第七話 【女騎士】
女性と共に中庭に出る。リテア様と話す場所とはまた違う、城に出入りできる者であれば誰でも入れる場所だ。リテア様の中庭は、禁止区域と言って、許可を得た者ではないと入れない場所なのだ。王宮魔術師、つまり、王専属の使用人である魔術師達が結界を張っており、基本的には入れない。入れるのは、各団の団長達と、例外としてリテア様の専属と化しているセヘル、それから、私である。私もまたリテア様から信頼されているためだ。カルデラやミラフは時期なのでまだ入る許可は得られていない。
私がいれば一応禁止区域には入れるのだが、入る必要もないので、とりあえず近場の中庭に出て、ベンチに座る。そして頭を下げられた。今日三回目だぞ。
「すみません、まさかカルデラ様の奥様だとは、しかも噂の女神様だなんて」
「あ、いや、大丈夫ですよ」
彼女の名前は、ルスト・フルサーン。制服が騎士団のものだからわかっていたが、騎士団員である。魔術師ではない。
「ミラフ様と仲良く話してらっしゃったので、どなたかと……」
「仲良く……ではないですけどね」
ミラフと話していたから敵視されていたと。それはつまり、そういうことではなかろうか。
「あの、ミラフ様の事が好きなのですか?」
私は単刀直入に聞いてみる。彼女はわかりやすく赤面したが、凄い勢いで首を横に振られた。表情が全てを物語っておられるのですが。
「好きなどとんでもない! その、昔からミラフ様は憧れなのです」
「昔からですか?」
「はい、魔術学園時代からです……」
彼女はポツポツと語り出してくれた。
ルストの歳は今年で二十八、つまり私と同い年だ。ミラフのことは魔術学園で見ていたらしい。
「私達は魔術師ではありません、なので一般部です、ミラフ様は時期騎士団団長というのもあって、人気の高い方ではありました、まぁ、一般部より魔術部におられる方が多かったですが」
それは、カルデラが魔術部にいたからだろうな、途中からカリナもいたわけだし、魔術部によく行くのは当たり前だ。
「私の家系は、騎士の家系です、エルミニル家のように団長家系ではありませんけど、ただ私の両親は男性を生むことができませんでした、姉妹が四人おります、私は中間の三女です」
なるほど、だから女性なのに騎士団にいたわけか。
騎士団自体に女性がいないわけではない。そもそも、副団長は団長の妻である以上女性だし、入れないことはないが、力を使う関係上男性の方が多い。魔術師団でも男性の方が割合が高いくらいである、戦場に行く以上女性は向かないのだ。その中で騎士の家系ならば、男性が生まれないのは困ったものだろう。
「私は中でも騎士に強い憧れがあったんです、だってかっこよくないですか! 人を、国を守るために剣を持つのです! 戦うんです!」
「そ、そうですね」
最近学んだことがある。人って好きなことを語らせるとダメなのだ。話が止まらない。
「その中でもミラフ様の強さはそれはもう、天才です! 憧れるなって方が無理です! 凄く綺麗な剣さばきをするんですよ、女神様も一度見てみたら良いです、惚れ惚れしますから!」
「女神様ではなくメリです」
サラッと女神様呼びしないでくれ。しかし、私の抗議など聞いておらず、そのまま話は続けられる。
「私ずっとお話してみたくて、機会を伺っていたんですけど……」
ルストはしゅんと下を向く。可愛い人だな。
「カリナの奴が出てきたので、私はただ眺めておくことにしたんです」
奴、今この人カリナのことを奴と言ったぞ。騎士団に関わる女性って強いな……。
「あの女、ミラフ様に愛されておきながら、ミラフ様のこと愛してなかったんですよ! ムカつくったらもう!」
「お、落ち着いてください」
「はっ、す、すみません……つい熱くなってしまいました」
やっぱり好きなんじゃないですか、これ言ったら否定されるから言わないけれど。
しかし、ミラフを慕う女性か。何か利用するみたいで嫌だが、仮に彼女がミラフと共に歩みたいならば、私が彼女と親しくして、仲人ができれば上手くやれるのではなかろうか。確かにミラフは変わったが、カリナへの愛情がなくなったわけではない、そこに付け入られると面倒だ。せっかくカルデラと仲直り出来そうなのに、カリナの邪魔が入れば振り出しに戻ってしまう。
「カリナ様がいなくなってから、話したりしたんですか?」
「いえ、話はしてないです」
