第四話 【救護団】
マギア王にも言われたので、救護団待機所へ向かう。魔術師団は外に待機所があるが、救護団は城内部だ。医療器具を扱うのだから外にはまず作れないだろう。救護団の設備にはもちろんマシーナも協力しており、最新医療が受けられるので、貴族は度々利用している。王が病院として解放しているのだ、まぁ、値段は高いので、国民には広まっていないが。
救護団待機所につき、団長であるコーロに会いたいとカルデラが伝えようとした時、救護団の団員達は固まった。どうやら私が来たからのようだ、女神様って呼ばれてる人が来たら固まるよね。
「あの、マギア王から団長に会うよう言われたのですけど」
カルデラの言葉に無反応なので、私も言葉を重ねる。若い団員がにこやかに、コーロ様ですねと、呼びに行ってくれた。若い人達は普通だな。
そして、数秒後、物凄い勢いで一人の女性が走ってきた。エメラルドグリーンの髪を首より上でショートにしており、瞳は黒。私と同じ配色なので、コーロだと推測する。
「あの、コーロ様でしょぅ……」
「リリフ!」
ガシッと顔を両手で挟まれ、ぐえっとなる。勢いが凄いなこの人。
「コーロ嬢、その子はメリです」
「へ?」
コーロは私とカルデラを交互に見て、そっと手を離し、少し距離を取ると、首を傾げる。私は一礼した。
「お初にお目にかかります、メリ・クロムです」
「メリ……え、メリ?」
今度は口に手を当て驚いた顔をした、わかりやすい人である。感受性豊かだ。
「ごめんなさい私ったら、私はコーロ・アクリウム、この救護団の団長をしております」
柔らかい声で言われ、落ち着いたのだと安心する。
私は改めてコーロを見た。配色は先程も思った通り私と同じ、しかし目は細長で、髪が短いからか少し男性のような印象を受ける。できる女性って感じだ。
「驚きましたでしょう、メリ様と申されましたね、王から聞いているかもしれませんが、私はリリフの姉です、一応メリ様とも会ったことがあるのですよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、メリ様が二歳くらいの頃に、あんなに小さかった子がこんなに大きくなって、それにリリフそっくりになるとは、救護団の古株達はリリフが来たと固まっております」
なるほど、それでカルデラの言葉に反応がなかったのか。なんだか、死んだ人が来たみたいな反応で困ってしまうが。
ここで話すのもということで、救護団の奥へ案内される。道中コーロがこの子はリリフではないわと言い回っていた。私はなんとも言えない気持ちになる。そんなに母に似ているのか。
母……あまり記憶にないその人を思い出す。基本的に家にはおらず、私の教育にも口出しはしてこなかった。しかし、助けるわけではない。魔力が高い私を怖がり、近づいてこなかった。父ほど魔法を使うことに執着はしていなかったと思う。ただし、問題は起こすなという態度ではあった。私が魔法を使うことを早々に諦められた、私が姉様を傷付けたその時に、地下に入れたがっていたのは記憶にある。しかし、二人で話したことなどないのではないだろうか、だって会話の記憶なんてないから。三歳や四歳の頃は分からないが、学園に通っていた間は会話していないはずである。まぁつまり、私にはわからない人ということだ。
「御二方、椅子にお座り下さい」
「ありがとうございます、メリ? 大丈夫ですか?」
「え、あぁ、ごめんなさい、考え事をしていただけよ」
カルデラに呼びかけられ、現実に引き戻される。私は引かれた椅子に座った。
救護団団長室は、白で統一されたタイル張りの部屋。魔術師団とは真反対の印象を受ける。明るいというより、眩しいくらいだが。
「それにしても、まさか妹の娘が魔術師団に入るとは、しかもカルデラ様の妻になるなんて、誇らしい限りですね」
救護団の人がコーヒーと茶菓子を渡してくれる。コーヒーってクロム家では出てこないし、リテア様は紅茶派だから飲んだことないな、私は一口飲むと、苦くて少し固まる。そんな私の様子は気にせず、二人は話を続ける。
