一章後日談三話【カスタマイズ】
メリに呼ばれ、部屋の前に立つ。ノックすると可愛らしい声で入ってと言われ、扉を開けると、まだカスタマイズされていない殺風景な室内の真ん中で机の上に紙を広げたメリがいた。
「どうかしましたか?」
メリが自分を呼ぶことがまずないので、頼られた嬉しさを表に出さないよう、平常を装う。メリはというと、紙とにらめっこしているようだ。
何を見ているのか背後から覗くと、それは部屋カスタマイズのカタログである。絵で丁寧に描かれた、壁や床、家具といったものが並んでいる。メリが見ているのは家具のカタログのようだ。
「カスタマイズしようと思ってね、カルデラの部屋見たら暗かったから、反対に明るくしようかなと思ってるんだけど」
「ほぉ、つまり白を基調としたものってことですね」
自分とは反対なのか、そんなとこに寂しさを感じる。しかし、屋敷でのメリの部屋を考えれば無理もない。あの部屋はマーベスやティアラに任せた結果だが、本人からの不満は出ていないので、明るい方が好きなのだろう。
「そうね、で、私はカルデラみたいに完璧には把握してないのよ」
「把握? 何を?」
「カルデラの体」
はい? 言葉の意味が理解できずに思考が止まる。体? 自分の? 一体メリは何を把握しようとしているのか。
「背格好よ、ほら、カルデラの部屋にあった椅子私にサイズ合わせてたでしょ? よく私の部屋に来るなら、カルデラ用の椅子ないと不便じゃない? でも私にはわからないのよカルデラに丁度いいサイズ」
「あ、あぁ、そういうことですか」
合点がいった。なるほど椅子のサイズか、自分は勝手に把握していたが、メリはそうではない。自分用の椅子を用意してくれるなら、自分に聞くのが早かったわけか。
しかし、まさか椅子を用意しようと考えているとは。自分が用意した理由は、メリを部屋に呼びたいからであり、呼んだ時に喜んでもらいたいからだ。体に合った物であれば疲れにくいというのもある。つまりメリがわざわざ用意する必要はないのだが、自分のために考えてくれているらしい。
「そもそも椅子のデザインはどうするんですか?」
「それも悩んでるとこ、私あんまり、拘り無いみたいで、使えれば正直なんでもいいんだけど、部屋の統一感は流石に欲しいのよ、視界がうるさいのは苦手」
白を基調とした空間に合わせるなら、同じく白にするか、少し豪華にするなら金縁を採用するか。メリは基本シンプルな物を好むし、あまり派手にするのは違うだろう。
「白ならこのページ、金縁ならこのページです」
「割り出しが早いわね、私本人より私の趣味把握してるし」
そりゃ、ずっと見てますからね。服装や選ぶ小物から趣向は把握できますよ。
メリは、白や黒の単調なものを基本選ぶが、選んだものをよく見ると、ボタン等にキメ細かい装飾が施されていることが多い。同じ色の服でも、小さなところの煌びやかさが強い方を選ぶ。それが無意識なのか、故意的かはわからないが、そういう物が好きなのは理解出来る。
「これとかどうですか? 全体的に白いですけど、脚部分や背部分が細やかに装飾されてます」
「確かにシンプルながらに可愛い感じでいいわねって、だからなんで私の好みをわかってんのよ」
愛故ですと答えたいところだが、あまり重いと感じられても嫌なので飲み込む。重たくしていいとは言われたものの、メリの許容範囲がわからない。踏み込んでいい範囲を超えるわけにはいかない。
椅子は勧めたものに決めたようで、机もそれに合わせた物にする。そしてソファのページへ移動した。
「ソファが欲しいんですか?」
「この部屋結構広いじゃない、カルデラの部屋みたく最低限でもいいけど、なんだか寂しいかなって、あと、その……」
メリが何かを言いよどみ、なんでもないわと答える。そんな風にされると気になるのだが。
「他に理由があるんですか?」
「うっ……えと、カルデラと隣に座れるから……」
視線を逸らし答えられる。なんだその可愛い理由は。そんなこと言われたら選ぶしかない。
「同じく白にします? 少し趣向を変えるのも良いかと思いますが」
「私より選ぶの真剣なんだけど、そうね、少し暗くして紺とかどう?」
「紺色ですか、白の中には浮きそうですけど」
自分の言葉に、メリはラグのページを開く、そこには既に、いくつかピックアップされたラグがあった、どれも紺や黒である。
「ラグを敷けば違和感なくなるでしょ?」
「用意周到ですね」
