第十話 【未来への一歩】
色々あった学園生活であるが、遂に卒業を迎えた。桜が舞う道を馬車で眺める。これも今日で最後だ。
「なんだか、濃い四年間だったわね」
「僕は、二年間しかお供出来ませんでしたが、それでも、時間が早く感じました」
「セヘルには今後もお世話になるけどね」
セヘルは卒業後、リテア様の護衛団に入ることとなった。クロム家の使用人を彼は望んだが、ソフィア様が、使用人でいるのは勿体ないとゴリ押した。最終的には、学園に行くための代金を返すつもりで働いてこいと言われて頷いたのだ。それに、リテア様が信頼出来る人が一人は欲しいと、マギア王が困っていたのもある。セヘルなら適任だと、マギア王も喜んでいたらしい。
そうなると、城で会う機会はあるので、セヘルには今後もお世話になるわけである。カルデラの感情が読めるわけだし、重宝しそうだ。
「リテア様のこと頼んだわよ」
「メリ様こそ、会いに来てくださいね、姫様が喜びます」
同じ建物内にいるとはいえ、学園にいるより一緒にいる時間は減るだろう。そう思うと少し寂しいものだ。
ローザは、そのまま家業を継ぐらしい。まぁ、記事を書かせてくれと言っていたからそれはそうだろう。ただ、魔術師団専属になると息巻いていたのは気がかりである。仮にそうなったら会う機会は多そうだ。魔術師団は滅多にアムレート新聞には載らない。載るのは、騎士団の方だ。表舞台に出るのが騎士団だからである。魔術師団はあくまでも騎士団の補佐なのだ。その、謎に包まれている魔術師団の記事となると、人気が出るだろうとローザもリテア様も言っていた。目立つのは嫌だなぁ。
同級生達の卒業後はこんな感じだ。基本的に全員城に関わるわけである。不思議な縁もあるものだなと感じる。そのせいか、ほんの少し寂しさはあるものの、そんなに卒業するんだなという感覚はない。皆近くにいるのは安心がある。
「卒業式が、終わって、一ヶ月後に、式をやるんですよね」
「えぇ、そして五月から、私も魔術師団員よ」
今月は三月、式が四月だから、少し遅れて魔術師団に入る。セヘルが城に行くのは四月だ。
「城で、待ってます」
セヘルがにこやかに言う。彼と屋敷で過ごすのもあと一ヶ月か。まぁ、城で会うし、ソフィア様はいつでも帰っておいでって言っているので、屋敷でも結構な頻度で会うかもしれない。
馬車が学園に付く。卒業式の会場へ行くと、リテア様、ローザが待っていた。一般部も、魔術部も、卒業式は一緒だ。
「メリ! やっと卒業ね」
「えぇ、長かったですね」
「ほんっとよ、メリといたら気が休まらなかったわ」
す、すみません。問題ばっかり持ってきてしまって。
「でも楽しかった、城でもよろしくね」
「はい」
「ふふ、わたくしもよろしくお願い致しますわ!」
これは……魔術師団専属記者になれたのか。表情が晴れやかである。
「父様に言ったら大丈夫だってね」
「メリ様! わたくし頑張りますわ! メリ様の良さをアムレート中に轟かせますわよ!」
「目立ちたくはないんだけど……」
恍惚と語る彼女には、何を言っても無駄そうである。
私達は席に座り、卒業式が始まる。終わると、泣いていたり、また会おうと約束を交わしていたりと、学校だなと思える景色が広がる。私達はすぐに会うので、またねと手を振って別れるに留まった。
そんな感動……かもしれない、卒業式を終えると、すぐに四月がやってくる。
「ふふふー、お嬢様のメイクは私の一番の仕事ですね!」
「ティアラ、いつも以上に張り切ってるわね」
純白のウェディングドレスに、いつもより華やかなメイク。そして、お決まりのハーフアップである。立ち上がると、ドレスと一緒に髪がふわりと揺れ、人形感があるなと初めて感じた。
「私って本当に人形っぽいのね」
「今更ですよ」
メイクに使った道具を片付けつつ、ティアラは呆れたように言う。そして、カルデラ様を呼んできますねと笑った。
