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「正常者」から「異常者」へ

うるさい音で目が覚める。

外から人の声が聞こえるが、いつもより聞きづらいように感じる。

何事かと思いベランダの窓に向かい窓を開けようとするが、まるで壁になったように動かない。その直後、後方の玄関から聞き覚えのあるような声が聞こえる。


「入らせてもらうぞ」


ドアが開き見覚えのある格好と顔が現れる。その姿は公安の人間だった。かつての上司、公安捜査部の部長だった。


「一体どうしたのです?いきなり…」

「どうも何も君を逮捕しに来た。まさか君が「異常者」の仲間入りとは…」


「動揺」が走った。


「まさか自分が…!?」

「そうだ。服用義務違反の疑いだ。」


就寝前に準備した薬の場所を確認する。薬が無い。


「おかしい…」


私が薬が無いことを確認したと同時に部長が言った。


「悪いが一緒に来てもらえるか…」


部長の後ろで待機していた公安特務部隊のスーツを着た隊員たちが前に出てきた。


「抵抗は「感情犯罪」になるから気を付けろよ」


そして私は連行された。




目を閉じているのだろうか、それとも開いているのだろうか。まるで自分の肉体は存在せず精神のみが存在するかのような暗闇の空間の中、思考が空間の中を軌道する。体の節々の痛みは閃光となって暗闇を瞬間的に照らす。硬い床の冷たさは何もない空間そのものを現すかのようだ。


「なぜこんなことに...」


ひとつの思考が空間を運動するのを感じる。

逮捕されたということは、おそらくここは保安局の留置場か。もしくは十中八九、地下の拷問施設だろう。噂には聞いていたがまさか条約違反の施設があるとはな。いや、どの国にしたって国内法であれ国外法であれ、法外的なことはどこでもやっている。法は国が上手く機能するための建前に過ぎない。常に上手く行くわけではないから当然として法外的な処置は必要となる。国民は建前であることをいつの間にか忘れて法そのものが守るべき契約であり、あるべき真実であると思い込んでしまった。そういえば以前聞いたことがある。産まれた瞬間から私達にチップが埋め込まれているのは過去の先祖と国との契約で始まったと。

しかし何かがおかしい。自分自身がこの場所でひどい仕打ちを受けているというより、「「産まれて初めて」この国を批判している」ということに。


「ありえないことだがもしかして...」


そう考えた瞬間、冷たい硬い床から微かな振動が伝わってきたと同時に暗闇の深淵から、体の痛みではなく本物の光がまるで天使が昇天を誘うように差し込んできた。もう死ぬのかという瞬間、光によって照らされた壁が崩れ始め、遠くから「天使」が現れた。


「はやく回収しろ!」


何人かの戦闘服を着た者達が後光を照らしながら近づいて来た。


「まだ生きてる!大丈夫だ!」


体を担がれ光の先へと脱出した。




「図面は本物のようね」


担がれた状態で体を周期的に揺らされながら、女の肉体の声が反響しながら耳に入った。

地面が濡れているかのような足音がいくつも聞こえる。


「予定ではこいつに自力で走ってもらうはずだった」


一番近くから男の肉体の声が聞こえた。

ひどい臭いがするので、目を開けていることを悟られないようにわずかに細目で周囲を確認する。地下壕のようにいくつもの穴道が目に入る。水の流れが側に見える。


「そろそろキャッチポイントに到着する!」

「やれやれ、もう重い荷物を担いで走るのはゴメンだ。ただでさえ装備や機械で重いというのに...」


ロープが擦れる音が聞こえた。と同時に体に何回かロープで巻かれたかのような締付けを感じ急に宙を舞う感覚が襲った。


「あとは頼んだ!」


地面と車のシャーシのようなももの隙間から、高くそびえ立ついくつもの建物が視界に入ってきた。どこかで見たことのある風景だ。車通りの少ない風景、遠くに見えるのは巨大なテレビ画面。人の上半身のようなものがぼやけて見える。僅かな視界の変化の後、トラックの中のような空間へと体が移動した。




「何かあったのでしょうか?」

「異常者によるテロが発生したため現在規制線を張っております。ご協力頂けますか?」


揺らぐ意識の中、微かにではあるが二つの声が聞こえる。目の前には何人か戦闘服を着た者たちが脚をたたんで座っている。空間に緊張が張っていることが伺える。


「防音壁だから向こうには何も聞こえない。大丈夫。」


確認するかのような声が聞こえた。

再び、微かに二つの声が聞こえる。


「はい...一応こういう者でして...」


声は戦闘員のイヤホンから漏れているようだ。


「確認します。」


しばらくすると壁に振動が再度走り始めたのを感じた。


「陽動部隊の方は上手く撤収できただろうか...?」


心配そうな声が聞こえた。


「まあ...帰ってみないと判らんな。」


小刻みに、そして周期的に振動する揺れだけが存在する時間が随分と長く続いた。

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