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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【二章 春眠の巫女】
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第五話 【観光】

 石畳を歩く。街行く人は皆袴等着物を着ており、柄は様々だ。春華國の伝統的な文様もあるが、アムレートでよく見るような模様もある。

「こういうのを、ハイカラと呼ぶそうですわ」

ローザは、着物が赤紫に鏃の文様が施さており、袴は暗い紫の無地である、紫色の髪が相まってとても似合っており、観光客とは思えない装いだ。

 街をきちんと見てみると、お店なんかはレンガ造りであったり、各地にある橋も木製と石造り、鉄筋コンクリートなど、様々である。

「文化大国って言われるだけあるわね」

それぞれの国には、二つ名が設けられている。いつ、誰がそう呼んだかはわからないが、アムレートなら魔術、マシーナなら機械技術、シザフェルは鉄の国と呼ばれるが、二つ名は、医療大国であったりする。医療魔具が開発されたのはこんな背景があるのだろう。そしてここ、春華國は文化だ。

 驚くものばかりで、文化と言われてもと思っていたが、建物の造りや、衣服の模様、そもそも袴も、ズボンやスカートを取り入れた結果らしい。人力車と呼ばれる、人が荷台を引っ張っている光景は驚いたが、馬車もきちんとある。車はまだ普及していないが、一部市電と呼ばれる、列車が走っている。列車はアムレートでは見ないが、国土が広いマシーナでは一般的な移動手段だ、と言っても研究所とか、辺境の地にはまだ普及していないが。見た目に騙されて、独自の文化だなぁと感じていたが、きちんと様々な国の文化が見えてくる。全てを取り入れたからこその異様で、綺麗な国なのだろう。ローザなんか先程から写真を撮りまくっている。

 今ローザが持っている写真機は、マシーナに戻る前にヴァニイが試しに使ってみてくれとローザに渡したもので、撮ったものをその場で絵にしてくれる優れものだ。しかも、少しだけカラーになっている。まだ少しくすんでいるが、どんな色の景色なのかがわからないでもない。

「技術って凄い……」

よくヴァニイも開発できるものである。彼一人の力ではないだろうが、感心するしかない。

「メリ様、カルデラ様、一枚撮りますわよ!」

「決定事項なのね」

「ローザさん、お願いします、撮れた写真はくださいね」

もちろんですわ! と意気揚々なローザと満足気なカルデラに溜め息が出る。これ、また部屋に写真が飾られるやつよね。

 カルデラの待機所自室だが、最近になって空の本棚が追加された。しかもガラスが付いている良いもので、普通なら中に入っている本に埃がつかないものなのだが、後日改めて見ると、額縁に入れられた数点の私の写真が入れられており、ローザに確認したら、くださいと言われたのでとあっさり返されたのである。そんなに丁重に扱わなくていいし、そもそも額縁に入れてるならわざわざ本棚の中に入れなくたっていいのに。置型の額縁が最近出てきたので、活用されているわけである。この額縁に関しては、ソフィア様が今使っている団長室に、マリア様の写真が入ったものが置いてあったので、親子だなと思ったものだ。

 ローザの指示で、大きな桜の木の下でカルデラと並ぶ。新聞に載せるものを含めて、四枚の写真が撮られた。一枚はカルデラ用、一枚は私に渡してくれた。残り一枚は……。

「わたくしが持っておきますわ! メリ様の和服! いいですわね、可愛いですわ!」

「あ、そう」

カルデラの和装にはノーコメントなのね。かっこいいのに。

「メリが喜んでくれれば私は構いませんよ」

「あのねぇ、さっきからチラチラ見られてんのよ」

歩く度に女性がカルデラを二度見している。アムレートでは、案外二度見されたりしないのだが、どうも顔立ちの問題のようだ。

 春華國の人達は、基本的に丸顔で、背が低い。女性なら私でも背が高く感じる程である。ついでに私の背は百六十八だ。アムレートでは低い方である。ローザは百七十超してるし、ルストなんか、百八十くらいある。リテア様が私より少し低いので百六十三とかそのくらい。クリアは少し高いので、百七十丁度くらいだろう。そして女性でこの高さなので、男性は普通に高い。カルデラは、百九十近くある。私の周りで一番低いのは、セヘルで、彼でも百八十はあるはずだ。カルデラとミラフ、ヴァニイは大体一緒である。マーベスは、出会った最初はセヘルより低かったが、今はカルデラより少し低いくらいなのだ。それでいて、丸顔ではなく、シュッとした顔立ちのため、注目が集まらないわけがない。多分骨格からして、春華國とアムレートでは違うと思う。

 国の環境でこんなにも、人体に変化があるのかと少し驚く。それは服の形にも出ており、袴を着ると胸あたりが少しきつい。実は胸が大きいルストに関しては、着れなかった。一応普段からサラシを巻いているそうだが、キツすぎて吐きそうになり、いつも通りの騎士団制服を着ている。今はまだ具合の悪いミラフを看病しているので、観光には出ていないが、彼女が外に出たらそれはそれで、注目を集めるんだろうな、本人はミラフ以外興味なしだが。