「ソファは前々から考えてたのよ、色はカルデラの……イメージで……考えてたわけ」
自分の……イメージで……? 今日のメリはやけに甘い。いつも凹むくらいには冷たいのに。
メリに何かあったのか、この間優しくしてくれと言ったからなのか。
「あーもう! そんな不思議そうな顔しないでよ! わかってるわよらしくないことしてるくらい、私はね! 甘えるってこと知らないの、甘え方なんて全く! だから少しくらい愛してる人のイメージをできる色の物が欲しかったのよ、なんかこう、常に一緒にいてくれる気がして……うわっ!」
話中途半端にメリを抱きしめる。本当に、急に愛おしくなることを言ってくるし、やってくれる。
「常に一緒にいろと言うなら一緒にいますよ」
「言わないわよ、無理だってわかってるもの」
無理も何も、自分が常に一緒にいたいのだが、こういう時は上手く伝わらないものだ。自分がメリのことを、こんなにも愛おしく感じていることなど、気付きもしていないのだろう。でなくば、もっと重たくしていいなどと言いはしない。許されるなら、誰の目にも触れさせたくないし、誰かがメリに触れたりするなんて言語道断なのだが、日々我慢しているのである。
「と、とりあえずそういうわけで、ソファスペースは紺とか黒にしたいわけ、多分一番使用頻度高いから」
「わかりました、では、改めてソファを選びましょうか!」
「だからなんで私よりやる気あるのよ……」
ここまで言われたらやる気をださずにはいられない。二人でカタログを見つつ、あーでもないこーでもないと話し合いをするのだった。
机に頬杖をつき。やけに上機嫌な友人を見上げる。
「というわけでな! 本当に可愛い事をしてくれるもので」
「うん、わかったから落ち着けな?」
騎士団待機所から出たら急にカルデラに捕まり、何かと思えば何故か惚気話を聞かされている。お前がメリさんを大好きなのは理解したから落ち着け。
それを言ったとこで、話は止まらないので、一応諌めつつ、話を聞いているのだが。やれやれ、まさかカルデラから、こんな話を聞く日が来ようとは。こいつは、婚約者に対して興味がなくはないとは言っていたが、見つけることに対しては消極的だった。そもそも魔術師ではない者には興味がないと、最低な発言をしていたのである。容姿が良いだけに、性格というか、なんか様々な面の残念度が高い。言葉選びも怖いしな。それについていけてるメリさんを素直に尊敬する。カルデラの妻ほど苦労するものはないだろう、今初めて知ったが、愛の重さも相当だし。
「ほんと良い嫁さん貰ったな」
「なんだ今更、メリほど良い女性がいるわけないだろ」
「お前、惚れたらとことんダメなのな」
一途と言えば聞こえがいいが、むしろ狂気を感じる。六年前はここまで酷いようには感じなかったので、会ってなかった期間で、変わったようだ。
まぁ、女性を屋敷に連れてきた時点で、珍しいどころの話ではなかった。クレイから聞いた時は、素では? と言ったものだ。その後城で度々メリさんの話が聞こえ、いつの間にか姫様すら味方に付けていた時は、驚きを超えて、言葉が出なかったものである。しかも、魔術師団まで働かされてるし。一人の女性を愛する気持ちは理解できるが、度を越している。姫様に関しては本人の努力だろうが。
「まぁ、幸せそうで良かったよ」
メリさんは不憫だが、本人が気付いてないなら、大丈夫だろう。気付いた時は怖がるかもしれないが。今のとこは隠せてるようだ。
「その重さ悟られんなよ、お前嫌われたら立ち直れないだろ」
「ミラフに言われなくともだ、メリに嫌われるのだけは避けたいからな」
「仮に嫌われたらお前どうすんの?」
「監禁する又は殺す」
やめろやめろ、真顔でそれ言うな。愛とか重いとかの問題じゃないんだよ。
きっとそれこそ今更なのだろうが、どうもカルデラは犯罪者予備軍のようだ。監禁はまだ生きてるけど、殺したらダメだろ。
「なんでそんな発想が出てくんだよ……」
「メリを他の男に渡したくないからな」
「過激なんだよお前はさぁ」
あれ、俺は惚気を聞かされていたのではなかったか。なんで話が怖い方にいってるのか。
「本当に、悟られんなよ……」
何もなければ、何もしないだろう。多分。そうであってほしいと切に願うしなかった。
なぜかな、カルデラ視点の話は恋愛要素が強いのに、危ないものを感じますね
これにて、二遍一章は終了です。
明日より、二章突入します!