「色々ありまして、メリには助けられてばかりですよ」
「ふふ、優しい子に育ってくれて何よりです、リリフったら、何も話してくれないし、メリ様には会わせてくれなかったのですよ」
「……母様とは今でも連絡を取ってるんですか?」
コーヒーは置いておき、コーロを見る。彼女は顎に手を置くと、しばらく唸り、顔を横に振った。
「救護団を引退してから一年ばかりは連絡を取ってましたが、今は全く、心配になるくらいです、しかし何故そのようなことを?」
一年は連絡を取っていたとなると、私が地下に入るまでは連絡を取り合っていたのか。
つまり、屋敷を出て行ってからは基本他者との連絡はしてないのか。姉様なら何処にいるのかも何もかも知っているのだろうが。
「その、私も連絡を取ってないものので、今、カンボワーズの屋敷は姉様が仕切ってますから」
サリサ・カンボワーズ、姉様が今屋敷を仕切っている。
カンボワーズ家は炎の魔術師の家系で私はそこの次女である。魔術師というものは、一般人より力があるので重宝される反面、罪のない人を傷つければ、危険人物とされ地下に入れられる。これを危険人物と呼び、基本は死ぬまで暗闇の中だ。例外的に、もう人を傷付けないとその国の王に証明し、申し出を取り下げを受理されれば、一般魔術師と同じ扱いとなる。私は十年地下におり、カルデラにより連れ出され、マギア王から危険人物認定取り下げを許可された身である。そして、両親は危険人物である私を怖がり、姉様に屋敷を任せると、出て行ってしまった。それは私が十二歳の時である。
「まぁ! 二人とも子供達に全部任せてどこに行ったのよ、無責任ね!」
「あはは」
怒るコーロに私は回答が出来ずにいる。この様子じゃ、私が地下にいたのも知らなさそうだ。ごほんと咳払い一つ、冷静になったと思われるコーロが続けて質問する。
「それでは、リリフ達はメリ様が結婚されたのをご存知ないのです?」
「恐らくは、姉様が呼ばないと啖呵を切りまして、結婚式には呼んでおりません、私自身両親がどこにいるのやら」
コーロははぁーとため息を吐く。そこには呆れが滲んでいた。
カルデラも私も何も言えない。詳しく話せば申し子の話をしなければならないし、何より私が地下にいたことを話さねばならない。いくら、危険人物認定が取り下げられたとはいえ、地下に入ったということは、人を傷付けたことがあるということだ。申し子と同じように無闇矢鱈に言うものではない。魔術師団、そして王そのものの品格を落としかねないからだ。私達が口を噤んだことで何かを察したのか、コーロは笑顔をうかべる。
「あのサリサが嫌う程です、相当なことをしたのでしょう、メリ様、妹がご迷惑をおかけしましたね」
「いえ、私は別に」
迷惑はかけられてない。あまり感謝はできないが、両親がいなければ私は生まれていない。そこは感謝せねばならないだろう。十二歳までとはいえ、育ててもらった恩義もある。無下にはできない。
「メリ様はお優しいですね、それは強みですが、弱みでもあります」
「弱み……ですか?」
ゆっくりとコーロは頷き、カルデラを見る。カルデラは、コーロを見ている。
私は二人を交互に見た。優しいのが強みであり弱みである、甘いとよく言われているし、その事なのだろうか。
「見たところ、メリ様の魔力はとてもお強い、それは魔術師なら誰でもわかります、基本的には怖がられましょう、けれどそういうお方ばかりではありません、その優しさは付け入る隙でもあります」
付け入る……今まで恐れない人は確かにいたが、利用されるってことか。信用する人は選べってことだろう。
「リリフがメリ様に何をしたのか私には分かりません、しかし、許さないのもまた彼女のためになりましょう、厳しい言葉は悪ではありません、その事覚えておいてください」
私は頷いた。
申し子だって、誰がどの程度知っているか分からない。言わなくたって気付く人もいるだろう。カルデラ程他者に厳しくするのは無理だが、あまり優しさは見せない方がいいのかもしれない。そう、理解していても性格は、中々直せないものなのだけれど。