 気にしたら負けなのだが、こうもチラチラ見られてると、気にならないわけがない。学園にいた頃、私のファンサークル、サークルマリオネットというものがあり、彼らにもチラチラ見られていたのが気になったが、その比ではない。歩く度に他人からカルデラがチラチラ見られているのは、なんか、モヤっとする。落ち着かないのだ。

「メリが嫉妬してくれるなら、見られるのも意味がありますね」

「嫉妬?」

「嫉妬ですわね」

ローザが頷く。これが嫉妬ですか。なんか嫌だな、ムズムズする。カルデラは、よく私に対して嫉妬心丸出しにするが、この感情は伝えたくなるのもわからなくはない、あまり感じていたくないものだ。

「理解していただけたなら良かったです、わかりましたら、あまり他の男性と一緒にいないでくださいよ?」

「環境的に無理があんのよ」

でもそうね、気をつけよう。男性だけで済めばだけど、カルデラは口では言わないが、男女問わず、私がカルデラ以外を頼ることそのものに、嫉妬している節がある。これに関してはどうしようもなさ過ぎるが。

 他者の目はとりあえず気にしないことにする。見られたって、カルデラに害があるわけではないし、カルデラがその目に反応することはない。カルデラの目線常に私だし、それはそれで気になるのだが、前を見なさいよ。

 立ち並ぶ店を覗く。春華國は布製品が多く、しかもそのほとんどが、可愛く小さい小物だ。縫い方で様々な形を作っているらしい。器用である。アムレートでも布製品は見るが、糸の使い方が違う。糸で模様を縫うことはあるが、布そのものを形にすることはない。桜型に縫われていたり、梅と呼ばれる、桜とよく似たこの国にしかない木の花形に縫われていたりと、布に元からある模様も相まって華やかだ。

「匂い袋なんかは、春華國から来た文化なんですよ」

「へぇー、だから匂い袋も多いのね」

匂い袋も、ただ布製の袋に乾かした花を入れて結ぶのではなく、袋自体に様々な形があり、結ぶ紐にも装飾が施されていたり、細かい可愛さが溢れている。

「いいわね、春華國の小物」

「メリは細かい装飾が好きですね」

細かい装飾が好きというより、派手なものが苦手。

 私はアムレートより、春華國の方に容姿が似ている。彼ら程背は低くはないし、丸顔でもないが、やっぱり低いし、少々子供っぽい顔立ちである。それが人形のようだと言われる所以なのだが。華やか過ぎると似合わないのだ。服に色々と負ける。結果的に細かい装飾の方が持ちやすいし着やすい、何より目立たない、これ大事。

 しばらく小物を見る。欲しいと思うような、思わないような。しかし、物を増やしてもなぁと、眺めるだけに留まる。ローザは色々と勧めてくれるのだが、彼女を見ると逆に恐縮する。ローザの方が似合うと思うわ。もっと自分が美人だったらなと、なんでも似合えば良いのだが、生まれ持った容姿なので仕方ない。シザフェルでは、整形という、顔をいじる技術があるが、怖い。顔を変えるって何、どうなんの。医療が発達しているから、できることなのだろうが、私は受けたくないな。

 結局小物は買わず、甘味処に入る。抹茶と呼ばれる、苦いお茶、それから桜を練りこんだ白玉を使ったパフェがあり、それを注文する。カルデラは、しばらく考えて、羊羹を頼む。餡子を使ったスイーツらしいが、餡子ってなんだろう。ローザは、醤油団子を迷わず注文、餅を食べてみたかったらしい、そしてにっこにこで外に出た、なぜ。私はカルデラに止められ、室内個室にいる。待っていると、羊羹が先に運ばれてきて、後にパフェが来た。

「緑だ……」

羊羹も黒? 紫? と見たことない色をしているが、パフェも緑色で食べ物としてはあまり見ない色をしている。桜の白玉は、花と同じく薄いピンク色である。こっちは抹茶よりは衝撃が少ないかな。

 恐る恐る食べてみると。それは確かに苦かった。紅茶もお茶だが甘い、砂糖を入れているためで、ストレートと呼ばれる、甘くないものもあるが、それでも香り豊かでスッキリ飲める。抹茶はコーヒーに近い苦味がある。コーヒーよりはすっきりしているけれど。

「メリは苦いもの苦手なのですか?」

「あんまり好きじゃないかも、抹茶パフェはまだ大丈夫だけど」

パフェである関係上、チョコレートや生クリームも使われているので、完全に苦い訳ではない。多分抹茶そのものは飲めない。まだお酒の方がいい、いや、麦酒は飲めないんだけど。

