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神々に愛されし者達の夜想曲  作者: 白雪慧流
魔術師団編 【一章 アムレートの女神様】
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第一話 【アムレート魔術師団】

 シャツのボタンをしめ、黒いズボンを履く。最後に紺色のローブを羽織り、アムレートの紋章である、月の魔法陣が描かれた青いブローチを付けると、私は立ち上がる。

 魔術大国アムレート。その誇るべき魔術師の集まりである。アムレート王国魔術師団。私、メリ・クロムは今日からその魔術師団員となる。

「メリ、準備は出来たみたいですね」

「カルデラ、これ着ると責任感があるわね」

夫であり、同じく魔術師団員、カルデラ・クロム、彼は私の部屋に入るなり、じっと見てくる。

 私が嫁いだクロム家は、王族であり、代々魔術師団を任されている家系だ。今はカルデラの両親である、ソフィア様が団長、マリア様が副団長をしている。つまり、私達は時期団長、副団長なのである。重たいと思っていたこの肩書きだが、いつの間にか馴染んでいる。誰かに譲る気はないし、これから副団長になるために、学びに行くのだ。

「メリと一緒の格好なのは嬉しいですね」

「何も喋らないと思ったら……」

この衣装は、魔術師団の制服だ。なのでカルデラも同じ衣装を着ている。というか、普段からカルデラは制服で過ごしている。多分動きやすいのと、服を選ぶのが面倒なのだろうと思う。だからって常に仕事着なのはどうかと思うが。

「では行きましょうか」

「わかったから離して」

行くと言いつつ、カルデラは私を抱きしめる。動けないのよ。

「名残惜しいです」

「動けないでしょうが!」

私が抗議してようやっと離れると、私の手を握り、部屋を出る。意地でも触っていたいらしい。

 カルデラの弟であるマーベスは、まだ魔術学園の学生なので、先に屋敷を出ている。マリア様、ソフィア様は準備があるからと昨日から屋敷にいない。二人が屋敷にいることも珍しいけど。

「行ってらっしゃいませ、旦那様、奥様」

「ティアラ行ってきます」

ティアラは私のお世話を中心にやってくれている使用人で、実はクロム家の皆から絶大な信頼を寄せられている。それを教えてもらったのはつい最近だが。カルデラと結婚したことにより、呼び方も変わり、カルデラが旦那様、私が奥様、ソフィア様が大旦那様、マリア様が大奥様となった。うーん、ややこしい。お嬢様のままで良かったのだが、そうもいかないらしい。仕事だからなのだろう。屋敷の人達が全員出払っている間は、彼女達が守ってくれるわけだし、そんなに畏まらなくてもな。

「マーベスには寂しい思いさせるわね」

馬車に乗り込み、仕事場であるアムレート城へ向かう。

 クロム家の屋敷は首都から離れた場所にある。アムレートのシンボルである城に行くにも馬車で一時間程かかるため、城に泊まりっきりの時もある。そのため、ソフィア様達は屋敷を空けることが多く、引き継ぎをしていたカルデラは、私が屋敷にいるので無理矢理帰ってきていた状態だ。今日から私も城で働くとなれば、無理矢理戻る必要もないので、屋敷にはマーベスが一人になる。前は使用人として、セヘル・ソルセリーという、私達の友人がいたものの、セヘルは、この国の宝である、姫、リテア・アムレート様の護衛団に所属した。

「まぁ、クリアさんには出入りの許可を出していますから大丈夫でしょう」

「使用人達が張り切って部屋を作った時は苦笑いがでたわ」

クリア・グラセは、氷の魔術師の家系であるグラセ家の一人娘で、マーベスの婚約者である。まだ、プロポーズはしてないようなので、婚約ではないかもしれないが。屋敷では既に婚約者の扱いで、私が歓迎されたと同じく、大歓迎されている。いつ泊まりに来てもいいですよ! とティアラも息巻いていた、今はクリアがお嬢様と呼ばれており、本人が恐縮していた。グラセ家は、クロム家に嫁ぐのをむしろ誇りにしているらしく、泊まってこい! って感じらしい。王族とパイプが持てたのだから、メリットはあれどデメリットはないのだろう。

 そう考えると、常ではなくとも、クリアがよくいれば問題ないかと思う。あの使用人達が離したがるとも思えないし。なぜか女性が来るのを楽しんでいる。着飾るのが好きなんだろうな。クリア、あの狂気には慣れなきゃダメよ、使用人達は誰にも止められないから。

