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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【一章 アムレートの女神様】
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第十話 【医療魔具】

 禁止区域の一室。セヘルが慣れた動作で紅茶を全員に出す。私とカルデラは普通だが、他三人は固まっている。

「紅茶、どうぞ」

「ど、どうもありがとうございます」

なんとか、ルストがセヘルに礼をいい紅茶を受け取るが、その動作は硬い。理由はすぐに分かる。この国の姫がいるからだ。

「全員硬いわよ、ほら、カルデラ様やメリみたいに普通にしなさいよ」

「いや、なんで姫様がいるんですか……」

ミラフがおずおずとリテア様に問う。リテア様は、え? と返すと、私を見てニコッと笑う。

「メリは詳しく父様に話さないから、私が立会人よ、なんかあったんでしょ? 話してもらうんだから、で、父様に報告する、隠し事はなしよ? わかったわね?」

「は、はーい」

私はリテア様に苦笑いを向けた。しかし今回は詳しく話さねばならないだろう。約二名、聞きたいことがあるし。

 私は屋敷であったことを話す。流石に私が話し始めると、全員の緊張は解け、代わりに眉間にシワがよる。

「というわけです、プレスティ」

「そんな牽制しないで女神様、ちゃんと話すからさ」

まずはプレスティだ。アザエルの弟だなんて聞いてないぞ。

「俺がシザフェルを出たのは、十六年くらい前の話です、兄、アザエルが医療魔具の開発を本格的に始めて、実験台にされる前に飛び出しました」

「医療魔具?」

プレスティはミラフを見る。ミラフは、あーと一言、左目を指さしこれか? と問う。プレスティは頷く。

「多分、ミラフ様に埋め込まれてるやつです、医療魔具ってのは、人体がなんらかの理由で欠けた場合、補うために作られた魔具です、ミラフ様なら目ですね」

「おう、大等部に上がってすぐだったかな、大怪我して、カリナでも治せなくて、そんで同じ学年だったアザエルが、俺を治療したんだよ、そんときに左目が完全に使えなくなってな、起きたら機械付いてた」

起きたら……? 怖すぎる説明に、リテア様が小さく悲鳴をあげた。想像したんだろうな。

 説明にプレスティはため息を吐く。そして、哀れみをミラフへ向けた。

「兄はそういう奴です、いい実験台がいるとでも考えたんでしょうね、俺に怪我をさせてまで実験しようとしてましたから、それが怖くて飛び出したはいいんですけど、無計画で飛び出した上に、出てくる時に魔術使ったもんで、道中で倒れまして、そこをソフィア様に助けられました、以後恩返しってことで魔術師団にいさせてもらってます、苗字が違うのはシザフェルと繋がりがあるとバレると面倒だから変えたんです、これはマリア様の提案ですよ」

なるほど、元からいつ戦争になってもおかしくない状態だったのかもしれない。それでもソフィア様もマリア様も倒れていたプレスティを放置できなかった、魔術師団に置いたのは監視の意味もあったのだろうが、単純に心配だから傍に置いておきたかったのだろう。そういう人達だ。

 プレスティは理解したので、ミラフの医療魔具の方に移る。ミラフは、邪魔になっていた髪をかきあげるが、そこには普通に瞳がある。同じ色だから違和感もない。

「やっぱ違和感ないか?」

「ないです」

「俺から見りゃわかるんだけどな、なんかこいつ色んなデータ入っててよ、視界がうるさいんだよな、一応目の前にいるのが魔術師か魔術師じゃないかとわかるから、便利は便利なんだけどさ、あと今いる空間がよくわかる」

データが入ってる? 説明が上手く読み込めない。それはこの場にいるほとんどがそうで、カルデラだけは理解したようだ。

「魔力探知機能と、レーダー機能があるわけか」

「え、何、お前理解できんの、付けてる俺全くわからんのだが」

「魔力探知機能は、お前が魔術師かどうか判別できるって言ったやつだ、レーダー機能は、微弱な魔力を使って特殊な周波数を常に出し、周りの地形を把握する、主に潜水艦や船なんかで使われてる」

ミラフが首を傾げた。いや、ミラフだけではないが。カルデラの怒涛の説明に誰一人として追いつけていない。

 カルデラは、訝しげにする。多分わかりやすい説明が思い付いていない。否、わかりやすく説明したつもりなのである。実際砕いて説明してくれたのだろう。しかし、ここは魔術大国である。機械を見る機会がまずあまりないので、レーダーとか周波数とか言われてもわからないのだ。

「とりあえず、便利ってことは理解したわよ、ただ、痛みがあったってメリの説明にはあったけど?」

「ミラフ、今まで痛み等、体に異常があったことは?」

「ねぇよ、今回が初めてだ、ただ作ったのはアザエルだからな、なんかできてもおかしくはない、違うか?」

アザエルは仕置きだと言っていた。医療魔具を開発していたのが彼なら、その使い方も熟知している。何より魔具なのだ、ただの機械ではない。

「魔力を流し込めるのかもしれんな、ただ詳しく調べてみないことにはわからん」

「できんのか?」

「ヴァニイさえ協力してくれれば」

「ヴァニイ? あぁお前の数少ない友人か」

私がカルデラの友人名に出したからだろう、ミラフは覚えていたらしい。

 カルデラはセヘルを見る。今まで会話に入ってこなかった彼だが、頷き一つ。席を外すと、魔力通信の魔具を持って現れる。流石だな。セヘルには、カルデラの魔力が入れられているので、感情が互いに読める、最近思うのは感情だけでなく考えそのものが読めているのではなかろうか。