 白玉の方も食べてみる。味は苦くはない、甘さは控えめで、優しい甘さがある。なんとも独特な味で、言い表しにくい。これが、桜の味なのか……。

 カルデラは、羊羹を一口、頷き、いつものように私に差し出す。

「甘いですよ、きっと気に入ります」

笑顔で言われたので、遠慮なく羊羹を口の中に入れる。それは甘すぎるくらいに甘く、舌触りが少しザラザラした不思議なものであった。

「餡子は、小豆という小さい豆が原料だそうです」

「だから、ザラザラしてるのね」

舌触りは少し気になるが美味しい。餡子団子ってのもあったから、帰りに買っていこう。こし餡とつぶ餡という二種類があったので、食べ比べるのも悪くないかも。ついでに、パフェに使われていた餡子はつぶ餡で、こちらは元から粒があるので、舌触りは気にならなかった。皮が口の中に残る時があるのだけは、なんともだが、そこまで気になるものでもない。面白い食べ物である。

 出る前に持ち帰りの団子を買い、ローザと合流する。団子は美味しかったらしい。醤油団子も追加で購入した。だって気になるじゃない。

 そうして、観光は一旦終了し、旅館へと戻る。途中、カルデラが小物店に寄っていたのだが、何を買ったのかは教えてもらえなかった。まぁいいか。

 旅館について、ローザとは別れる。部屋に戻ると、一息つく。旅行って楽しいけど、疲れるわね。

「なんだか、情報量が凄いわ」

医療魔具で酔いが酷くなる理由がわかる。視界に入る情報量が多いと疲れて、酔ったみたくなる。

「大丈夫ですか?」

「カルデラは疲れてないの?」

カルデラは、部屋に着いてから座ることもなく、寝る準備を先に済ませますと、布団を取り出して、床に敷いている。どこにそんな体力があるのよ。

「疲れてなくはないですが、メリの笑顔が始終見られましたからね、楽しませていただきました」

「あんたって男は……」

素直なのはいいのだが、言われるこっちが恥ずかしいのよ。言ったところで無意味だけど。

「言っとくけど、情報量の多さにはカルデラも入ってるからね」

裸と和服は情報量のほとんどを占めている気がする。衝撃が凄い。

「嬉しいことを言ってくれますね」

布団を敷く手を止め、私の方に来たかと思えば、抱きしめられる。

 しばらく身を委ねていると、唇を重ねられ、その力で畳の上に寝ころぶ形となった。畳って痛いわね。

「ちょっと、カルデラ、避けてくれる?」

「嫌ですよ?」

起き上がれないんですけど。抗議虚しく、再度キスをされ、舌が口内に侵入する。唾液のまじる音が静かな室内に響き、カルデラの手が移動したとこで待ったをかけた。

「おい待て」

カルデラの手を掴む。何しようとしてるんだ。

「もう結婚したんですから、そろそろ手を出しても良いかなと」

「良くないわよ」

しょぼんと、わかりやすくカルデラは落ち込む。多分、理由を聞きたいんだろうな。

「あのね、私達まだ魔術師団に慣れてないのよ、しかも時期の肩書きも取れてないし、その状態で子育てが入ってみなさい、私体力無くなるわよ」

「一回で子供はできませんよ」

「わからないでしょそんなこと」

それでもシザフェルとの緊張状態は続いている。私達がいざって時に動けなかったらどうする。

 カルデラは渋々避けてくれた。本当に渋々。余程手を出したかったのね。

「男ですから」

「子供がいれば、私がカルデラから離れられないからの間違いではなく?」

そっぽを向かれる。本音はどっちなんだか、どっちもかもしれないな。

「旅行先だったら油断してくれるかと思ったんですがね」

「ちょっと!」

抱き上げられ、膝の上に乗せられると、耳を触られる。妙な色気に負けそうになるが、自分を律する。カルデラと同室って神経使うかも。

「そんな顔して、やっぱり手を出します?」

「だーめ、せめてシザフェルとの問題が解決してからにして」

「そんなに待てませんよ、私何年お預けくらってると思ってるのですか」

強めに抱きしめられる。手を出されかけたのって、確か大等部二年の時だから、四年か、五年くらいは、我慢してもらってるかな。

「子供ができない補償があればまだいいんだけど」

「一応、避妊用の薬なんかはありますね」

「あるんだそんなもの」

確実に避妊はできませんがと付け足される。まぁ、確実なものってないからね。

 子供か、こっちも考えなきゃならないのよね。私は今年で二十七だし、カルデラは三十四だ。あまり高齢になると、出産は大変である。あと、確実に男の子が産まれるわけではない。女の子でも私はいいが、クロム家として、魔術師団としては、男の子がいないと困るのである。

「ただ今は怖いわね」

いつ戦争に出るかわからないのに、子供がいると足枷になる。私がもし、カルデラがもし、死んだりなんかあれば誰が子育てするのかという話にもなる。

「メリは本当に真面目ですね」

「将来をきちんと考えてるって言って」

「前にも言いましたが、なるようになりますよ」

その軽さは見習いたいわね……。さて、お風呂に入りますかと、カルデラが離してくれたので、私も立ち上がる。

 部屋から出ると、女湯、男湯と書いてあるのれんと呼ぶらしい布が下げられており、これまた渋々カルデラは手を離してくれた。

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