少し待つと、黒のフロックコートを着たカルデラが入ってくる。私は息を飲んだ、似合うとは思ってたし、基本何を着せても様になる容姿をしているのだが、いざ見ると直視できないカッコ良さがある。
「ちゃんと見てくださいよ」
「ちょっと!」
顔を逸らすと、グイッと正面に修正された。近いのよ。
「綺麗ですね」
「ア、アリガトウゴザイマス」
カルデラを見るだけで緊張する。こいつ、自分の容姿が良いことをまだ認識してないな。
「ふふ、そこまで緊張されると嬉しいですね、きちんと男として意識されているようです」
「意識しないわけないでしょ……かっこいいわよ」
軽く額にキスをされる。強くしないのはメイクを崩さないためだ。そして離れると、手を出される。
「では、メリを自慢しに行きましょうか」
「じゃあ、私はカルデラを自慢しに行くわけだ」
カルデラの手を取る。式場の前まで来ると姉様が待っていた。
姉様は私達を見ると手を振ってくれる。
「メリ、カルデラ様、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、サリサ嬢」
「ありがとう姉様」
三人で一礼する。ここに姉様がいるのは、私の入場付き添いのためだ。本来なら父親がこの役だが、私の場合父がどこにいるかも知らないし、姉様があいつだけは呼ばねぇ! と言ったので、姉様が代わりにやることとなった。
「では、先に式場で待ってますね」
「えぇ」
神父様の合図で扉が開く。カルデラがゆっくりと、赤いバージンロードを祭壇に向かって歩いていく。
それをずっと眺めていると姉様がこちらを向いた。
「まさかメリの花嫁姿が見られるとはね、カルデラ様には感謝しないと」
「私本人が一番驚いてるわ」
危険人物と言われて、一生出られない地下に入って、無理矢理出されたと思ったら、婚約者という鎖を付けられ、まさか結婚までいくとは。十二歳の時には想像もしてなかった。
「幸せになりなさいよ」
「充分幸せよ」
私の返しに姉様は優しい笑顔をうかべる。そして私が呼ばれたので、姉様と共にゆっくりとバージンロードを歩く。圧倒的に知らない人が多いが、皆祝福してくれていることは伝わってくる。その中に、何か懇願するような視線があるのは気にしないでおく、多分魔術師団の方々だ、カルデラやっぱり迷惑かけてるんじゃ……。
祭壇の少し手前で待っていたカルデラの隣に立つ。姉様から手を離し、カルデラの手を取る。前を向き、祭壇の前へと行く。立ち止まると、清らかに賛美歌が流れる。しばしそれを聞くと、神父様が祝辞を述べる。そして誓いの言葉。カルデラの名が呼ばれる。
「悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も、共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
次に私の名が呼ばれる。
「悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も、共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」
「誓います」
定例文ではあるが、この言葉には重さがあった。私達は、互いに話さないことも多い、結果的にから回るばかりだ。話すこと、愛するからこそ、支え合うことの難しいさを痛感した四年である。
そして、指輪の交換を言われる。ん……指輪って選んだかな。カルデラに言われて、婚約指輪は右手に付けたのだが、選んだ覚えがない。そんな私の不安を他所に、神父様は箱を取り出す。そして開けると、カルデラは私ににっこりと笑う。
「新郎から新婦へ」
私はおずおずと左手を出す。そこには、深い緑の宝石がはめ込まれた金枠の指輪がはめられる。宝石には詳しくないけど、それが高価なものであるのは理解した。ただの深緑ではない、赤やオレンジ、赤系の色に輝いている、宝石自体は緑なのにだ。
「スフェーンという宝石です、石言葉は純粋、永久不変です」
参列者に聞こえぬようカルデラが説明してくれる。それは、カルデラなりの結婚に対する想いなのだと受け取る。