「話してないんです?」
「恐れ多くて……」
これは……長期戦になるかもしれない。せめて会話をしてくれ、会話を。
「それだけ憧れているなら、話すべきですよ」
「うぅ、わかってはいるんですけど、緊張するんです、女神様はカルデラ様と会話して緊張したりしないんですか?」
「全く」
憧れとかでもなんでもないので、緊張なんかしませんけど。下手に緊張でもしたら、何があったって騒ぎになりそうだし。
「女神様は強いですね、私は見てるだけで満足してしまいます」
「私はカルデラとは出会い方が特殊なのでなんとも言えませんけど、話してしまえば緊張なんてしないかと思います。なんでもいいんです、例えばお疲れ様ですとか、おはようございますとか、軽い挨拶から始めてみるといいですよ、それだったら周りもやっていますから、自然ですし」
凄い勢いで頷かれ苦笑いが出る。挨拶もしてないなら、挨拶から始めましょうね。
ルスト様はとりあえず頑張ってみます! と元気よく騎士団待機所へ戻っていく。私はそんな彼女に手を振り、見えなくなってから、よしっと小さく呟き、踵を返すと誰かにぶつかった。
「あ、すみませ……」
「ここにいたのか」
男性の低い声がして飛び退く。誰ですか! と叫ぼうとしたが、私は固まる。
「久しぶりだな」
「父様……?」
え、本当に来たの、接触してくるかもしれないとは言われていたが、来るとは思っていなかった。何の用だ。
「何用ですか」
「そう警戒するな、どうやらアムレートの女神と揶揄されているらしいな」
「父様には関係がないことです」
だからなんだ。両親には関係ないことである。結局私が魔法を使えないのは変わらない。貴方達の期待には添えない。
「父に向かって随分ないい様だな」
「私は貴方達の期待には添えませんから、退いてください、戻らねばなりません」
一、二、と後ずさる。変に感情込めてはいけない。魔術が発動してしまったら私にはコントロールできないのだ。
父は何も言わず私を見る。私は、父を見つつ、逃げる機会を伺う。いくら強い力があれど魔法は使えない、ここから一番近い禁止区域は何処だっただろうか。ダメだ、そもそも城の地図が頭の中にない。しかもここからでは、騎士団も魔術師団もそれなりの距離がある。だったら、全速力で魔術師団待機所まで行った方が確実……かもしれない。
「期待に添えるか添えないかは、お前が決めることじゃない」
「どういうことですか?」
「メリ、お前を探している人がいる」
私を探してる? 誰が、何のために。
「だから来てもらうぞ」
「お断りします、私に用があるなら王又は魔術師団をお通しください」
迷わず報告しろとこちらは言われている。探している人とやらのことはよくわからないが、申し子である私が、勝手な行動はまず許されないし、父についてい行くなんてまっぴらだ。
父の横を見る。走れば何とか捕まらないか、いやでもそれは賭けか。捕まって連れていかれるのは避けねばならない、でもこのまま動かないので、それはそれで捕まってしまう。動くしかない。
私は意を決して走り出す。しかし、父にその腕を捕まれる。
「逃がすと思うか」
「痛いです」
その力は男性である以上強く、振り払えそうにない。でも私だって引くわけにはいかない。
「正式に話を通してくださればお聞きます、だから今はお引き取りください」
「それでは門前払いを受けるだろう?」
受けたのか門前払い。王に掛け合ったのだろう。だから、気をつけろと言ったのか、報告せよというのもそういうことである。
「マギア王が許可なさらなかったのなら尚更です」
「あぁ、だからこうして会いに来ている」
迷惑な。王が許可しなかったなら諦めてくれ。元より、なぜ私に接触したのか理由がわからない。誰が、何の目的で、私を探しているのか。
「お前が嫌がろうと来てもらうぞ」
父は、何か機械を取り出す。これって前にカルデラがマーベスに渡していたな。確か……。
「転移魔具!」
どこかへ転移するための魔具、転移魔具。カルデラが渡したものは魔法道具研究所へのものだったが、父が持っているのはどこへだ? 考えたってわかるわけがないが。
「流石に知っているか、まぁ、悪いようにはしないさ」
父が私を引き寄せる。そしてそのボタンを押す。
瞬きする暇もなく、瞬時に着いたのは、見覚えのない古びた屋敷の前であった。
メリ、拉致されるの三回目ですね。




