第十一話 【救護団の堕天使】
大変お待たせいたしました。
作者の繁忙期が落ち着きましたので、今日からまた昼十二時に毎日更新致します。
改めて、よろしくお願いします!
よく晴れた天気の昼下がり。私は、禁止区域の一つ、リテア様専用の中庭でゆっくりと紅茶を飲む。隣には、困り顔のルスト、彼女の視線の先には、喧嘩するリテア様とカリナの姿。
「あんたねぇ! 謝罪の一つもないわけ?」
「はん、わたくしが謝罪するわけないでしょう?」
「二人とも落ち着いてください……女神様どうしましょう」
私は満足するまで放置してと言う。
カリナの魔術禁止期間は解けた。そのため救護団に戻っており、急遽この場所に呼び出している。リテア様の呼び出しとあれば、従わない訳にもいかず、来てくれたのだが、私の姿を見るなり罵倒をしてきたので、カリナが喋り終わる前にリテア様がドロップキックをかまし、喧嘩が始まったのである。これはカリナの自業自得なので、私は放置する。ただ、このままじゃ話が進まないのよね。
「カリナ様、今日は話を聞きたいだけなのです、落ち着いてください」
「相変わらず生意気ですわね! アムレートの女神とか言われているようですけど、化け物の間違いじゃありませんこと?」
「だーかーらー! あんたはその減らず口どうにかならないわけ!」
「あーら、小娘こそ、口うるさいですわよ」
カリナは全く変わらないなぁと眺める。多分彼女が変わることはないのだろう。
カリナを呼んだ理由はミラフだ。ミラフの医療魔具は、彼が寝ている間に付けられていた。大等部時代に大怪我をした時で、カリナでは治せなかったらしい。その時の状況、なぜアザエルが出てきたのか、その理由を聞くためにカリナから話を聞きたいのだが、聞ける雰囲気ではない。
カリナの顔を見る。そこにははっきりと傷跡があった。カルデラとミラフが仲違いした理由で、カルデラが魔法の研究を本格的にした理由。そして、母様が救護団を辞めた理由だ。彼女から、その傷跡から全ては始まった。私は、カリナの顔に手を伸ばす、その動作に驚いたカリナは飛び退いたが、その体が金色の光に包まれたことにより、停止する。消えると私をじっと見る。
「な、何をやったんですの……?」
「リテア様、鏡あります?」
「メリはお人好しなのよホントに」
リテア様は鏡をカリナの前に置く、カリナは鏡を見て、傷跡があった場所を触り、また私を見た。
「……ほんっと化け物ですわね」
「褒め言葉として受け取っておきます、さて、話を聞いて頂けますか?」
「ふん、いいですわよ、借りは作りたくありませんわ、答えますから、これで貸し借りなしですわよ」
「はい、ありがとうございます」
傷跡が消えたのは想定外だがいいだろう。きっと、カリナへの、そしてカルデラやミラフ、母様への哀れみにより、魔力が応えたのだ。
私は、アザエルのことを掻い摘んで伝え、ミラフのことを聞く。なぜアザエルと対峙したのかは言わなかった。彼女に申し子だと知られるのは危険が過ぎる。
「医療魔具? あぁ、ミラフが大怪我した時ですわね」
「なぜミラフ様が大怪我を? 貴女でも治せなかったと聞きました」
カリナは語ってくれた。
それは、大等部に入ってすぐのこと。騎士団で練習中その事故は起こった。普段ミラフが練習を失敗することはほとんどないが、その時は急に目眩がしたと、ミラフが倒れたのである。その瞬間、練習相手の剣が止まらずミラフの左顔に直撃。すぐに救護団に運ばれたが、流石に目はどうすることもできなかった。
「しかし、片目が見えないのでは支障がありますでしょう? そこでアザエルさんに相談したのです」
アザエルは同い年で、カリナとは同じ教室だったそうだ。彼が医療に精通しているのを知っており、何か良い方法はないかと相談したところ、義眼というものがあると言われたらしい。
「わたくしはその義眼とやらは、詳しくは知りませんが、それでミラフの目が見えるならと依頼しました」
結果、医療魔具が付けられたわけである。そしてミラフに確認したらちゃんと見えているとのことで、安心したらしい。
状況を聞いて、一番最初にため息を吐いたのは、他でもないルストだった。
「あんた馬鹿じゃないの」
「馬鹿とは失礼ですわね!」
「失礼だろうが言ってやるわ! 本人の許可も得ずに何やってるわけ! それでもしミラフ様に何かあったら、あんたは責任取れんの!」
その剣幕に、私もリテア様も何も言えなくなる。医療魔具は認可されていない。騎士として片目が見えないのは不便だろうが、副作用を気にするのは本来当たり前である。実際今回はそれでミラフは苦しんだし、それを見ていたルストからしてみれば、怒りたいのは無理もない。
「何もなかったんだから良いじゃない」
「何もなかったら、あんたなんかから話を聞いてないのよ! 女神様がいなかったら、ミラフ様は死んでたかもしれないんだから!」
「は?」
死んでいたかはわからない。ただ、魔具の暴走はありえない話ではない。アザエルの仕置きが、どの程度だったのかである。しかし、あの男は邪魔であれば誰であろうと殺す男だと推測される。痛みを耐えてミラフが剣を向けていれば、あの魔具が使用者を殺せるものであれば迷わず使っていただろう。
だから私は止めたのだ。正確には苦しんでいたミラフを見ていられなかっただけなのだが。
「だって、ただの目の代わりですわよ?」