「新婦から新郎へ」
私は同じ指輪をカルデラの左手薬指にはめる。永久不滅か、カルデラらしい宝石の選び方だ。
「誓のキスを」
カルデラが私のペールを上げる。カルデラを見上げると、いつも以上に優しいキスをされた。
後は神父様が、結婚成立の宣言をして、挙式は終幕する。カルデラと共に、赤いバージンロードを今度は、式場の外へ向けてゆっくり歩く。白い羽が舞、それは魔法では作り出せない幻想的な景色となった。
ティアラ渾身のお色直しが入り、エメラルドグリーンのカラードレスに着替える。髪型も変わり、ヘアーアクセを編み込んだ。編み込みハーフアップとなる。メイクはナチュラルだ。
「また印象が変わりますね」
「カルデラもだいぶ変わったわね」
カルデラは、シルバーのフロックコートを着ている。暗めではあるが、黒の時より光沢があり、華やかな印象だ。
「さて、お次は披露宴です、体力は大丈夫ですか?」
「問題ないわ!」
カルデラは頷くと、私の手を取り、披露宴会場へ向かう。会場は既にざわざわしている。人多いなぁ、挙式の時にはあまり気にしてなかったが、この騒がしい感じは、相当な人数だ。
「緊張しなくても大丈夫ですよ、私がいますから」
掴む手に力が込められる。私は握り返し、扉を見る。
扉が開き、中に入る。瞬間静かになり、視線が一斉に集まる。私は気にしないようにし、皆の前で止まる。改めて見ると、本当に人数が多い、これがクロム家というものか。ソフィア様が、司会者として簡単な自己紹介をし、私達を紹介する。そして、主賓あいさつのために、カルデラ側はマリア様、私側はリテア様が出る。まずは、マリア様がマイクを手に取った。
「カルデラ、メリちゃん結婚おめでとう、メリちゃんのことはリテアちゃんが言うだろうから、カルデラのことかしらね、私は政略結婚を認めなかったのちょっと後悔していたのだけれど、素敵な人を見つけてくれたから、結果的に良かったと思ってるわ、メリちゃん、カルデラったら敵作りやすいから大変だろうけど、これからも側にいてやってね」
マリア様がリテア様にマイクを渡す。
「まずは、カルデラ様、メリ結婚おめでとう、私が言えたことじゃないけど、メリは苦労したからね、これからも苦労するわよ、これはきっとじゃないわ、絶対ね! でも、私はメリ以外が魔術師団副団長になるのは認めないから、意地でもついてらっしゃい、カルデラ様、メリをこれ以上泣かせたら許さないんだから、ちゃんと守りなさいよ」
マイクをソフィア様に戻し、二人は席に戻る。そして、セヘルが前に出た。
「乾杯の、挨拶を、担当します、カルデラ様、メリ様、ご結婚おめでとうございます、あなた様方なら、何があっても、大丈夫でしょう、では、乾杯!」
セヘルの合図で会場内のざわめきが戻る。
私達は席に座る。座った瞬間、様々な方からお祝いの言葉を貰い笑顔で対応する。知らない人はきっとこれから関わる人なのだろうと推測する。名前覚えないとならないな。
「よぉ、カルデラ、嬢ちゃん、人多いなぁ」
「ヴァニイ様」
ある程度挨拶が済んだタイミングで、ヴァニイが来る。彼はスーツ姿だ。カルデラと違って、硬くても違和感がない、流石は従者。
「ラーダ家の一件ではお世話になりました」
「いいってことよ、俺もあいつはムカつくんでな、徹底的に調べてやった、いやー、おもしれーくらいだったぜ?」
人の不正を暴くのがそんなに面白かったですか……そんな言葉は飲み込む。
「とりあえず、結婚おめでとうな」
「ありがとうございます」
「やっとですよ、全く」
流石に友人相手ではカルデラも軽い。ヴァニイはまたなと言って、席に戻る。
そして、セヘルにローザとリテア様が来た。
「カルデラ様、メリ様、おめでとうございます」
「改めて、カルデラ様、メリ、結婚おめでとう」
「やっと結婚式ですわね、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます、セヘル、リテア様、ローザ」
