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私のためだけの計画

「しかし...どうやってこの国から出るんだ...?」


気を取り直すように彼女に問いかけた。この国の周りは完全に海に囲まれている。出国するにしても空や海上そして海中は自立型保安システムのハンターキラーが保安任務にあたっていて出る隙もない。通常の出国をしようとしても当然ながらスキャンの網が私たちを待ち構えている。どう出ようとしても位置情報を常に掴まれているだろうから監視の網を掻い潜ることは不可能だろう。ここも一応は地下であるので現在の正確な位置は把握されていなく貧民街特有の街の複雑さが捜索の邪魔をするだろうが、最終確認された位置情報の示す位置に公安部隊がかけつけるのも時間の問題だろう。


「プランがあるわ」


彼女は教えられたことの内容をそのまま記憶から引き出すように、その計画を話し始めた。


「「白いうさぎを追え」は陽動、陰伏、そして脱出の計画と実行を意味するわ。私たちの部隊が軍警察と公安の施設を襲撃する。彼らが陽動をしている間に港湾施設へと移動、そして予め準備されたコンテナの中に隠れる。」


「そして船で脱出するという訳か...?」


あまりにも簡単な計画に思えたので様々な疑問が浮かんだ。


「仲間が陽動を仕掛けるにしても移動することはバレてしまう」


「陽動は「外から」の襲撃だけじゃないわ」


実感のない言葉として彼女の言葉が聞こえた。「内から」の襲撃があるわけか。私を公安の施設から助け出してくれた時のように仲間の部隊が施設内に潜入し襲撃をかける、もしくは「内通者」による破壊工作だろう。助け出されてしばらくした頃に経緯を振り返って思ったことがある。そもそも軍警察や公安の施設を襲撃できるということ自体容易ではないのだが、私が入れられていた部屋へとピンポイントに潜入できたことが驚きだった。極秘のはずの地下施設の存在を知っていたこと、そしてその場所を正確に知っていたこと。仲間たちがあまりにも容易に計画を成功に導いていることの驚きと「何か裏があるのではないか」という憶測が頭に残っていた。前者はそういう意味で実行が難しいはずだ。後者に関しても「内通者」は「存在できない」はずだ、という観念が頭の中をよぎった。何百歩か譲って一般市民ならともかく行政、軍警察や公安など公務に携わる者たちには特にシステムが干渉をかけている。彼女は計画を容易に話しているが計画の最初のステップから実行が不可能なのだ。


「「彼ら」が一時的に位置情報を確認しているシステムをストップさせる」


どこか言葉が無機質に思える。言葉が生きていないように感じるので、ただただ不安のみを感じる。


「...港湾施設というのは...?」


「ここから一番近い軍警察管理下の港湾施設」


彼女は即答した。と同時に一体どうなっているんだという混乱が頭を駆け巡った。どう考えても計画が成功するはずがない。完全に失敗する。その結論しか導き出せなかった。


「その施設には軍警察に所属する「白いうさぎ」がいるわ」

「大丈夫よ」


その言葉だけが彼女の実感を示す言葉だった。完全に訳が分からない。計画がお手上げだという感覚が自分の体を煽り立て、理解不能であるという混乱が頭を支配した。


「「トルカーチ」とも呼ばれている裏職業ね」


聞き覚えのある単語に注意が向くのを感じた。捜査部にいた頃に何度か聞いたことがある。この国の北西に位置する大国の言葉である。大国との間の密航を斡旋するブローカーだが、そのような裏職業を持つ軍警察関係者がこの国の中にいるとでもいうのだろうか。


「港湾施設以降の話は彼から聞くといいわ」


その「白いうさぎ」をよく知っているかのような言葉だった。そこだけは信頼を置いているかのようだ。最後の疑問を質問してみることにした。


「聞いていると、この計画は私のためだけにあるように感じるが...」


彼女が私の目を見て、真剣に答えた。


「...この計画は、あなたのために立てられたの」


その言葉を終えると彼女は部屋の後ろへ行き武器を整え始めた。何か特別視されていることに戸惑っていると、彼女は大き目の武器も取り出し始めていた。


「一体どう移動するんだ」


「車があるわ」


てっきり徒歩で移動するものだと思い込んでいたため武器を再度取りに行く。武装を整えると彼女の後ろに付いて階段を上り店のカウンターへと行く。カウンターに出て左へ行くと隣の部屋に続くだろうドアが目に入った。彼女が地下へと続いていたドアの鍵で開けると中は車庫であった。一台の車が右を正面にしてたたずんでいた。車の前方はシャッターで閉められており薄暗さが空間を占めていた。ドアのある壁にかかっていた小型の装置を取り武器を車のトランクと後部座席にしまうと車の右前方にある運転席へ彼女は乗車した。それに続いて私は左前方の助手席へと座るため扉を開けた。


「後ろを警戒して」


彼女は前方は大丈夫とばかりに指示を送った。後部座席へと座り終えると同時に彼女が小型の装置を操作した。シャッターが徐々に上へへとしまわれていく。外の光が地面とシャッターの隙間から車庫の中を照らしていく。光の眩しさにうろたえていると車が急発進し右へと旋回し通りを駆けていった。通りの遠く向こうにある太陽の光が車内全体を隙間なく照らす。既に雨は上がっていたようだ。道路に残っている水たまりと彼女がかけているサングラスの反射する光が私の視界の中を眩しく照らした。

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