「魔法道具研究所に、繋げて、おきました」

「ありがとうございます、さてと、反応すればいいですが」

ブブッと嫌な音が鳴り、魔力通信が開始される。数秒後、疲れたようなヴァニイの声が入った。

「カルデラか……今度はどうした」

「疲れてますね?」

「なぁ、お前の両親シザフェル相手になんであんなに余裕なんだ?」

両親? 二人は今研究所にいるのか。しかもシザフェル関連で。

「その事ですが、先程メリがアザエルと対峙しました」

「は……? 待て! 嬢ちゃんは無事なんだろうな!」

「ヴァニイ様、私は大丈夫です」

すかさず話に加わる。そうかとすぐに安心したような声が返ってくる。マシーナの申し子を産んだオルガン家である彼にとって、私の安否は気になるところなのだ。

「それでですね、ヴァニイ、貴方、両親と一緒にアムレートに来れませんか?」

「あ、なんだいきなり、俺を呼ぶなんて珍しいというか、初めてじゃね?」

「ミラフという男がいましてね、どうもアザエルが開発した医療魔具とやらを付けていまして、それを調べたいのです、協力願えないかと」

しばしの沈黙の後、ガタバタと物音がする。ヴァニイの声が遠くに聞こえ、静かになると通話が再開された。

「色々確認したが問題ねぇよ、むしろ調べさせてくれや、シザフェルの技術、気になるんでな」

「貴方なら協力してくれると思ってました、では待ってますね」

ここで通信は切れる。ヴァニイとミラフ話してないけど大丈夫かな。

 しかし、研究所からこちらまでは五日かかるはずだ、二人とも今朝まで待機所にいたはずである。

「転移魔法を使ったのでしょう、ミラフ、多分すぐ来る、アザエルがシザフェルにいない以上、話をつけるにも付けれんからな」

「アザエル関連で行ったのか」

「あぁ、メリは申し子だ、扱いは適切にしなきゃならん」

「……アザエルも言ってたが、その申し子って何なんだ?」

カルデラがあっと声を上げる。カルデラ私と同じことやってるじゃないの。私は、ミラフそれからルストに申し子の説明をする。二人は驚きはせずに、納得してくれた。まぁ、私が魔法使ったとこ見たもんね。

「そんな存在がいたのですね、やっぱり女神様じゃないですか」

「俺、結構やばいことしたんじゃね……」

「今更気付いたの? まぁ、あんたは悪い人じゃなさそうだけど、少なくとも私はカリナの方は許しちゃいないわよ?」

リテア様の牽制に、ミラフはうっと言葉を濁す。でも、ミラフはカリナと私のやり取り聞いてないはずよね。いつの間にか後ろにいたけど。

「……あれ、ミラフ様ってどうやって私の背後にいたんです?」

私は記憶を辿る。

 六年前、カリナと言い合って、カルデラが助けに来て、いつの間にかミラフが後ろにいたことにより私は捕まったのだ。ナイフを突きつけられたなんて初めてだったな。

「えーっと、普通に出入口から」

「へ?」

「メリさんの様子を見ようと、部屋に入ったらカリナとカルデラが向かい合ってて、そんであの状態になったわけだが、気付いてなかったんだな」

全く気付いてなかった。カリナに集中してた。

「お前ら似てんのな、だから上手くやってけてるんだろうけど、ただ周りは見といた方がいいぞ、カルデラ、焦ったら周り全く見ないからな、メリさんがフォローしないとこいつ死ぬぞ」

「誰が死ぬか!」

「いいや、いつか死ぬね! 断言できるぜ!」

カルデラがさらに反論をする。えーっと、二人とも落ち着いて? 私が静止しようとしたのを静止したのはセヘルである。

 セヘルは、首を横に振った。そしてにこりと微笑む。

「カルデラ様、楽しい、ようです」

「た、楽しい……?」

改めて二人を見る。まだ言い合いしているが、それは確かに喧嘩ではない。ヴァニイやディウムのような、腹の読み合いがされているわけでもない。思ったことをただ言ってるだけである。てか、カルデラ、あんたミラフには敬語じゃないのね。

「なんだか私達みたいじゃない?」

「私達ですか?」

「そーそー、昼休みいっつも、ローザと私とメリでこんな感じのやり取りしてた気がする」

ローザが突拍子もないことを言い出して、リテア様がそれに乗って私がそれを止める。そんなやり取りを思い出す。似てると言われたらそうかもしれない。

「カルデラ様、友人いたんだなぁ」

「二人は幼馴染らしいから、そういうことじゃないかしら?」

「ちょっと羨ましいです」

ルストが微笑ましげに眺めている。私も眺める。結局二人の言い合いは、ヴァニイが現れるまで続けられた。

カルデラ、ミラフが仲良いと作者は嬉しいです

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