「ただのじゃないわ、魔具なのよ? しかも認可されてない、女神様への物言いもそうだけどね、あんたは自分がやったことを理解すべきよ」
カリナは魔術師である、魔具を使う機会は少ない。よって、魔具の危険性への理解が薄い。私は身を持って危険性を知っているので、ルストが言いたいことがわかるが、カリナがわからないのは仕方ないとは言える。
「魔具というのは、魔術師の使う魔術より威力は劣りますが、術者がいないのはむしろ強みです、毒や忘却は基本自身で弾く以外の解除方法がありません、ましてや効果のわからない魔具など何が起こるのか、作った本人ですらわからない部分がありますからね」
カルデラが作った、魔力吸収装置を思い出す。魔力を解明するために作った魔具だが、ディウムはこれがあったから魔具は発展したと言っていた。魔力を吸い取り、魔具へ応用する。研究所がシザフェルへの牽制を兼ねているなら、常に新しい魔具を作る必要があったのだろう。これは魔具の暴走ではないが、カルデラが使っていた時は人を殺してはいなかった。使用者又は魔具が暴走すれば、それは忽ち人を殺す道具と化すのだ。
それを人体に埋め込めばどうなるか、予想できないものではない。だから、研究所をマシーナの王であるミカニ王は警戒した。それだけ、全ての人が使える道具は恐ろしいのだ。
「医療魔具がどういったものか、私達はまだ知りません、シザフェルはマシーナから渡された技術を、主に戦力に当てました、そんな国の、ましてや、冷鉄王子と名高いアザエルが作ったものです、ただの目の代わりではないのは事実でしょう」
カルデラの説明は私にはわからないが、様々な機能があの目にはある。きっとミラフが知らないものの方が多いだろう。使用者本人が理解できないものを、十数年付けていたことになる。本当にミラフはどうしてカリナを信用に足ると考えたのかわからない。
「メリの言う通りね、カルデラ様が調べてくれるとはいえ、未知の技術をどこまで調べられるかよ。あんた救護団なんだからしっかりしなさい、仮にまた今回のようなことがあったら、前のような処罰では許さないから」
リテア様の声が低くくなる。ここまで冷静に怒った彼女を初めて見たが、それだけ重大なことなのである。
騎士団は前戦に出る。その際に不備があればアムレートの命運に関わる。ましてや、時期団長であるミラフだ、団長となった時に魔具が原因で何かあればその責任は重い。
「わ、わかりましたわよ」
カリナは少々不満顔だが、私達はとりあえず頷く。後でコーロに伝達しておこう。
カリナを帰し、はぁーと息を吐く。ミラフは変わったが、彼女はやはり変わらなかったか。容姿が良いから甘やかされて育てられたのかな、元より魔術師は甘やかされやすい。本来であれば大切に育てられるのだ。クロム家は少々雑だが、多分クリアとかは大切に育てられたはずである。
「メリから聞いた以上に性格悪いわね、やっぱり出禁にした方がいいかしら」
「できるならそうして頂きたいです!」
「二人とも、私情を挟んではいけません」
魔術師ではない、リテア様やルストがカリナの強さを把握するのは難しい。彼女の魔力量はそれなりにあるし、魔術の性能もいい。真面目に働いてくれれば、良い戦力だ。
「でも、城に置いておくには不安よ?」
「城から追い出して、他国に行かれた方が困りますよ? それこそシザフェルとか、城にいた女性なら連れて行きかねません、カリナ口軽そうですけど」
「それは確かにそうですね……」
二人とも黙る。他国に行かずとも、あの手の人間を自由にしたら何をするかわかったものではない。
国民ありきの国である。それでも自分のプライドを守るために私を売ろうとしていたのだ、一般人に対して何をするか。
「つまり監視しとけってことね、やっぱメリの時に地下に入れておくんだったわ」
「魔術師を軽く地下に入れようとしないでください……」
あの時のカリナの罪を軽くしたことに後悔はない。地下に入れてしまえば、確かに問題は起こさないかもしれないが、経験も何もかもが遮断されてしまう。それでは本人は成長しないし、戦力が減るだけなのだ。
「女神様は冷静ですね、しっかりどうしたらアムレートのためになるか考えてます」
「アムレートというか、リテア様の利益になるものはとりあえず、ですかね」
「カリナが利益になるかしらねぇ」
リテア様は疑問しかないようだが、彼女の魔法は利益になるはずだ。
後は彼女が真面目に働いてくれるのを願うばかりである。そこはコーロ次第だろう。前の団長が母であった以上、あまり上手く回っていなかったのもかもしれない。
「両親も放置しちゃったな」
両親は、アザエルと交友を持った。今後シザフェルと対峙するなら、また会う機会があるだろう。その時、私はどうするのだろうか。少なくとも殺しはしないが、あまり関わりたくないので、遠ざける対処はする。
「ま、考えても仕方ないわね」
冷めてしまった紅茶を飲みつつ、リテア様とルストを見る。二人はカリナの最悪の場合の対処を話し合っていた。
改めて読むと、清々しいくらいにメリってリテア様至高主義ですね、カルデラがヤキモキしてそうです……。
中途半端に更新が止まってしまい申し訳ありませんでした
二篇、一章は終盤なんですよね……
また止まらないよう上手く予約を使いつつ、時間を取りたいと思いますので、暖かい目で見て下さればと思います。