 そんな話をしていたら、城に到着する。カルデラの手を取り馬車をおりると、私は城を見上げた。あんまり良い思い出ないんだよなぁ、この城。私が城に入った回数は両手で数えられる程だが、最初に入ったのはリテア様のパーティの時で、その頃はカルデラに惚れていたリテア様には睨まれるし、元婚約者であるクレイには会うしで、大変だったのだ。二回目はミラフ、カリナ夫妻に拉致された時である。売られかけた私は、カルデラに助けられたのだ。その後は数度、暇だからという理由で、リテア様に呼ばれたくらいで、良い思い出が本当にない。見ただけで、少し恐縮するくらいである。

「大丈夫ですよ、まずは真っ直ぐ魔術師団のところへ行きましょうか」

「了解」

その魔術師団も心配なのよね。

 カルデラは前々から、時期団長として魔術師団には出入りしている。しかしこの男は人を理解する能力が欠如しており、魔術師団の方々からは悪魔扱いである。自分が簡単に出来るから他者にもできると、無理難題を出すのだ。その度にソフィア様が止めているとマリア様から言われ、私は申し訳なくなった。天才と凡人ではできる範囲が変わるのだ、しかも、人によって得手不得手がある。そこを理解できないのがカルデラなのである。一応時期団長として、その強さは認めらているし、指揮をすることも大丈夫らしいが、彼について行くには辛いようだ。

 迷路のような城の廊下をカルデラの案内で進む。すると、大きく開けた場所に出た。外ではあるが、中庭とはまた違う、木も何も無い整備された場所。休憩用に椅子が置かれており、魔術師団の制服を着た人達が、ひしめきあっている。ここが、魔術師団待機所、奥には建物があり、団長達は普段そちらにいるらしい。あと事務員の人達も建物内だ。

「カルデラ様、お疲れ様です」

「はい、お疲れ様です」

カルデラは人の良い笑顔を浮かべ、魔術師団員に挨拶をする。私も挨拶せねばと口を開きかけた時、騒がしくなった。

「通してくれ!」

「どうした!」

「プレスティが! 魔術の毒に!」

辺りは騒然となる。そこには一人の男性が運ばれてきていた。彼は黒く長い髪をしており、表情は見えないが酷く辛そうなのは息遣いでわかる。

「シザフェルの奴ら、毒なんて」

「シザフェルの魔具は戦闘特化だ、マズイな……」

魔術師団員の顔があおざめる。

 シザフェルは、アムレートとは友好国である。機械技術大国マシーナの奥にある国で、鉄の国とも呼ばれている。マシーナとは技術協定をしており、マシーナが魔具の技術を、シザフェルは魔具に使う材料を提供していたのだが、今は緊張状態が続き、最近では小競り合いがある。アムレートはマシーナの味方をしており、小競り合いがある度に、魔術師団や騎士団が派遣されている。

「魔術の毒は、解除不可だ」

「誰が術を使ったのか分かればまだ」

「そんな時間あるわけないだろ! そもそも魔具を使ったやつなんてわかるか!」

シザフェルに魔術師は少ない。マシーナから提供された魔具技術を駆使して戦っている。元はマシーナの技術とはいえ、マシーナは娯楽品や調理器具、通信機器といった、生活に役立つ魔具の開発をしていた。魔具では飽き足らず、電気を駆使した機械も作っている。しかし、シザフェルは武器に駆使しているため、その戦力差は歴然であった。毒や、忘却など、確実にこちらの戦力を落とす方法を使ってくる。

 プレスティと呼ばれていた男性を見る。彼はこのままでは助からないだろう。魔術の毒を解除するなら、本人が魔力を弾くか、使った魔術師に頼むしかない。しかし、それが魔具となれば、魔術師がいないので解除不可能だ。治す術がない。

「……」

私は黙ってしまう。カルデラの袖をぎゅっと掴むと、カルデラは私を抱き寄せた。これが戦争、これが戦い。私が見てこなかったもの。

 きつく目を瞑る。皆が幸せになるには、戦うしかないのか、誰かが傷つくしかないのか。それは、本当に幸せになるのだろうか。

「なんだ?」

「どうした!」

「プレスティの体が光に!」

魔術師員の人達がまた騒ぎ出す、私は改めてプレスティを見ると、彼は金色の光に包まれていた、あれ……これって。光は数秒で消える。すると、先程まで苦しそうだったプレスティは、落ち着いた呼吸をしていた。寝ているが問題はない。

