に曲がったところで車を止め、彼も車の後方にバイクを止めた。
「どこへ行ってたの?」
車から出てきた彼女は、彼が生存していたことは当然かのように問いかける。
「後片付けは慣れてなくてね」
彼はそうしゃべりながら上着のポケットから何か小さいものを取り出し彼女へと片手で投げ渡す。彼女はそれを右手で受け取ると右耳に取りつけ何かのスイッチを押した。彼はさらにポケットから、もう一つ同じものを取り出し、ちょうど車から出ていた私に近づいて手渡した。彼は自分の耳を指さし装着するよう私に促した。
「かつての旧友を探していた」
彼は視線を彼女へと変え、彼女へと言った。
「分派?それで見つかったの?」
「結構探し回った。どこにいったと思ったら地下に潜伏していた」
彼女がこちらの状況を話そうとした時、上空に複数のハンターキラーが現れ私達を捉えた。道路に面する近くの建物へ退避しようと体を構えた瞬間、ハンターキラーはコントロールを失ったかのように回転し始め軌道をそのままにして道路の反対側の脇へ次々と墜落していった。
「始まったようだな」
彼は予想通りという風に呟いた。彼女が状況の説明が欲しいというような顔をしたので彼は続けて説明した。
「「内通者」だよ」
彼は彼女の驚く顔を少し楽しむようだった。しかし、それ以上詳しいことは言わなかった。
「外部からではないのね」
私も彼女の言うことと同じことを考えた。内通者が存在できるはずがない。可能性として微量でもあり得るとしたら外部からしかありえない。しかし外部からとしても何重にも張り巡らされた防壁を潜り抜けなければならないだろう。様々な可能性を頭の中で巡らせていると周囲が騒がしくなってきているのを感じた。古びたコンクリート製の一階建てのテナントや2,3階くらいしかないビルから何事かと人々が騒ぎ出してきた。その中の何人かの人々は携帯している電話で私たちを視界に入れながら何か言葉を発している。
「そろそろ行かないとな」
周囲を確認しながら彼が移動を促した。彼女が左手に握っている銃を銃口を上にするように構えると周囲の人々は察したように建物の中へと散っていく。電話をしていた人々も危険を避けるかのように警戒しながら建物の中へと消えていった。人々が通りから完全に消えたのと同時に少し奥行きがあるこの通りの向こうからいくつもの黒い「影」が姿を現してきた。彼女は車の運転席の扉の前へと移動し右手で扉を開け隠れるようにして銃を構えた。私は傍にある車のトランクを開け長持ちの銃を取り出し車越しに黒い「影」へと狙いを定める。後方で彼も「影」へと狙いを定めているのを感じた。
「随分と多いな」
「影」は指数関数的にその数を増やしていく。
(終わったな)
銃で狙いを定めながら冷静さが事態の絶望をささやく。前方にいる彼女を視界に入れる。この絶望の事態においても彼女の肉体は微動だにしない。「影」に狙いを定めたまま、今までの人生のシーンが脳裏によぎろうとした瞬間、全ての「影」がその長さを縮め一つの大きな塊となった。何秒か経っても「影」のその状態が続いたため何か状況が変化したことを察した。視界の端にいる彼女も状況が変わったことを察したようで、その不動の肉体が少し緩み事態を把握しようと頭を扉の少し上へと覗かせている。左側の歩道へと後方の彼を確認できる位置まで移動した瞬間、前方にそびえ立っていた古い柱の上部に取り付けられている行政の広報用スピーカーから男の肉体の声が私達に話しかけるように言葉を発し始めた。
「大丈夫、彼らを「制圧」したよ」
驚きとともに視線がスピーカを凝視する。視界の左側の彼女もスピーカの方へと顔を向けていた。ぼやけていて正確には判らないが視界の右端にいる彼は少し笑みを浮かべているようだった。