ローザは写真機を持っている。魔力で写真と呼ばれる絵を作り出すもので、白黒ではあるが、その場の光景がそのまま、絵になるのは不思議である。今、研究所ではカラーにする研究が行われているらしい。
「ふふふ、記事はしっかり書かせてもらいますから、安心してくださいまし」
「お願いしますよローザ嬢、あ、メリの写真は後でくださいね」
「もちろんです!」
なんの取引をしてるんだか。この後この写真が、カルデラの部屋に飾ってあるのを知って驚愕したのはまた別の話である。
最後に来たのは、マリア様、ソフィア様、マーベスにクリアだ。
「カルデラ、メリちゃん、結婚おめでとう」
「おめでとう二人とも」
「兄さん幸せそうだね、結婚おめでとう」
「おめでとうございます、お二人とも幸せそうで何よりです」
私達は礼を言い、軽く頭を下げる。そして、マリア様、ソフィア様は私を見て、にこっとした。
「これでメリちゃんは、正式に家の娘だね」
「お母様、お父様って呼んでね?」
「お、お母様、お父様ですか?」
「うんうん、なんたって娘だからね!」
いきなりは難しいです……でも呼ばなかったら、訂正されるんだろうな。
一通り終わり、ケーキ入刀に入る。この文化もどこかの国から始まり、アムレートに伝わったものだ。アムレートって案外他国の文化取り入れてるわね。ウェディングケーキに二人で包丁を入れる。切り終わると、カルデラは私に、私はカルデラに、ケーキを口に運ぶ。うん甘い。
そこからは、お色直しが一旦入り、戻ってから、余興が入り、手紙の番となる。私が書くのだからもちろん姉様や友人たちに宛てたものだ。
「皆様この度は私達の結婚式に来て下さりありがとうございます、姉様、貴女にはご苦労をかけました、私は魔力のコントロールができず、十年地下におりました、その間カンボワーズの屋敷を守ってくれたのは姉様に他なりません。これからも苦労をかけるでしょう、こんな天真爛漫な妹ですが、これからも見守ってくださればと思います。そして、学園の友人達、あなた達にもたくさん迷惑をかけました、しかし、あなた達がいたからこそ、今の私があります。魔力もコントロールできました、これからもしっかり頼らせてもらいます、だから、よろしくね」
私はマイクを置く。今でもこの音の大きさには慣れないが、こういう場では重宝するものだ。
ソフィア様が改めて挨拶をし、今度はカルデラがマイクを取った。
「皆様、この度は私達の結婚を祝って頂きありがとうございます、今年からメリは魔術師団に入ります、私なんかより優しい子です、よろしくお願いします。そして、両親、マーベス、ヴァニイ、この場にはいませんがディウム、あなた達には迷惑をかけました、そして助けられました、この場を借りて礼を言います。まだまだ至らぬこともありますが、これからもよろしくお願いしますね」
カルデラはマイクを置く。挨拶の中にディウムの名が入ったのは、ヴァニイへの配慮なのか、いや、ミラフと仲直りしたがっているくらいだ、カルデラにだって情はある。本当に感謝しているのだろう。本来であれば、ディウムもミラフも呼びたかったはずである。それが叶わないのは仕方ないのだが。
こうして私達の結婚式は幕を閉じた。華やかで、鮮やかで、幸せなものだった。しかし、これは終わりではない、まだ始まったばかりなのだ。
「カルデラ、これからもよろしくね」
「えぇ、こちらこそ、よろしくお願いしますね、メリ」
私達は手を繋ぐ。そして前を見すえた。
やっとここまで来ました。
とりあえずここで一区切りです。
ただ、五章にもちゃんと後日談ありますよ!
さて、ここで改めまして、神々に愛されし者達を読んでくださった方々ありがとうございます!
魔術学園編は言わば仲間集めの編なので、確信に迫る話はディウム以降無い感じです、ここから神の申し子とはなんなのか、そして、マシーナ以外の現在名前が出ている二国について、触れていきます!
これからもどうぞよろしくお願い致します!