「魔術の毒が解除された……?」

「誰が一体」

「メリ、いきなり使うのはどうかと」

「私だって知らないわよ、いや、私の力なんだけど」

私は魔術師であって魔術師ではない。神の申し子と呼ばれる、伝承の中に記された存在である。申し子の力は感情に左右される。一般の魔術のように、唱えたりして使えるものではない。私が強く感じた感情に反応し、それに見合った効果を勝手に発動してくれる。こう説明すると便利そうだが、これが曲者で、発動するタイミングも、発動対象も指定できず、何が起こるのかもわからない。今回はプレスティについた魔力を弾いたらしい。

 カルデラが私を呆れた顔で見ていたので、魔術師団員も私を見る。私は皆に笑顔を向ける。

「もしかして、お嬢さんが今のを……?」

団員の一人がそう呟く。ここにいるのは全員魔術師だ。むしろ今の今まで魔力が稀有な程に強い私に気付かなかったのがおかしいのである。そして、そんな魔力を間違うはずもなく。今の魔法を使ったのが私だとこの場にいる全員が理解した。

「確か、お嬢さんはカルデラ様の」

「メリ・クロムと申します、今日から皆様にはお世話になります」

私は一礼する。空気が凍ったと思ったら、一斉にわっ! と歓声が上がった。え、何事。

「今の魔法はすげぇや!」

「プレスティが助かった!」

「治せない病を治したぞ!」

どうやら喜んでもらえたらしい。私は使おうとして使ったわけではないが、喜んで貰えたならいいか。

 そんな光景をにこやかに眺めていると、全員が私を見る。私は笑顔のまま固まる。今度はなんですか。

「これはあれだな」

「うんあれだ」

「あれ……ですか?」

何の会議をしてらっしゃるのでしょうか……。

「彼女はアムレートの女神様だ!」

「違いない!」

「女神様!」

「いや違いますから!」

私は叫ぶ。誰が女神様だ、私は人間だよ。まだ、申し子の方がいいよ。

「はーい、皆静かにー、メリちゃんが困っちゃうでしょ」

建物からマリア様が出てくる。隣にはソフィア様もいる。彼らの登場に一気に静まり返った。私は息を吐く、あー、驚いた。

 二人は私とカルデラの横に来ると、にこっと笑う。そして、皆を見た。ソフィア様が、私の手を取り、背中を押す。私は一歩前に出る形となる。

「皆に紹介しよう、僕らの娘で、カルデラの妻、メリちゃんだ、つまり時期副団長だね、先程の力を見てもらった通り、稀有な程の魔力を持っているけど、彼女の力は僕ら魔術師とは少し違う、魔術であって魔術ではない、でもその強さは僕が保証しよう、僕達の心強い味方だ、皆仲良くするように!」

「よ、よろしくお願いします!」

私が改めて一礼すると、やっぱり、女神様! と歓迎される。これ、女神扱い取れないな。私は普通に人間扱いがいいんですけど。

 とりあえず挨拶が済んだので、ソフィア様、マリア様に案内され、建物の中に入る。見た目より中は広く、部屋も多い。どうやら宿舎も兼ねているようだ。

「家が遠い者は大体住み込みだ、一人一人に部屋が割り当てられているよ、もちろんメリちゃんの部屋もある、城にいる時はその部屋を使うといい、カスタマイズも自由だ、部屋を広げたりはできないけどね」

私の部屋はカルデラの隣らしい。隣というか、クロム家は別邸に部屋があった。団長、副団長ともなると、部屋が広めになるのだろう。広場から見えた建物は、団員の部屋と、仕事用の団長室となっている。団長室は少し暗いし、仕切りがワインレッドのカーテンになっていたのは気になるところだが、すぐに話せるようにとの工夫のようだ。

「それにしても、凄かったわねぇ、あんなに団員達が盛り上がるのも珍しいわ」

「女神扱いはちょっと……」

なぜその発想になったのかと疑問符しかない。なぜ、女神、そしてなぜ満場一致。

 私がため息を吐くと、カルデラは頭を撫でてくれる。励ましてくれるのか。

「一瞬で認められたようですね、流石です、明日には城中にその名は広がるので、歩けば皆が頭を垂れますよ」

「嫌だわそんなの!」

励ませよ、なんでそんなに嬉しいそうなんだよ。私普通に過ごしたいよ。

「いいじゃないの、これで城でメリちゃんを認めない者が出にくくなるわ、むしろ堂々と歩いちゃって!」

「お母様……」

誇らしげにしないで、魔術師団初日。私は憂鬱なスタートを切ったのだった。

ついに、ついにメリちゃんがクロムを名乗りました!

って、テンションで書いてました。これより、メリ・カンボワーズ改め、メリ・クロムです。この夫婦が今後どのように物語を紡いでいくのか、楽しんでいただけましたら幸いです。

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